史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

「幕末の外交官 森山栄之助」 江越弘人著 弦書房

2010年01月10日 | 書評
吉村昭の小説「黒船」「海の祭礼」のあとに書かれたもので、随所に吉村作品への反論が見られる。たとえば、堀達之助が投獄された事件については、森山栄之助が関与した証拠はないと控えめながら弁護している。
著者が本書で本当に訴えたかったことは、海外列強の植民地となる危機を、当時の指導者(阿部正弘、堀田正睦、安藤信正)や外交官(川路聖膜、永井尚志、井上清直、岩瀬忠震、水野忠徳、堀利煕そして森山栄之助ら)の必死の努力によって乗り越えたことをもっと評価すべきということであろう。
後世、悪評の高い「治外法権」と「関税自主権」についても、当時もし外国人を日本人が裁いて、外国人を牢舎へ収容するようなことがあれば、穢れた夷狄を神州に招じ入れたと非難轟々となるだけで、外国人を日本人が裁かないということは当時の日本の常識だったという。関税については、一律5%という植民地並の屈辱的関税が課されたのは、長州藩による外国船砲撃事件とそれが誘因となった四カ国連合艦隊との、いわゆる馬関戦争の結果、莫大な賠償金に替えて関税を引き下げられた結果だという。著者はいう。
――― 後日、明治政府が関税自主権の回復に躍起となったのは、そもそも攘夷派であった彼らが、ことごとに日本を不利な立場に追い込んでいったもので、いわば、自分たちで火を付けておいて自分たちで火を消しているようなものであった。
 ――― 今こそ、幕府のしたこと、明治政府のしたことなど、冷静に公平な眼で探っていかなければならない。
攘夷派や明治新政府にも言い分があるかもしれないが、著者の主張には十分説得力がある。少なくとも幕末の幕府外交団の努力はもっと評価されて然るべきであろう。

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2 コメント

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Unknown (鳴門舟)
2010-01-11 07:01:25
いそがしい仕事の合間の読書にコメント、それに
史跡探索、まったく頭が下がります。
 コメント後半の感想、まったく同意です。

 昨今の日米の外交、裏取引があったとか、なかったとか。
 思うに、アメリカは植民地とは言わないまでも、そういう形で日本を考えている、支配している気がしますね。
 森山は現在の外交をどう見るでしょうか。
 
 
Unknown (植村)
2010-01-12 23:09:13
鳴門舟様

あまりメジャーな本ではありませんが、この本は一読の価値があると思います。「外交」とか「国益」を考える立場の方には一度読んでもらいたいですね。

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