司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

会社分割による株式の承継と株式会社の承認の問題

2008-06-15 15:52:14 | 会社法(改正商法等)
 月刊登記情報2007年3月号に、松本真法務省民事局付検事・清水毅同局付「商業登記実務のための会社法Q&A(7)」があり、会社分割と株式の譲渡承認に関して、次の一節がある。

 「譲渡制限株式制度(会社法2条17号参照)における「譲渡による取得」に一般承継による取得を含まないものとする趣旨(Q1参照・本誌543号26頁)に照らしても、会社分割によって譲渡制限株式が承継される場合をことさら「譲渡による取得」から除外する理由はない。したがって、ここにいう「一般承継」には、会社分割による承継が含まれないことは明らかである。」

 本問は、吸収分割会社が有する資産である「他の株式会社の株式」を、吸収分割により、吸収分割承継会社に承継させることが、「譲渡」であるのか、「一般承継」であるのか、すなわち当該株式が譲渡制限株式である場合に、譲渡承認の対象となるのか、あるいは相続人等に対する売渡し請求の対象となるのかという問題である。

 「譲渡」とは、意思表示、すなわち契約に基づく移転行為を意味する。吸収合併や吸収分割も契約によるわけであるから、「譲渡による取得」に含める余地がないとは言えない。しかし、その契約は、株式の譲渡を直接の目的とするものではなく、吸収合併又は吸収分割の効果として株式が移転するわけであるから、正しく一般承継であって、「譲渡」には含まれないと従来解されていた。上記解説のように、吸収分割による株式の取得を「譲渡による取得」と解するのであれば、吸収合併による場合も同様に解すべきことになる。

 また、登記情報の解説(543号26頁)の論旨は、相続や合併の場合は「従前の株主が存しなくなる」から承認不要とすべきというだけである。会社法の立案過程において、議論がされたものの結局、株式の移転一般に株式会社の承認を認めることとはせず、「譲渡による取得」についてのみ承認の対象とする取扱いを維持し、「相続その他の一般承継」については、定款の定めによる売渡し請求という制度を新設したものであることに鑑みても、会社分割による承継を「譲渡による取得」に含ませるのは不合理であろう。

 会社分割は、組織法上の行為であり、これによる株式の承継は、株式の譲渡を直接の目的とする契約に基づくものではないので、やはり「相続その他の一般承継」に含まれると解さざる得ないであろう。従来の解釈を変更するのであれば、「譲渡」「相続その他の一般承継」に代わる区分を立法で手当てすべきであり、そうでなければ実務は混乱する。
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7 コメント

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難問 (考える人)
2008-06-16 02:04:13
吸収分割では、株式が移転すると言っても株主が移転するのではなく、自己株式が移転するのみではないでしょうか。
とすれば、自己株式を移転するか否かは分割会社の意思によるのであり、移転する権利義務に当然に付随するものではないことになります。よって、吸収分割での自己株式移転の部分のみに着目すれば、それは「自己株式の譲渡を直接の目的とするもの」に限りなく近いと言えそうです。
したがって、吸収分割による承継は一般承継に含めるべきではないと考えます。
また、吸収分割と吸収合併が別の制度として存在することからも、このような違いを残すべきではないでしょうか?
なぜなら、法人格が残るか否かの違いが、この部分にさえ現れないならば、どちらか一つの仕組みがあればよいことになるからです。

なお、一つ前の記事の二重譲渡に関しても、上記の分割と合併の違いや、B と C の保護の要請が同等であることに鑑みて、二重譲渡で処理するほうが公平であると考えます。もちろん事案によっては却って不公平なものも有るでしょうが、それらは個々に権利濫用理論などによって対応すべきものと思われます。
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ご回答 (内藤卓)
2008-06-16 10:13:31
 自己株式の移転ではなく、本問は、吸収分割会社が有する資産である「他の株式会社の株式」を、吸収分割により、吸収分割承継会社に承継させることが、「譲渡」であるのか、「一般承継」であるのか、すなわち当該株式が譲渡制限株式である場合に、譲渡承認の対象となるのかという問題です。

 会社分割は、一般承継でありながら、「譲渡」に類するものであり、これらのように特殊な問題を孕んでいます。しかしながら、従来の解釈を変更するのであれば、「譲渡」「相続その他の一般承継」に代わる区分を立法で手当てすべきであり、そうでなければ実務は混乱します。
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お礼 (考える人)
2008-06-16 11:26:53
ご回答ありがとうございます。

自己株式が移転する「のみ」と書いてしまったこと、すみませんでした。しかし、分割会社が有する他社の株式の移転についても同様のことが言えると思います。
ただ、先生はそのことも察知されて「立法で手当てすべき」とされており、そのことについて異論はございませんので、これ以上のご回答などのお気遣いは無用です。

素人に対しても誠実なご対応、重ねてありがとうございました。
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ご回答② (内藤卓)
2008-06-16 11:33:53
 ご指摘の後段に関しては、会社分割が企業グループ内での再編に利用されることが一般である点に鑑みて、BとCの要保護性は同等ではなく、私見のような整理(Bからの転得者が現れた場合にはじめて対抗関係となる。)が妥当性を有するように考えます。
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なるほど! (考える人)
2008-06-16 12:32:52
度々のご回答ありがとうございます。

なるほど、企業グループ内での再編ならば転得者と対抗関係になるとするのが妥当ですね。そうなると、グループ内と言えるかどうかの判断基準も必要になりますね。
ルール作りって大変なものなのですね。
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ご指摘のとおりですね (としお)
2008-06-16 13:13:56
1年前の登記情報記事であるにもかかわらず、先生が、なぜ、いまこの時期に着目されていらっしゃるのかは不明ですが、『「相続その他の一般承継」に含まれると解さざるを得ないであろう』というのは、まさにご指摘のとおりだと思います。
ちなみに、私の場合は、この記事による解釈を無視して、実際の実務手続を実行しています。
分割型分割の場合では、当事者関係事情から、株式譲渡制限の承認を得るのは、実務上、比較的容易なことが多いのですが、第三者会社の株式譲渡承認(ほとんど取締役会承認)を得るのは、実務上、説明が困難なことが多いという事情もありますので。
会社分割後に、株主名簿書換請求も問題なく受け入れられますから、実務上の障害発生可能性は低いと判断しています。
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なぜ、いまこの時期に (内藤卓)
2008-06-16 15:48:48
 ブログで取り上げていないところをみると、読み落としていたんでしょうね。しかし、最近気が付いて、見逃せない論点なので、1年3か月遅れですが、取り上げました。
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