震災にあえぐ熊本の、そのネット空間に悪質なデマが飛び交ってい
るという。
「朝鮮人が井戸に毒を入れた。」
これじゃ、あの関東大震災の時と同じじゃないか! 1923年のこと、
大地震に見舞われた関東地方で、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」、
「朝鮮人が暴動を起こした」というデマが流れ、対抗しようとした
一部の日本人が、多数の朝鮮人を虐殺したあの大事件である。
今回はまだそこまでは至っていないようだが、ネットで調べたとこ
ろでは、熊本のデマに関する私の直感は当たっていたようで、「こ
のデマは関東大震災の時の再現をねらって流されたものだ」という
見方もあったほどである。この見方が単なる憶測にすぎないのかど
うか、確たる根拠があってのことなのか、そのあたりは定かでない
が、「大震災」・「朝鮮人」・「井戸」・「毒」というキーワード
をつなげば、私でなくても、容易にたどりつく着地点がそれである
ことは否定できない。
ネットでこの記事を見かけたその日に、もう一つの記事が目に止まっ
た。(本ブログで前に取り上げたことのある)ヘイト対策法案が、参
院で可決され、衆院に送付されて、今国会で成立する見通しだという。
それならば・・・、と私は考えた。この新しい法律を活用して、熊本の
デマに有効な対策はとれないものか。
この法律は、在日朝鮮人など特定の民族に対して、社会的排除を目的
として行われる差別的言動を、防止するためのものである。熊本のデ
マは、在日朝鮮人への警戒心・敵愾心を煽り、朝鮮民族を熊本の社会
から排除しようとするものだから、こういうデマを流す行為は当然、
このヘイト防止法の取り締まりの対象となるだろう。
だが、ちょっと考えただけでも、事がそう簡単ではないことが分かる。
この法律を適用するには、まず、デマを最初に流した張本人を特定
しなけばならない。ログの解析からそれが可能だったしても、今度は、
その人物の当初の意図がどの程度にまで及んだのかを、つまり彼/彼
女の意図が及んだ範囲を確定しなければならない。
このことは、放火を例に取ると分かりやすいだろう。ある少年がある
家のゴミ置き場に火をつけたケースを考えてみよう。このケースでは、
その時の風向きや風の強さによってボヤで済むこともあれば、大火
になってしまうこともある。火をつけた当の少年は、その家の持ち主
を驚かして、煙草のポイ捨てを注意された腹いせをするつもりだった
のに、それが思わぬ大火になってしまったとしたら、どうだろう。こ
の大火がその家の隣近所を巻き込み、近所に住む身障者の老人を死亡
させてしまったとしたら、この老人の死亡はその放火犯の意図に含ま
れるのかどうか。
ネット上のデマは、風に煽られる炎と同じで、時に思わぬ気まぐれな
動きを見せる。情報の少なさが人々の不安をあおり、かえって行動に
勢いを吹き込むこともあるだろう。昔の関東大震災の時のように、デ
マが増幅して朝鮮人の虐殺に結びついた場合、この虐殺はデマの発信
者の意図にあったことと言えるのかどうか。「未必の故意」という概
念を適用して、この発信者を虐殺の張本人と断じたら、この解釈はそ
のこと自体が問題になり、危険な法解釈だと非難を受けかねない。
今国会で成立する見通しのヘイト対策法は、声高なデモ行進などの古
典的な言動には適用できても、ネット空間を利用した流言飛語のよう
な、当世風の言動に適用するには必ずしも充分でない。目配りの範
囲が狭すぎるのだ。もう少しブラッシュアップが欲しいところである。
議員のオジサン・オバサンたち、よろしく頼んますよ。
るという。
「朝鮮人が井戸に毒を入れた。」
これじゃ、あの関東大震災の時と同じじゃないか! 1923年のこと、
大地震に見舞われた関東地方で、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」、
「朝鮮人が暴動を起こした」というデマが流れ、対抗しようとした
一部の日本人が、多数の朝鮮人を虐殺したあの大事件である。
今回はまだそこまでは至っていないようだが、ネットで調べたとこ
ろでは、熊本のデマに関する私の直感は当たっていたようで、「こ
のデマは関東大震災の時の再現をねらって流されたものだ」という
見方もあったほどである。この見方が単なる憶測にすぎないのかど
うか、確たる根拠があってのことなのか、そのあたりは定かでない
が、「大震災」・「朝鮮人」・「井戸」・「毒」というキーワード
をつなげば、私でなくても、容易にたどりつく着地点がそれである
ことは否定できない。
ネットでこの記事を見かけたその日に、もう一つの記事が目に止まっ
た。(本ブログで前に取り上げたことのある)ヘイト対策法案が、参
院で可決され、衆院に送付されて、今国会で成立する見通しだという。
それならば・・・、と私は考えた。この新しい法律を活用して、熊本の
デマに有効な対策はとれないものか。
この法律は、在日朝鮮人など特定の民族に対して、社会的排除を目的
として行われる差別的言動を、防止するためのものである。熊本のデ
マは、在日朝鮮人への警戒心・敵愾心を煽り、朝鮮民族を熊本の社会
から排除しようとするものだから、こういうデマを流す行為は当然、
このヘイト防止法の取り締まりの対象となるだろう。
だが、ちょっと考えただけでも、事がそう簡単ではないことが分かる。
この法律を適用するには、まず、デマを最初に流した張本人を特定
しなけばならない。ログの解析からそれが可能だったしても、今度は、
その人物の当初の意図がどの程度にまで及んだのかを、つまり彼/彼
女の意図が及んだ範囲を確定しなければならない。
このことは、放火を例に取ると分かりやすいだろう。ある少年がある
家のゴミ置き場に火をつけたケースを考えてみよう。このケースでは、
その時の風向きや風の強さによってボヤで済むこともあれば、大火
になってしまうこともある。火をつけた当の少年は、その家の持ち主
を驚かして、煙草のポイ捨てを注意された腹いせをするつもりだった
のに、それが思わぬ大火になってしまったとしたら、どうだろう。こ
の大火がその家の隣近所を巻き込み、近所に住む身障者の老人を死亡
させてしまったとしたら、この老人の死亡はその放火犯の意図に含ま
れるのかどうか。
ネット上のデマは、風に煽られる炎と同じで、時に思わぬ気まぐれな
動きを見せる。情報の少なさが人々の不安をあおり、かえって行動に
勢いを吹き込むこともあるだろう。昔の関東大震災の時のように、デ
マが増幅して朝鮮人の虐殺に結びついた場合、この虐殺はデマの発信
者の意図にあったことと言えるのかどうか。「未必の故意」という概
念を適用して、この発信者を虐殺の張本人と断じたら、この解釈はそ
のこと自体が問題になり、危険な法解釈だと非難を受けかねない。
今国会で成立する見通しのヘイト対策法は、声高なデモ行進などの古
典的な言動には適用できても、ネット空間を利用した流言飛語のよう
な、当世風の言動に適用するには必ずしも充分でない。目配りの範
囲が狭すぎるのだ。もう少しブラッシュアップが欲しいところである。
議員のオジサン・オバサンたち、よろしく頼んますよ。