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コージーミステリを読み耽る愉しみ その29 歴史と秘密のホテル・シリーズ(オードリー・キーオン著)

2024年03月26日 | 読書雑感
第2話『新米フロント係、支配人を憂う』では、アイヴィーが信頼と尊敬をささげている支配人のフィグが殺人犯として逮捕される。第1作ではアイヴィーが心を寄せているシェフのジョージが容疑者として拘留され、今回は支配人に容疑が掛かる。アイヴィーと関係が深い人物が容疑者になるというのがシリーズのお決まりらしい。ということは、第3話では父親かホテルのオーナーであるクラリスタが容疑者になるのかな。今回は墓石愛好会というサークルが年に一回の勉強会を開催するためのホテル1911に揃って宿泊することとなった。しかも、メンバーはホテル敷地内にある墓石も研究するらしい。施設内に墓石があるということは、祖先のお墓が施設内にあるということになることをアイヴィーは知って驚く。庭園に置いてある彫刻が実はアイヴィーの曽祖父と曾祖母の墓石なのだとホテルのことならなんでも知っている支配人が教えてくれた。それでは、身を持ち崩しこの豪邸を手放さなくてはならなくなった祖父と祖母のお墓も施設内になるのかと気になってくるアイヴィー。神経系の病気を抱えながらもこのホテルでアイヴィーが働く理由の一つは自分の祖先たちに関する情報を得るため。その手掛かりが身近にあったことを墓石愛好会が教えてくれた。良いことばかりではない。今回の事件は、墓石愛好会のメンバーの一人が殺されて起きる。事件発生時、メンバー全員は施設内の墓石巡りをしているところで、殺人事件があったスイートに上がることができたのはフロントに詰めていた支配人のフィグだけという状況証拠で警察に拘束されてしまう。有能この上ない支配人を失ってホテル運営は危機に。穴埋めのために予定外のシフトをこなしつつ、アイヴィーは敬愛する支配人のために真相究明に取り組む。

直前まで読んでいたのがアガサ・レーズンのシリーズだったため、スピード感溢れる特急列車から各駅停車に乗り換えたかのようなスローな物語進行に戸惑った。パニック障害を患う主人公のように、一歩一歩こわごわと着実に歩を進めるのがこのシリーズだ。それでいた妄想と紙一重の推理に基づいた行動が続くので、あっちこっちに振られる。それを地道に一歩一歩着実に踏み進めていくのだから、なかなか興が乗らない。半分を過ぎた頃からやっと面白さが出てくる。フィグが持っていた昔邸宅だったころの古い設計図があったことをアイヴィーが思い出し、設計図面から殺人が起こったスイートに行ける秘密の通路がないかと探ったところ、かつて使われていた料理用エレベーターがスイートルームのクロゼット奥にあることを発見。しかも、そこには急いでいた犯人が残したと考えられる衣服の切れ端が残っていた。それに、墓石愛好会のメンバにはそれぞれ何らかの不審ごとを抱えている。殺された女性の同伴男性は、愛好会メンバーである女性企業家出資者で、殺された女性はその会社の従業員だという。職場内での諍いかとも域や、企業家は被害者の姉だった。しかも、被害者が働きだす前にそのポストに就いていたのが同伴男性の前妻。どうも被害者が前妻の仕事を奪っただけではなく、愛人の地位も得たらしい。そんなこんなで関係者全員が犯人であってもおかしくない状況の中、事件にかかわりなさそうな老婦人2名のうちの1名が犯人であることが判明。はるか昔、大学時代に論文の課題テーマを盗まれた恨みを晴らすべく犯行に及んだのだった。被害者の同伴男性がその女性から研究テーマを盗み、それ以来学会で出世街道を幕臣。盗まれた女性はさえない高校教師として長年勤めていたのだが、夫に去られる事件からすべての不幸の始まりであった研究テーマ盗用を許せなくなり、今更ながらだが復讐の鉄槌を下した。殺された女性は、不法労働者が雇用することで会社の金を着服し、それを上司である経営者の夫に貢いでいたと言うドロドロの関係が明かされるのだった。

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20世紀初頭にアメリカ大富豪が建てた屋敷を改装して営業しているブティックホテルがテネシー州の東南部のチャタヌーガーにある。古き良き時代の南部を思わせる佇まいに魅せられたオーナーは、富豪一族が残した1911年撮影の写真の通りの装いとマナーとを従業員にさせることで時代趣味を徹底させている。フロントデスクの上には1911年の新聞が毎日印刷されて置かれている。そして、「ホテル1911」というのがこのホテルの名前。このホテルのフロント係として働いている28歳女性、アイヴィー・ニクルズがこのシリーズの主役。第1話は『新米フロント係、探偵になる』。アイヴィーはパニック障害を抱えているために大学を休学せざるをえなくなり、ホテルで働いている今でも、いつ発作が起きるかどうかを心配しながら綱渡りのような日々をおくっているという28歳だが、実はこのホテルを建てた富豪モロー家の末裔。自らのルーツであるこの屋敷を改装したホテルで働けることを誇りとしつつ、幼き頃に失踪した母の面影をホテルにだぶらせている。そんなアイヴィーが働いていた週末に、甲殻類アレルギーを持つ老婦人が食事中に死亡すると言う事故がおきる。警察が調査したところ、アナフィラキシーショックであることが分かり、有能シェフは拘留されてしまう。アイヴィーにとって幼馴染で、心理的に不安定なアイヴィーが心から信頼できる数少ない友人の一人を救うために、素人探偵として事件究明を心に誓うアイヴィー。当然のこととして、その日の宿泊者全員が容疑者候補。フロント係という立場を利用して部屋に出入りして、怪しい品々を探し出す。殺された老婦人は食品会社のオーナー社長で、いい年をしている一人息子を差し置いて今でも社業を取り仕切っている。夕食テーブルで被害者ときつい言葉のやり取りをしたもう一人の老婦人ローズも訳ありげで怪しい。一見非の打ちどころがなさそうな完璧マナーの一家4人家族、一人で滞在している実業家のヘマル、もちろん被害者の一人息子ジェフリーも遺産相続を考えると重要な容疑者だ。見つけた怪しい点を警察に届けるものの、警察はアレルギーが原因であることからシェフの有罪を信じてこれ以上の捜査をしてくれそうもない。捜査に一層の熱が入るアイヴィー。ジェフリーが郊外に土地を購入し、そこで違法なことをやっていることを見つけるアイヴィー。土地購入の取引を承認するかどうか決めるために被害者がわざわざシカゴから南部の街へ来ていた最中の事故である以上、土地購入を邪魔されたくない息子の容疑が濃くなる。そしてその近隣の土地を高級住宅地として開発して販売しようと計画しているヘマルにとって、ジェフリーの動物飼育施設は邪魔もの以外の何物でもない。ここに怪しい。その上、もう一人の老婦人ローズはジェフリーと恋仲のようだ。結婚に反対する母親に消えてもらうことができれば好都合。こんな風に、アイヴィーは次々と怪しい点を見つけていくのだが、これらは妄想と紙一重といってもいいくらい。ここにパニック障害という心の病を抱える主人というキャラクターがダブってくる。真犯人はホテルに出入りしている野菜製造所の従業員。ジェフリーの動物飼育施設によりオーガニック野菜栽培が不可能となる大打撃をこうむる農場経営者に恋している従業員が、海老のエキスを吸わせたじゃがいもをホテルに届けて調理させたというトリックだった。
妄想と紙一重の推理、そして大袈裟な譬えがこのシリーズの特徴と見える。例えば、
いっぽうジェフリー・スウェインは表面がでかってすり減ったタイヤのようだ。
ジョージはラクダ並みの辛抱強さと六人の子を持つシングルマザーの野心を兼ね備えている。
ボタンをとめ、一点の曇りもなく清潔で、おそらく手の込んだマスタードを食べている類の子供たちだ。
わたしは午前10時にツートンカラーのナメクジのようにベッドから這い出した。


分からなくはないが、イメージを思い浮かべるのに苦労する比喩であることが多い。その上、ユング心理学に多大な興味を有し大学で心理学を学んでいた人物として、ユング心理学をところどころにちりばめている。
ミズ・スウェインのふくれあがった自尊心と特別扱いへの期待について考えた。カール・ユングなら典型的なナルシシズムと言うだろう

ローズは殺された老婦人の息子と恋仲なのではなく、殺された老婦人と女学校時代からの友人であり恋仲だったと告白する。二人の恋は実らず、ローズは恋を心の奥底にひそめたまま独身を貫いたが、アメリアの方は結婚して子供を作った。2人の生き方をローズはこう言う。
「わたしは社会に背いた。アメリアは自分の心に背いた」

コメント
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