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伊勢神宮を支えた千数百年(中編)

2020年02月13日 | 日本
(20年のサイクルの意味)
木造建築でも、法隆寺の五重塔のように千年以上もの耐久性を持たせる様式もあり、また古代日本にはそれだけの技術もあった。屋根を茅葺きではなく瓦葺きに変え、柱に土台をつけて漆を塗れば、はるかに長持ちする。

しかし、われわれの先祖は頑固に神代からの簡素な茅葺きと白木の神明造の様式を変えず、それを維持するために、わざわざ一定期間毎に建て替えるという大変な手間を千数百年も愚直に続けてきたのである。

それは先祖の確立した伝統的様式を大切に守っていこうという姿勢とともに、簡素で真新しい清浄な建物こそ神様にふさわしいという神道の感覚がある。伝統と清新という相矛盾する要求を同時に満たすのが、定期的な建て替えという世界でもユニークな手法だったのである。

20年という遷宮のサイクルは、宮大工が20代で下働き、40代で中堅、60代で棟梁となって、次の世代に技術をバトンタッチしていく上で最適なものとなっている。しかし鎌倉末期までは20年目の建て替え、すなわち満19年のサイクルであった。これには別の意味があったと推定されている。

古代の暦は太陰太陽暦と呼ばれ、太陰すなわち月の満ち欠けによって29日半を一ヶ月としたが、それが12ヶ月では1太陽年に11日足らないので、季節がずれていってしまう。これを調整するために、19年に7回、閏月(うるうづき)と言って余分な月をはさんだ。すなわち19年をめぐると、暦上の元日と太陽年の立春が重なる。この19年を「一章」と呼ぶ。

年末に大掃除をして、年の始めを清浄な家屋で迎える事によって、我々は清々しい気持ちとなり、新しい一年の希望に胸を膨らませる。それと同じ事を、古代人は一章の始まりにも感じていたのであろう。真新しく再建された神殿で新しい一章を迎えるというのは、我々が正月、清らかに清掃された神社に参拝して清々しい気持ちで一年を迎えるのと、スケールこそ違え、その根本は同じである。

(歴代治世者の伊勢神宮崇敬)
20年に一度の遷宮が制度として始められたのは、持統天皇4(690)年である。しかし、内宮、外宮だけでなく、別宮など多くの建物、さらにその中の帳や幌などの145種1075点の御装束、武具や楽器など53種863点の御神宝をすべて作り直すには、莫大な費用と労力、技術が必要である。

平安時代の中期には、社寺権門の荘園経営が盛んとなり、朝廷の財政は苦しくなったが、こと伊勢神宮の遷宮だけはきちんと国費を用意して、厳格に執り行った。

武家の世となって、鎌倉幕府を開いた源頼朝も伊勢神宮尊崇の念が厚く、「凡そ吾が朝六十余州は、立針の地(針が立つほどの狭い土地)と雖(いえど)も、伊勢大神宮の御領ならぬ所あるべからず」とまで言って、神宮の領地(神領)の保護に意を用い、鎌倉時代の8回の遷宮も確実に執り行われた。

次の室町幕府の時代になると、歴代将軍は何度も神宮を参拝し、八代将軍義政も遷宮のために関係諸国に役夫工米(労役提供の替わりに献上する米)の納入を命じたが、応仁・文明の乱の最中で、将軍の威令は地に落ち、応ずる者はなかった。

そのために遷宮は百年以上も行われず、神宮の荒廃が続いた。この時期が伊勢神宮にとって、もっとも危機的な時代であった。

(伊勢神宮を救った尼僧たち)
この危機を救ったのが、心ある尼僧たちであった。その一人、清順上人(せいじゅんしょうにん)は内宮も外宮も百年以上も遷宮が行わわれず、朽ち果てている惨状を深く悲しんだ。そこで、まず外宮の遷宮を再興しようと志して、天文20(1551)年、後奈良天皇の綸旨(りんじ、天皇のお言葉を記録した文書)を賜った。

これに将軍義輝からも直書きを貰い、清順上人はこれらを携えて、12年もの間、全国の大名豪族を回って寄進を募った。上人の熱誠に共鳴する武家や庶民も多く、永禄6(1563)年、足かけ130年も中断していた外宮の遷宮再興にこぎつけた。

清順上人の尼寺の後を継いだ周養尼(しゅうように)は、今度は内宮の再興を志して、同様に綸旨を賜って、勧進に努めた。幸い、織田信長と豊臣秀吉の大枚の寄進もあって、天正13(1585)年、内宮外宮の遷宮を行うことができた。内宮の遷宮は124年ぶりであった。

信長と秀吉とも神宮崇敬の念厚く、大枚の寄進をしただけでなく、秀吉は宇治、山田などの地域を神宮の領地として、免税と自治を認めた。この方針は徳川幕府にも引き継がれ、江戸時代には、遷宮の費用はすべて幕府が負担して、滞りなく執り行われるようになる。

---owari---

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