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コージーミステリを読み耽る愉しみ その2 お菓子探偵シリーズ(ジョアン・フルーク著)

2022年06月24日 | パルプ小説を愉しむ
「高校のときからずいぶん変わりましたからね。髪は薄くなったし、体に脂肪はついたし、智慧もついたと思いたいですが」

ハンナな水から上がってあえぐ魚を見ていた。リサとミシェルはまさにそんな様子だった。口を開けて目を見開いている。床をのたうち回ってこそいなかったが。

上は数十年ぶりで再会した相手に、自分の見た目が老けて変わったことをユーモア交えて自虐的に伝えているし、下は二人が驚きのあまり言葉を逸している様子を描写している。それなりに魅力的な言葉遣いではある。しかしながら、お茶と探偵シリーズや優しい幽霊シリーズと一緒に読み進めていると、このお菓子探偵シリーズには堅苦しさを感じてしまうのだ。

『デビルズフード・ケーキが真似している』はシリーズの第14話。1話と3話の2冊からはだいぶ跳んでしまっている。ミネソタ、それはアメリカの片田舎でも物語。地元民に愛されているクッキー・ベイカリーを営む主人公、ハンナが殺人事件を追っかけて解決するコージーミステリだが、場所がミネソタである以上歴史的由緒正しい建造物や宝飾品や芸術品が登場することはない。ジュエリーが登場するのは、盗難事件の獲物としてのみ。そんな質実剛健で地に足の着いた生活を送っている中流の人々の日々の暮らしの中でも、やはり殺人は起きる。さすが、犯罪王国のアメリカ。

今回は、高校時代に一時期レイク・エデンで暮らしていたマシューとそのいとこのポールにまつわる事件。地元教会の牧師、ボブが新婚旅行に行くことになり、代行の牧師としてマシューが来たものの、ある夜に殺されてしまう。発見者はハンナ。マシューとポールの外見がよく似ていたころから、二人が入れ替わっていた疑惑もでてくるが、ハンナが元の教会に確認したところ代行として来ていたのはマシューと分かる。が、直後に本物のマシューが現れて混乱する関係者。マシューと間違えられて殺されたポールは、なぜ殺されなければならなかったのか?そんな疑惑に果敢に挑戦していくのがハンナ。種明かしすると、実は入れ替わってはおらず、後から本物の顔をして現れたのがポール。ポールは犯罪者となっており、近隣都市で盗んだ宝飾品をマシューのカバンの中に隠したので、後を追ってレイク・エデンにまでやって来たという訳。もちろん、殺人犯はポール。

筋としてはよくできているとは思うのだが、でもやはり堅苦しい。物語のために作られたと言わんばかりの登場人物や、仰々しい台詞がそう思わせるのだろうか。いくら地元民に愛されるクッキーベイカリーとはいっても、売っているのと人にあげているのが同じくらいの量なんじゃないかと思うくらい、ハンナ気前が良い。そして、保安官であるマイクと歯科医のノーマンという2人から愛され、今はノーマンの方に傾きつつあるという状態。モテモテで人気があって、優しくて気前よく、そして殺人事件も難なく解決しちゃうスーパーウーマン、それがハンナ。

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ミネソタの田舎町レイク・エデンで手作りクッキーショップ "クッキー・ジャー" を営むハンナ・スウェンセンが主人公の素人探偵ストーリー。住民がお互いに知り合いで、のどかと思われる片田舎であっても殺人が起こること自体、アメリカという国が病んでいる証拠だと思うのだが、そんな堅苦しい正論を言っていては、折角のコージーミステリが愉しめない。

ハンナは、大学で博士号をとる直前に家族の都合で故郷のレイク・エデンに戻って、大好きなクッキーを焼くことを営みとしている29歳の独身女性。見た目についての記載は少ないが、妹のアンドリアが美人であることから、姉のハンアもそれなりのルックスであることが想像できる。好奇心旺盛で知りたがり、後先を考えずに容疑者と思われる人物の家に不法侵入するものの、脚はガクガク、心臓ドキドキ。それでも、素敵な家具や部屋のしつらえには興味津々で捜査のことも後回しになってしまう。人の良さと美味しいクッキーをばら撒きつつ、関係者の家を直撃取材、いろいろなヒントをかき集めて真相解明のために突き進む。

そんな素人ならではの危なっかしくも微笑ましい努力の過程と、ところどころに紹介されるハンナお手製のクッキーのレシピ(お約束だね)が、コージーミステリの愉しさそのものという点では、作者の努力は報われている。

もし、博士号を取得していたら「古典詩の韻律について講義」していたかもしれない、という記述があるので、文学を専攻してたようだ。それにしては、古今の名作からの箴言、名台詞が文中に出てこないのが物足りない。片田舎の町では、そのような会話は好まれないからかもしれない。この辺りが、バーニー・ローデンバーのシリーズの粋な会話とは違う。なにせ、あっちはNYが舞台だからね。

 登場人物の魅力度 ★★★
 ストーリー度   ★★★
 設定の魅力度   ★★★
 台詞の魅力度   ★★★
 

◆チョコチップ・クッキーは見ていた
- カウンターの上のセントポーリアをちょっと見てもらえる?家庭内植物虐待の罪で刑務所に入れられたくないから。
- ゴージャスな女の子たちのほとんどは落第するか、大学に残るとしてもMRSの学士号をとること、つまり結婚相手を見つけることが目的だった。


◆ブルーベリー・マフィンは復讐する
シリーズ三作目の本書では、町おこしの一環として始めたウィンターカーニバルに特別ゲストとして招聘された高名な料理家が、こともあろうかハンナのクッキーショップで殺されてしまう。妹アンドリアの高校時代の親友とハンナの恋人(候補)まで殺人容疑者となってしまって、ハンナの探偵魂に火がつかない訳がない。妹アンドリアと何人かの地元の友人たちの協力を得て事件解決に挑むのだが、このシリーズ(のみならず通常のコージーミステリ)の常として謎解きの過程で出てくる色々なこと、ハンナの恋模様や地元の人々の噂話、母親との関係などなど、が盛りだくさん。謎解きが縦軸だとすると、ハンナを取り巻くレイク・エデンでの日常の物語が横軸といったところですかね。なにもなさそうな片田舎の生活を横軸に入れ込んで物語を進行させるという手際には、著者が並々ならぬ豊かな想像力を持っていることを思わせてくれます。

- 彼女は50代初めの魅力的な女性で、その手が触れたものはすべて金になった
ケーブルテレビでの料理番組で有名になった料理家が、レシピ本を始め家庭用品ショップや色々な事業に手を出し、次々に成功させて大金を稼ぎ出した様子を物語っている。古代のミダス王の物語を知っていればニヤリとするよね。

- グリルにたたきつけるように置いたら、片面30秒、ひっくり返して30秒ね。
ステーキ店に行った時のハンナの注文の仕方です。いかにレアのステーキが好みかがこの注文の仕方で分かろうというもの。物語を面白くするためには、この手の大仰な表現があるかないか、が私にとっての鍵となるんだな。
コメント
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