てつりう美術随想録

美術に寄せる思いを随想で綴ります。「てつりう」は「テツ流」、ぼく自身の感受性に忠実に。

タワー狂想曲(1)

2010年04月01日 | その他の随想

京都タワー(2009年6月18日撮影)

 最近、建設中の東京スカイツリーなるものが東京タワーの高さを超えたという。

 一時期は来場者の数も落ち込んでいた東京タワーが、小説や映画の舞台となったことで人気を盛り返したらしく、連日多くの観光客が訪れているらしいことは報道で知っていた。しかしその一方で新しい電波塔が、東京タワーの倍近い高さまで聳えるべく着々と建設が進められていたとは、関西在住のこちらとしてはごく最近まで知らなかったことである。いったいいつの間に、というのが正直なところだろう。

 ナントカと煙は高いところが好きだというが、別に日本一高い建造物ができたというぐらいで、東京から遠く離れた地域ではさしあたって関係のない話だ。だいたいまだ完成していないのだから昇れるわけでもないのだし、各テレビ局がこぞってスカイツリーの話題を取り上げているのが不思議ですらあるけれど、こういった新名所は目新しいうちが花であって、何年もすれば誰も一顧だにしなくなる可能性がないとはいえない。

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 大阪でいえば17年前にできたスカイビルは、その斬新な外観と吹きさらにしなった展望台「空中庭園」とが大変な人気を集め、エレベーターを待つ長い列が絶えなかったものだが、今ではそれほどのこともない。梅田の中心部にある商業施設にできた赤い観覧車はこれまでのキタの景観を一変せしめ、ぼくも何度か列を作って乗りにいったが、ここ数年はすっかり足が向かなくなってしまった。ましてや、旧朝日放送の敷地内にあった大阪タワーが昨年末にひっそりと撤去されたことなど、地元でも知らない人が多いのではなかろうか。大阪でいちばん有名なタワーであるところの通天閣には、ぼくはまだ一度も昇ったことすらないのである。

 京都には去年まで住んでいたし、今でも月に一度は出かけるが、京都タワーに昇ったことは後にも先にも1回しかない。東京の日本武道館と同じ建築家によって手がけられたこの異色の塔は、さまざまな景観論争などもあったようだが今では京都の街並みに馴染んでいると思う。ただ、いざ塔の内部に入ってみると何だか古びていて薄汚く、がっかりした思い出がある(だいぶ前の話なので、今ではもうちょっときれいになっているかもしれない)。それにしても、具体的にどんな施設だったのか、まったくといっていいほど印象に残っていないのは驚きだ。

 20年前に花の万博が開かれた鶴見緑地には「いのちの塔」と名づけられた展望タワーがあって、たった200円で昇ることができるが、現在では大阪の名所にすら数えられていない。そうかと思うと、大阪府の知事はかつてコスモタワーと呼ばれたWTCに府庁の機能を移転させようとしている(WTCとはワールド・トレード・センターの略だが、あのニューヨークの同時多発テロのことを思うとまことに不吉な名前だという気がする。これは偶然の一致ではなく、同じ名前のビルやタワーが世界各地に建っているのだそうだ)。いずれにせよ、関西だけでも数多くの塔状建築物があり、それらがたどる運命もまたさまざまのようである。

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