お愉しみはココからだ!!

映画・音楽・アート・おいしい料理・そして...  
好きなことを好きなだけ楽しみたい欲張り人間の雑記帖

コージーミステリを読み耽る愉しみ その26 死ぬまでにやりたいことリスト(エリザベス・ベローナ著)

2024年01月04日 | 読書雑感
『恋人たちの橋は炎上中!』というのが第2話の題名。死ぬまでにやりたいことリストの完成に向けて努力中の仲良し5人組みの今回のテーマは「セクシーは写真を撮る」というもの。大昔にフランシーンの曾祖母が馬車の御者と身分違いの恋に落ちたという物語をもった地元の古い屋根付き橋で撮影をしていたところ、突然銃声が聞こえる。男が一人現れたかと思ったら倒れて河の中へ落ちる。助け起こしてみるとフランシーンの遠い親戚の男だと分かる。一体何をしていたのか、そして銃を撃ったのは誰か?ジョイはTVレポーターとして活躍しているし、メアリー・ルースはケータリング事業が上手くいって地元の物産展に出品中。物産展を手伝いがてら古い橋でピンナップ写真を撮っていたのであった。橋のすぐ近くに広がる広大な土地は、昔薬草から作った薬で莫大な富を築いた男のもので、男が稼いだお宝が土地に埋められているという噂をまことしやかに囁かれている。いまでもその噂を信じて土地に入り込む輩がいるらしい。フランシーンの遠い親戚もその一人なのか。ならば銃撃したのは土地所有者なのか。親戚の男は狙撃されていたわけではなかったが修養されていた病院で死んでしまう。狙撃に続いて起こったことは、写真撮影に使った由緒ある古い屋根付き橋が放火されてしまう。これもジョイがレポーターとして全国に伝えた最中にフランシーンのセクシー写真が世に出てしまう。前回のプールに落ちたサンドレス姿のフランシーンの写真も再び人々の記憶に甦る。親戚の一人が死に大事な思い出の橋が燃やされてしまったフランシーンを助けようと親友のシャーロットが今回も探偵役を引き受ける。メアリー・ルースの手伝いもそこそこに二人は情報収集に勤しむ。偶然に謎の土地所有者と知り合い招待される5人。在来植物を育てる温室を見せられている間に男の家が燃え出して男は行方不明に。これも全国へ中継することに成功したジョイはTVレポーターとしてキャリアを積み上げていく。死んだ親戚の男がポケットに入れていた液体入りの瓶、そして似たような瓶を男の妻も持っており、しかも男の車のトランクにも大きな瓶が入っていたことを見つけたフランシーンとシャーロット。瓶に入っていた液こそがその昔、莫大な富を生み出した薬として売られていた液体だった。しかもその液体は土地の一部にしか湧き出さない命の水で、これを飲んでいた土地所有者と親戚の男が経営する老人ホームに入っていた老女は、その昔に身分違いの恋をしたフランシーンの曾祖母と御者であったというのだから驚き。秘密を知っていて水を飲み続けていた二人は100年を超える年月を生きていたことになるという摩訶不思議な落ちがある物語だった。

このシリーズの2作目の途中まで読み進めた時に突然にわかったことは、このシリーズは5人のキャラクターの描き分けにこそ愉しみがあるということ。ガサツで思い込みが深く身勝手なシャーロットと上品で良識と嗜みがあるフランシーンを両極端な人物として設定され、お人よしで料理上手なメアリー・ルース、TVレポーターとしての才能を開花させて輝きだすジョイ、第1作の事件の影をいまだに引きずっているアリスの3人はシャーロットとフランシーンの中間に置かれている。それぞれがやりたいことリストを持っている5人のキャラクターの違いは、「私」や「あたし」、語尾の違いや表現の丁寧さやガサツを通して描き分けられている。ここに気付くのが遅かったとはいえ、読み込む愉しみが発見できたことはいいことだった。

   ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

ブリッジが縁持つ仲良し5人組み。いずれも70歳を超えるシルバー世代の元気なお婆ちゃまがただが、彼女たちが夜更けに集まってやっていたことは真っ裸で泳ぐこと。5人組みの一人、ジョイが”死ぬまでにやりたいことリスト”の10番目に挙げていたことがこれで、後の4人もそれに倣って夜更けのシルバー世代パーティに参加したのはいいが、誰もが自分の体形に自信が持てないためにプールに入れない。メンバーの一人でケータリング事業をやっているメアリー・ルースが異様な匂いに気付く。匂いの元は、プール小屋に隠されていた死体だった。はかならずも死体の第一発見者となってしまった5人は警察の事情聴取を受ける。全裸のままで泳ぐために集まっていたことが世間に広まり、全米ネットワークABCまでニュース番組に取り上げる始末。テレビに出ることをリストに挙げていたジョイは大喜び。早速メディアコンサルタントを雇うが、主人公のフランシーヌにとっては面倒極まりない。地元のレストランにランチに出かけたところ、あちこちのテーブルからスマホで撮影されるほどの注目を集める存在になっている。死体は地元のカーメカニックの男で、プールのある自宅を持つアリスの夫と訳ありな関係らしい。仕事の都合でラズベガスへ行っていたはずの夫が、実は予定を早めて帰っており、殺人当日のアリバイがない。親友の窮地にフランシーヌとシャーロットは事件究明に乗り出す。幸い、担当の警察官は幼い時から二人がよく知っていたものだから文句も言えない。年くっていることがプラスに働く。警察官が逆らえない素人探偵団なんて設定は今までのコージーミステリではなかった。ミステリー小説が愛読者だというレベルの二人がドタバタの捜査を始めるや、新たな証拠が次々に都合よく見つかる。メンバー5人はそれぞれの”やりたいことリスト”があるから行動はバラバラなのだが、それでも都合よくそれぞれが何らかの役割を果たせる。犯人はアリスの家に隣に住む迷惑女のダーラ・バッゲセン。クーガー女のダーラはカーメカニックの被害者と火遊びの関係だったが、娘のレースカーのメカニックとして体よく使えると考えたダーラが欲と得の二重取りから仕掛けた罠だった。それに気付いて関係を終わらせたかったメカニックを殺して、日ごろから癪な存在であったアリスのプール小屋に死体を隠して知らん顔を決め込んでいたのが事の真相。事件を解決することw”やりたいことリスト”に挙げていたシャーロットは目出度く望みを果たすことができ、親友のお役にたてたフランシーヌも嬉しいかぎり。

「あのケーキには中毒性がありますよね。秘密の材料は何ですか?まさかコカインとか?」
ケータリング業者のメアリー・ルースが造るチョコレートケーキがあまりに美味しいものだから、彼女のダイエット指導を行うことになったジムのインストラクターがポロっともらした台詞。

「あの子とは経済のクラスがいっしょなんです」
「うん、経済ね。需要と供給か。あの子が必要としているものをあんたはちゃんと供給できてるかい?」

年を取った特権の一つは、暴言が許されること、マイルドなものであれば。女の子に「供給できているかい?」と訊くなんて、若いものならできない。〇〇ハラと言われてしまうが、年寄りならば多少の暴言も許される。経済から需要と供給をひねり出し、それを男女関係に当てはめるなんて小憎らしい
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コージーミステリを読み耽る愉しみ その27 お騒がせレポーター・シリーズ(スパークル・ヘイター著)

2024年01月04日 | 読書雑感
第2話は『ボンデージ!』と俄然刺激的なタイトルになる。しかも、表紙の絵は腰に銃を置いてシースルーな服を着た美女が赤毛をなびかせている。今回の取材対象がSMクラブというのだから、タイトルも表紙絵も理解できるというもの。そんなお騒がせレポーターのロビンの周りで働く男性社員が狙撃されるという事件が起きる。最初の被害者は、同じ建物内で開業する婦人科医師。ロビンが定期健診に訪れる予定であった時刻に殺されていた。ロビンには医師側からのキャンセル連絡が突然入っていた時刻だった。死体の傍にSMクラブのマッチが捨てられており、バツ2にイケメン医師の素行があぶりだされる。数々の女性と火遊びをしていた上にSMクラブの常連だったのか。状況証拠が示すとおりの姿を取材して扇動的なニュースにするように上司から指示されたものの、ロビンには違和感がある。それでも経営的問題から首切りが行われそうな社内の雰囲気を考慮したロビンは大嫌いな上司に逆らうことなく取材へと赴く。SMクラブ主宰の女王様の態度に嫌悪感を感じるとともに演技っぽさも感じるロビン。そうしているうちにロビンと仕事で関係する男性社員が何者かに狙撃される事件が相次ぐ。狙撃されたニュースキャスターたちは、放送内でロビンがとんでもない女で深い関係がないと身の潔白を訴えだす。ますます評判が地に落ちるロビンだった、住んでいるアパート近隣でロビンを訪ねてきた男が銃殺される事件が起きる。名前も顔も全くの記憶がない男なのに何の用でロビンに会いに来たのか?何らかの情報を渡しにきたのではないかとにらんだロビンは、医師殺害事件とこの男を結びつけて考える。銃撃の犯人はロビンが働く放送局の保安担当者で、精神病院に入っていた時期からTVに登場するロビンに一方的に入れあげていた男だった。そんな精神異常者がロビンの周りをうろつく男たちを排除しようとして事件に及んでいた。最後の最後でこの男に囚われたロビンはボンデージ姿で監禁されてしまう。しかも大嫌いなモーおばさんと一緒に。犯人の一瞬の油断をついた二人は逃げ出し、追いかけてきた男はNY市内の韓国人が経営する店で射殺されて一件落着という今回もハチャメチャもロビンの行動記録でした。小説として読んでいるのであれあ「面白いね」で済むが、もしこんな女と一緒に働くとなると気が変になりそうなくらいに自己中心的で思い込みが先行する女性レポーター。

まだほんの37歳だけど、業界では高齢。テレビの世界では、人は犬並みに年を食う
ドッグイヤーという単語がITの世界から飛び出して20年くらい経つだろうか。今ではITに限らない世界で使われるようになってしまった。

「”男に仮面をつければ、祖も男の本性が見える”と言ったのはオスカー・ワイルド。”女の手に鞭を持たせたら、その女の本性が見える”これはわたしのこと」
「愛とセックスと痛みと罰はすべて、堅く結びついているの」

どちらもSMクラブ主宰の女王様の御言葉。オスカー・ワイルドが本当にこんな台詞を吐いたかどうかは知らないが、著名作家の警句を引用しながら自分なりの変形を付け加えるというのも中々のレトリック技だと思う。

わたしたちが興味を引かれるのは、おふたりの関係の哲学的側面ですから
女王様から実演を見せようかと言われた時にロビンが断りとして口にした台詞。哲学的側面と言って婉曲に断るところに知性の断片が見えるのです。

   ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

『トレンチコートに赤い髪』という題名から、ボガードを女にしたようなハードボイルドな探偵ものかと思ったところ、あにはからんや主人公のTVレポーターはステファニー・プラムばりのドタバタ喜劇的な行動がジェットコースターのように続くミステリだった。NYのニュース専門TVチャンネルANN(CNNのもじりだろう)で働く主人公のロビン・ハドソンは、折角掴んだ絶好のチャンスであるワシントンDCでの定例記者会見の場で、小さな音も拾う精巧なマイクの前で盛大なげっぷをするは、死んだ仲間の肉を食べることで極限状態をかろうじて生き延びた生還者に対して「どんな味がしましたか?」などと場と空気をわきまえない質問をしてしまうは、TVレポーターから降格されて社内のシベリア送りと言われる部署へと転属されている。夫だったイケメン男は、社内の若い美人と再婚すべくロビンの元を去っている。アパートの階下に住んでいる老女は、使用している補聴器の音量調節が下手なので、ロビンがいつも乱痴気パーティーを開いている淫売女と思い込み、会えば必ず携えているステッキでロビンに殴りかかる始末。そんな不幸の塊のような35歳女性のロビンが恐喝にあう。初体験の相手から過去にやった諸々の人には言えないことをネタに恐喝してくる男が出てくる。時は年末、社内の大晦日パーティの場で恐喝者からホテルの部屋に来るようにメモを渡され、行きたくはないが行かざるをえない状況の中で部屋を訪れたものの、ノックしても返事がない。これ幸いと家に帰ったところ、翌日その部屋で恐喝者であった私立探偵は惨殺死体となって発見された。当然警察から事情聴取されるための連行されるロビンが警察署から一足外に出ると、各社のTVレポーターがロビンに群がり遠慮もなしにカメラやマイクを突き出してくる。映像はTVニュースに流れるばかりではない。ぶらりと寄った新聞売りスタンドで新聞を買おうとしたところ売り子からは代金不要と言われる。各紙の一面にロビンの顔写真入り報道記事が出ていることに同情したのか恐れたのかは分からないが。こうして、追う側が追われる側に転落。ニュースをゴシップなみに扱っているアメリカ社会への風刺を織り込んでいきながら、名誉挽回のためにロビンは殺された私立探偵のことを調べだす。恐喝されていたのは自分でけではなかった。社内の複数の人間は恐喝の餌食となっており、ANNは社員に「芳しくない過去」を自主的に申し立てるようにメモを回す。有名レポーターは自分の過去が暴かれる前にカメラの前で次々にカミングアウトして、ニュース専門TVは世間のニュースを追わずに社内の芳しくない過去を他局のネタとして提供するという見苦しい日を送る。恐喝されていたのは元上司のグレッグと一緒に働いていた社員ばかりであることを突き止めたロビンは調査の網を狭めていくが、そんな中肝心のグレッグがあられもない姿で殺されているのが発見される。しかも死体の局部に固定されていたのはロビンのティーザー銃。結局のところ、一連の犯人は夫の婚約者の若い女性レポーターのエイミーだった。過去の元上司のグレッグとの情事のみならず中絶手術のことをネタに恐喝されていたエイミーが犯行に及び、恐喝者を雇っていたグレッグも殺した上に、これらをロビンの擦り付けようと画策していた。窮地を気まぐれな飼い猫に救われたロビンが隠しカメラで撮っていた映像が証拠となり犯人は逮捕。ロビンは事件解決に大いに協力できて万々歳。それにしても登場人物が多すぎて、誰が誰だか確認しながら読み進めるのは骨がおれた

優秀な学者は人を救い、しれができない」学者は人に教え、それもできない学者はテレビ界で働くってこと
放送枠を持っている心理学博士を評価してのロビンの辛辣コメント。他人をリスペクトせずに批判的な立場をとることでアイデンティティを確保しようとするアメリカ人ならでは態度が出ている

女はおっぱいを運ぶ乗り物でしかないって信じている男
巨乳好きのエロ上司のお頭の程度を言い表すロビン流の一口コメントだ。

「血の匂いを嗅ぎつけたら最後、ピラニアみたいに獲物に殺到して食い尽くすのよ。出版の自由万歳。そんなこと言ってられるのも、追われる立場になるまでだわ」
いつもは人の不幸を追いかけているレポーターが一転追われる立場になった、そんな瞬間を経験したからこそこんな台詞を口にできるのだろう。でも、翌日になれば綺麗さっぱりわすれて人の不幸を追いかけ続けるのだろうが。

フロイトはなんと言うだろうか?
女性蔑視的な発言をするレポータについて述べる時に、ポロリと落ちていた一言。学の深みを感じさせるネタとして使われるなんてフロイトは墓場でどう思っているのだろうか?

「どうして私と結婚したの?仲間を救うために手榴弾に身を投げ出す男の心境だったとか?(中略)断崖絶壁の縁に立って、深い谷底を見下ろしているうちに、ついに飛び降りたくなる男の心境?」
「堕ちるスリルだよ。どんどん君を愛し始めた時期は、ぼくの人生に最良のときだった。でも、堅い地面に激突するのは時間の問題だった」

自分の元を去っていった夫の会話。ロビンがハチャメチャな人生をおくっていることを再確認させるとともに、それを好きになった男の哀れさも醸し出しながら結局は二人ともいい人間にしてしまっている

愛ってあまり信用していないの。わたしの人生は、共犯者を求める終わりなき旅かも
社内のイケメン男、エリックに言い寄られて彼のアパートでワインを飲みながらロビンがこんな台詞を吐く。自身が自分のハチャメチャな人生や行動、性格をよく理解しているってことを読者に知らしめ、そんなダメな自分を愛するロビンを嫌いにさせないような作者なりの工夫かな。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする