映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

8 1/2 フェリーニ

2012-06-14 19:59:15 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「8 1/2」フェデリコ・フェリーニの映画史に残る作品を早稲田松竹で見てきました。

1965年キネマ旬報ベスト1でありオスカー外国映画賞だ。歴史的作品でありながらDVDレンタルはされておらず、少し前まではDVDすら売っていなかった。なかなか見るチャンスがなかった。ふと名画座でやっているのに気付く。
難解な作品との評判通りに、現実と夢想が交錯する映像に少々戸惑いました。


映画は渋滞の中に止められている車を映し出す。全く動けず、車の中ではみんな好き勝手なことをやっている。前方から来る車も動けない。そうしていくうちに車のルーフから外に飛び出るなんてシーンがいきなり画面に現れる。主人公の混迷する心理状態を表わしているのであろうか。。。?
人気映画監督である主人公グイド(マルチェロ・マストロヤンニ)が温泉地に行く。新作に向けての準備をしている。しかし、一向に進まない。心身ともに疲れている。クランクインしてお金ばかりがかかっている。そこには映画スタッフも役をほしがる美人女優たちも大勢いる。そして主人公に愛人(サンドラミーロ)が来る。ますます混乱する。そうしていくうちに妻(アヌークエーメ)も来るのであるが。。。


基調はこういうストーリーであるが、順を追ってうまく説明するのが難しい。見ていてもどれが現実で、どれが夢想なのかがわからない。起承転結がはっきりしているわけではない。
この映画は傑作とされる。しかし、一度見ただけでこの映画を理解することは困難だと思われる。それくらいさまざまな要素が絡み合っている。一瞥だけで分かる人はいないだろう。かなり映画を見ている人でも3回は最低見ないとこの映画を評することはできないと思う。
同じフェリーニでも同じく傑作とされる「道」とは違う重層構造だと思う。「道」のDVDはレンタル店でもかなりの頻度で借りられているくらい人気だ。実際単純でわかりやすい要素がある。でもこれは違う。

登場人物が多いというとロバートアルトマン監督の映画だ。彼の映画ほどの大人数ではないが、セリフを話す人は多い。しかも、登場人物がものすごい掛け合いで話しまくる。セリフが次から次へと連続する。早口のイタリア語がずっと続く。機関銃のようなセリフだ。配役全員がきっちりと演じながら正確なパスのようにセリフを発する。こんなに生きたセリフが続く映像は見たことがない。演技に緊迫感が出ている。凄い演出だ。圧倒される。
どれもこれも奇妙なセットだ。温泉浴のシーンは主人公を王様に例えたようなハーレムのようだ。鞭を打ったりSMクラブ的匂いもある。「道」を連想させる大道芸人が演じるサーカス的に見えるシーンもある。ロケット発射台を連想させる、鉄骨足場のようなものに階段がついているセットがある。このセットが中心になってクライマックスに持っていく。

マルチェロ・マストロヤンニは温泉場で出演を願望する女優達に囲まれる人気映画監督の役だ。モテ役を地で演じている。いくつかの映画で見せるシリアスな役よりも遊び人の役の方がいい。ここでの女優陣の美しさはすさまじい。時代の古さを全く感じさせない。クラウディア・カルディナーレをはじめとしたそんな美女たちも彼の前ではみんなイチコロだ。100年を超える映画史の中でこの役を演じられるのはマルチェロ・マストロヤンニしかいない。ローマ帝国の昔から受け継いだモテ人間の強いオーラがある。まさに適役といえよう。



蛇足だが
1965年キネマ旬報ベスト1ということで、本棚に向かいキネマ旬報全史を読み返してみた。メリーポピンズやサウンドオブミュージックやコレクターといった名作がある中で、どういう連中がこの映画に10点満点をつけたのかと。植草甚一、荻昌弘、淀川長治、双葉十三郎といった死ぬまでその名をとどろかせた評論家が10点をつけている。加えて、自分の大学時代に「映画論」を講義していた津村秀夫も10点だ。いずれも日本映画界を代表する人たちである。でも彼らはいったい何回この映画を見たのだろう。それぞれの著作を持っているが、植草甚一以外はどれも解説が中途半端だ。やっぱり難しい映画なんだよなあ。
単なる難しいだけの屁理屈じゃないのはわかった。普通の神経ではこの映画はつくれない。
究極の映画を堪能するために何回か見てみよう。

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2 コメント

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Unknown (talk_to_keijiro)
2021-01-07 03:45:51
これは記念碑的秀作で、
私は、
私見ですけど、
歴史的名作10本の一つに入れてます。

企画が思うように行かない主人公の焦燥を軸に、
現実と幻想と過去のトライアングル構成から、
これらが渾然一体となるラストシーンに、
涙が出ました。
81/2の完成度は凄まじく、
後々に、
ボブ・フォッシーの「オール・ザット・ジャズ」
ウッディ・アレンの「スターダスト・メモリー」
チャーリー・カウフマンの「脳内ニューヨーク」に至るまで、
呪縛と影を交えて影響を与えた、
真実の大傑作だと、
記憶しています。
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Unknown (wangchai)
2021-01-09 08:16:57
コメントありがとうございました。

改めてこの映画を見る機会がその後なく、自分の感想はブログ記事の域を超えません。一回みただけでは、この映画の素晴らしさを語れないのかもしれません。

家にある昔の映画評論家双葉十三郎と津村秀夫が書いた評論本で見直しましたが、ある意味フェリー二の自叙伝的な要素を持つということできっとこういう美女にモテモテだったのかなと想像しました。
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