数次相続が発生して最終の相続人が一人である場合の,いわゆる「ひとりでも遺産分割」の登記実務における取扱いについて,大阪法務局管内においては,最終の唯一の相続人が次のいずれの書類を作成して相続登記の申請をする場合であっても,当該登記の申請を受理しない,ということで統一されることとなったそうである。
(1)遺産分割決定書
(2)遺産分割協議があったことの証明書
(3)特別受益があったことの証明書
1.いわゆる「遺産分割決定書」の否定に関して
永年積み重ねられてきた実務慣行と言うべき取扱いを突然変更する合理的理由に欠けるように思われる。「一人では決定することができない」が理由とされているようであるが,数次相続の事案においては,最終の相続人が複数である場合も,各相続人は,複数の立場を併有しているわけであり,最終の相続人が単独である場合と何ら変わるところはない。最終の相続人が単独である場合の「遺産分割の決定」が否定されるのであれば,最終の相続人が複数である場合にも同様に否定されるべきことになるが,そのような見解は示されていないようであり,平仄が合わないというべきである。
また,本件に関する訴訟は,未だ最高裁に上告受理申立てがされている段階であり,最終的な司法判断が下されているわけではない。そのような段階で実務慣行を変更することは,妥当ではないと言うべきである。
2.いわゆる「遺産分割協議証明書」の否定に関して
この取扱いの変更に関しても合理的理由がないと思料する。遺産分割協議の法的性質は,ある意味「諾成契約」であり,被相続人甲の相続(相続人は,妻乙と子丙)について遺産分割に関する合意が整いながら,遺産分割協議書を作成する前に,被相続人甲の配偶者乙が亡くなったという場合も,乙丙間の遺産分割協議は有効に成立しているのである。これを証明することができるのは,唯一の相続人である丙のみであるわけであるから,丙作成の「遺産分割協議証明書」を添付して行う登記の申請も当然に受理されるべきである。
なお,相続税の申告の実務においても,同様のケースにおいて,丙作成の「遺産分割協議証明書」を添付して申告が行われ,「配偶者の税額の軽減の特例」や「小規模宅地等の特例」等の利用がされている。これらの特例の利用に関しては,「遺産分割があった」ことが前提であるため,丙作成の「遺産分割協議証明書」が添付書面として利用されているが,これが否定されることなると,相続税の申告の実務に甚大な影響を及ぼし,大混乱となるは必至である。「遺産分割協議証明書」に関する実務慣行を否定するのであれば,国税庁との調整を行うべきである。
3.いわゆる「特別受益証明書」の否定に関して
「特別受益証明書」については,従来より適切でない利用がされてきたと言われているところであるが,特別受益の事実が現にあったのであれば,それを証する書面を添付して登記の申請を行うことは,当然に認められるべきである。「一人では証明することができない」のみが理由であるとすれば,これを否定することは妥当ではないと言うべきである。
4.結びに
永年積み重ねられてきた実務慣行を否定するには相当の合理的理由が必要であり,いずれの事案に関しても,合理的理由に欠けると思料する。登記実務の取扱いは,法的安定性と具体的妥当性を兼ね備えたものであるべきであるから,合理的理由もなく永年積み重ねられてきた実務慣行を覆すべきではないと考える。
cf. 平成26年9月24日付け「数次相続の結果,最終の相続人が1人となった場合の相続登記」
なお,父の死亡後3か月以内に母が死亡したというケースにおいては,子は,母の死亡後3か月以内であれば,母に代わって父の相続について相続放棄をすることができる。実体如何にかかわらず,この方法を使えば,子は,父の相続について直接,単独で登記名義を取得することができる。テクニカルな方法ではあるが,登記所が実体どおりの登記の申請を受理しないのであれば,この方法を使わざるを得ないであろう。
(1)遺産分割決定書
(2)遺産分割協議があったことの証明書
(3)特別受益があったことの証明書
1.いわゆる「遺産分割決定書」の否定に関して
永年積み重ねられてきた実務慣行と言うべき取扱いを突然変更する合理的理由に欠けるように思われる。「一人では決定することができない」が理由とされているようであるが,数次相続の事案においては,最終の相続人が複数である場合も,各相続人は,複数の立場を併有しているわけであり,最終の相続人が単独である場合と何ら変わるところはない。最終の相続人が単独である場合の「遺産分割の決定」が否定されるのであれば,最終の相続人が複数である場合にも同様に否定されるべきことになるが,そのような見解は示されていないようであり,平仄が合わないというべきである。
また,本件に関する訴訟は,未だ最高裁に上告受理申立てがされている段階であり,最終的な司法判断が下されているわけではない。そのような段階で実務慣行を変更することは,妥当ではないと言うべきである。
2.いわゆる「遺産分割協議証明書」の否定に関して
この取扱いの変更に関しても合理的理由がないと思料する。遺産分割協議の法的性質は,ある意味「諾成契約」であり,被相続人甲の相続(相続人は,妻乙と子丙)について遺産分割に関する合意が整いながら,遺産分割協議書を作成する前に,被相続人甲の配偶者乙が亡くなったという場合も,乙丙間の遺産分割協議は有効に成立しているのである。これを証明することができるのは,唯一の相続人である丙のみであるわけであるから,丙作成の「遺産分割協議証明書」を添付して行う登記の申請も当然に受理されるべきである。
なお,相続税の申告の実務においても,同様のケースにおいて,丙作成の「遺産分割協議証明書」を添付して申告が行われ,「配偶者の税額の軽減の特例」や「小規模宅地等の特例」等の利用がされている。これらの特例の利用に関しては,「遺産分割があった」ことが前提であるため,丙作成の「遺産分割協議証明書」が添付書面として利用されているが,これが否定されることなると,相続税の申告の実務に甚大な影響を及ぼし,大混乱となるは必至である。「遺産分割協議証明書」に関する実務慣行を否定するのであれば,国税庁との調整を行うべきである。
3.いわゆる「特別受益証明書」の否定に関して
「特別受益証明書」については,従来より適切でない利用がされてきたと言われているところであるが,特別受益の事実が現にあったのであれば,それを証する書面を添付して登記の申請を行うことは,当然に認められるべきである。「一人では証明することができない」のみが理由であるとすれば,これを否定することは妥当ではないと言うべきである。
4.結びに
永年積み重ねられてきた実務慣行を否定するには相当の合理的理由が必要であり,いずれの事案に関しても,合理的理由に欠けると思料する。登記実務の取扱いは,法的安定性と具体的妥当性を兼ね備えたものであるべきであるから,合理的理由もなく永年積み重ねられてきた実務慣行を覆すべきではないと考える。
cf. 平成26年9月24日付け「数次相続の結果,最終の相続人が1人となった場合の相続登記」
なお,父の死亡後3か月以内に母が死亡したというケースにおいては,子は,母の死亡後3か月以内であれば,母に代わって父の相続について相続放棄をすることができる。実体如何にかかわらず,この方法を使えば,子は,父の相続について直接,単独で登記名義を取得することができる。テクニカルな方法ではあるが,登記所が実体どおりの登記の申請を受理しないのであれば,この方法を使わざるを得ないであろう。
漠然と「先例」と書かれても,確認のしようがありませんよ。
‘相続人からの過去の事実証明’を否定するのであれば、他の登記実務に影響を及ぼしそうですね...
私もはや老耄の身で、論理的に突っ込めないのですが、東京地裁の昨年3月の判例に比べて、大阪法務局のは乱暴という感じがします。
この問題は多数の付帯関連する諸問題と整合的に論理的に解決する必要のある大問題であると考えます。
直接子の立場で放棄をすれば,当該先例の射程が及ぶという面はあるのかもしれませんね。