ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

大量殺人 野に放たれた野獣は

2016-11-27 12:10:01 | 日記
神奈川県にある障害者施設で、一挙に19人もの利用者が刺殺され
る陰惨な事件があった。この事件から4ヶ月が経った今、神奈川県が
設置した第三者検証委員会が報告書を提出した。

この報告書は、容疑者が入所者の大量殺害を示唆する犯行予告を
行っていた、とする情報を、施設側が県警から伝えられていたにも
かかわらず、危機意識の欠如から、施設設置者の県に報告していな
かった点を問題視し、「報告していれば被害を防止できた可能性も
否定できない」と指摘している。

産経は11月26日付の社説《相模原大量殺人 再発防止に資する
検証か》で、こうしたことに触れたうえ、次のように述べている。

県警は県の組織であり、県公安委員会の管理下にある。施設側の危
機意識を問う前に、県警から県へ直接の情報提供がなかった点を問
にすべきだろう。

この産経の指摘はもっともだが、容疑者に関する情報や、その共有の
仕方に関する議論は、言ってみれば、「野に放たれた野獣に、どうやっ
て網を掛けるのが適切か」に関する議論にほかならない。


そんなことよりも、もっと重要かつ根本的な問題として検討しなければな
らないのは、「どうすれば野獣を檻に閉じ込められるか」ということではな
いだろうか。

私が思い出すのは、チェーホフの短編小説『六号室』である。この小説
では、精神病院に勤務する医師が、ある特定の患者に異常な関心を寄せ
る心理過程と、それにつれてこの医師自身が周りから異常な人間と見な
されてゆく排斥のプロセスが描かれる。この医師は結局、精神病棟に放
り込まれてしまうのだが、これと同じ事態が起こってはならないだろう。

野獣の性癖を持たない人間が、風変りだというだけで、野獣のような危
険人物と見なされ、社会から排除されるようなことがあってはならない。

そういう事態が起こるのを防止するために設けられたのが、措置入院の
制度である。報道によれば、今回の事件の容疑者には、一度、この措置
入院の処分が下されたことがあったという。彼は数週間の入院の後、
「他者に危害を加える恐れがなくなった」と診断されて退院となり、結局
は野に放たれることになった。

この診断は正しかったのか。
今後、この種の事件の再発を予防しようと思うなら、措置入院に伴う入退
院の見きわめのあり方について、根本的な検討を欠かすわけにはいかない。

措置入院は自由の剥奪を結果し、人権の根幹に触れる措置であるため、
危険なものとして、ややもすれば敬遠されがちであるが、臭いものに
蓋をしてはいけない。この問題に真剣に取り組まない限り、同じような
残虐な事件は今後も後を絶たないだろう。
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