ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

熊本震災 デマと対策

2016-05-14 17:06:15 | 日記
震災にあえぐ熊本の、そのネット空間に悪質なデマが飛び交ってい
るという。
「朝鮮人が井戸に毒を入れた。」

これじゃ、あの関東大震災の時と同じじゃないか! 1923年のこと、
大地震に見舞われた関東地方で、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」、
「朝鮮人が暴動を起こした」というデマが流れ、対抗しようとした
一部の日本人が、多数の朝鮮人を虐殺したあの大事件である。

今回はまだそこまでは至っていないようだが、ネットで調べたとこ
ろでは、熊本のデマに関する私の直感は当たっていたようで、「こ
のデマは関東大震災の時の再現をねらって流されたものだ」という
見方もあったほどである。この見方が単なる憶測にすぎないのかど
うか、確たる根拠があってのことなのか、そのあたりは定かでない
が、「大震災」・「朝鮮人」・「井戸」・「毒」というキーワード
をつなげば、私でなくても、容易にたどりつく着地点がそれである
ことは否定できない。

ネットでこの記事を見かけたその日に、もう一つの記事が目に止まっ
た。(本ブログで前に取り上げたことのある)ヘイト対策法案が、参
院で可決され、衆院に送付されて、今国会で成立する見通しだという。
それならば・・・、と私は考えた。この新しい法律を活用して、熊本の
デマに有効な対策はとれないものか。

この法律は、在日朝鮮人など特定の民族に対して、社会的排除を目的
として行われる差別的言動を、防止するためのものである。熊本のデ
マは、在日朝鮮人への警戒心・敵愾心を煽り、朝鮮民族を熊本の社会
から排除しようとするものだから、こういうデマを流す行為は当然、
このヘイト防止法の取り締まりの対象となるだろう。

だが、ちょっと考えただけでも、事がそう簡単ではないことが分かる。
この法律を適用するには、まず、デマを最初に流した張本人を特定
しなけばならない。ログの解析からそれが可能だったしても、今度は、
その人物の当初の意図がどの程度にまで及んだのかを、つまり彼/彼
女の意図が及んだ範囲を確定しなければならない。

このことは、放火を例に取ると分かりやすいだろう。ある少年がある
家のゴミ置き場に火をつけたケースを考えてみよう。このケースでは、
その時の風向きや風の強さによってボヤで済むこともあれば、大火
になってしまうこともある。火をつけた当の少年は、その家の持ち主
を驚かして、煙草のポイ捨てを注意された腹いせをするつもりだった
のに、それが思わぬ大火になってしまったとしたら、どうだろう。こ
の大火がその家の隣近所を巻き込み、近所に住む身障者の老人を死亡
させてしまったとしたら、この老人の死亡はその放火犯の意図に含ま
れるのかどうか。

ネット上のデマは、風に煽られる炎と同じで、時に思わぬ気まぐれな
動きを見せる。情報の少なさが人々の不安をあおり、かえって行動に
勢いを吹き込むこともあるだろう。昔の関東大震災の時のように、デ
マが増幅して朝鮮人の虐殺に結びついた場合、この虐殺はデマの発信
者の意図にあったことと言えるのかどうか。「未必の故意」という概
念を適用して、この発信者を虐殺の張本人と断じたら、この解釈はそ
のこと自体が問題になり、危険な法解釈だと非難を受けかねない。

今国会で成立する見通しのヘイト対策法は、声高なデモ行進などの古
典的な言動には適用できても、ネット空間を利用した流言飛語のよう
な、当世風の言動に適用するには必ずしも充分でない。目配りの範
囲が狭すぎるのだ。もう少しブラッシュアップが欲しいところである。

議員のオジサン・オバサンたち、よろしく頼んますよ。

コメント
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