転生の宴

アヴァロンの鍵対戦会「一番槍選手権」を主催するNishiのブログ。最近はDIVAとDBACのプレイが多めです。

COJショートショート:リターン・フロム・ザ・ドラゴンズ・ヘッド(その5)

2015-02-22 00:06:22 | 創作物(M・o・Aちゃん他)
そんな訳で前回からだいぶ経ってしまいましたが、
COJショートショート「リターン・フロム・ザ・ドラゴンズ・ヘッド」の最新話をお送りします。

尚、本作で語られている設定は筆者による独自のもので、
公式設定ではないということを付け加えておきます。
それでは、お楽しみ下さい。

――

◎過去作品

○連載もの

・クエスト・フォー・ザ・ムーン(全7話)
その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7(エピローグ)

・ロボトミー・ソルジャー(全4話)
その1
その2
その3
その4

・メリー・クリスマス・フロム・アルカナ(全2話)
その1
その2

・リターン・フロム・ザ・ドラゴンズ・ヘッド(連載中)
その1
その2
その3
その4

○その他エピソード

・バトルトーナメント:あなたが決める禁止カード(連載再開未定)
その1
その2

切札戦士 ジョーカー13(ワン・スリー) 第14話

エージェント・イン・スイムスーツ
イーリスの物語

<<<リターン・フロム・ザ・ドラゴンズ・ヘッド その5>>>

作:Nissa(;-;)IKU

ゲートを抜けた先には、青緑色の壁で覆われたオフィスルームがあった。窓からは新都庁のいびつな先端部が見える。「パパ」が言っていたビルだ――ナイトシェードは直感した。

「ようこそいらっしゃいました、ナイトシェード様」彼女を出迎えたのは、白衣を身に纏った初老の男である。白髪混じりの髪をオールバックにし、目には歳不相応に若いデザインのサングラスをかけている。彼がこのオフィスの管理権限者であろう。

「ああ、『パパ』――いや、『タワー』から指示があったのでな」ナイトシェードは憮然とした表情で応えた。黒ずくめのスーツ姿ではあるが、目の部分は魔女を思わせる鉤鼻付きの仮面で覆われている。

ナイトシェードがハッカー組織「リバースデビル」の幹部候補であることは、管理者には事前に知らされていた。彼女がリバースデビル所属になったのはほんの3日ほど前のことなのだが、政治的な理由により、既に目の前の初老の男よりも高い地位にいるのである。

管理者の肩越しには部下と思われるオペレータ達が、ホログラムディスプレイに向かって黙々とタイプ入力を続けている。彼らも目の前の男と同じ様にサングラスやゴーグルをかけている。一見するとブルーライト対策の様にも思えるであろう。

彼らの頭からはサーボモータの駆動音がひっきりなしに続いている。彼らは肉眼を錯視を引き起こす「不完全な」ものと見なしており、手術によって「完全な」電子式カメラアイに換装しているのだ。駆動音の微妙な耳障りさに、ナイトシェードは一瞬顔をしかめた。

「この音が気になるみたいですね」彼女を気遣う管理者の目の奥からも、同じ様な駆動音が発せられていた。「慣れないとは思いますが、ご辛抱下さい。知覚を『完全な』ものにする為の第一歩ですからね」

「『実験』の進捗状況はどうなっている?」気を取り直したナイトシェードは管理者に尋ねた。「3件ほどの実験が同時進行しているのだろう?」

「はい、おっしゃる通り現在3件ほどの実験が同時進行しておりまして」管理者はサングラスを直しつつ、ホログラムディスプレイを展開した。「まず1つめ、『ゲートの任意生成』ですが、まだ不安定な状況が続いています」

ホログラムには森の中に佇む4~5人程の女達が映し出されている。同じデザインのサングラスと帽子を身につけた、没個性的な外見。「ロボット兵」だな――ナイトシェードは直感した。

人間の脳を特殊な電子機器「生体クラウド端末」に換装し、遠隔操作で操られる「ロボット兵」にする計画は、以前から行われていた。ナイトシェードの直観の通り、彼女らは南葛飾の低所得者層向けアパートに住む主婦達を素体としたロボット兵であった。

画面は青緑色の「壁」が女達の周りで次々と現れては消えるのが映し出している。現実世界と異次元空間「アルカナ」を繋ぐ「ゲート」は、現状では専用の端末が置かれた場所にしか生成できないことになっている。これを任意の場所に生成できるようにするのがこの実験の目標である。

女達の遥か遠くではまだ「壁」が明滅を続けていたが、彼女らの顔が青緑色に照らされ続けているのを見て、管理者は操作を止めさせた。「まだ安定というには程遠いですな、でも手前側のゲートが開いたので、ひとまずここからアルカナへ送りましょう」

女達が手前に向かって歩いてゆく。画面は暫く砂嵐を映した後、廃工場の立ち並ぶ薄暗い路上に切り替わった。
異次元空間「アルカナ」における、ごくありふれた光景である。

「あとはここから格納庫へ移動し、『ファイアウォール』の試運転などを――」「動体反応あり、後方100メートルです」オペレータの1人が割り込むように叫んだ。「こ、これは!」オペレータは女達の1人が捉えたカメラアイの画像を転送した。それを見た管理者は思わず目を細めた。

現れたのは小学生ぐらいの児童、それもセーラーの上着にタイツ姿である。余りにも憔悴しきっている様子が、画面からも伝わって来る。「件の『天鳥 烏兎』の様です、あの様子を見ると、「仮説」は正しかったみたいですな」オペレータの得意げな報告に、ナイトシェードは顔をしかめた。

――

現実世界とアルカナとの関連性はAST、リバースデビルの双方で独自に研究がなされている。リバースデビルはその中でも特に、現実世界での人々の意識との関連性に着目していた。

「ちびくろサンボ」「不思議の国のアリス」そして「天鳥 烏兎」――アルカナ内には物語の登場人物が特殊な「プログラム的存在」として存在していた。彼らは物語での活躍に準じた力を発揮し、たびたびリバースデビル側に被害をもたらしており、それらの制御・支配が課題となっていた。

そんな中、とある仮説を提示した者がいた――ナイトシェードの「パパ」こと「タワー」である。彼によるとかの「プログラム的存在」は現実世界の人々の意識や記憶を力の源としているというのだ。

この仮説が正しければ、人々の意識から「物語」が完全に忘れ去られることによって「プログラム的存在」は力を失い、最終的には消滅することになる。

勿論これを実現するにはリバースデビルの「最終目的」の達成を待つ必要がある。だが政治的・倫理的な圧力により「物語」に対する忌避感を引き出すだけでも十分な――少なくともリバースデビル側の活動を阻害しない程度に弱体化させる――効果があるというのがタワーの持論である。

今回の「子供たちを性犯罪から守る会」の活動もその一環である。本来これはロボット兵を日常空間に紛れ込ませ、工作活動を行わせることが目的であった。この計画とタワーの「仮説」の提示時期が重なったことで、「守る会」の新たな工作活動が組まれることになったのである。

結果都心の小中学校や書店の一部にクレームが届き、それを受けて「烏兎」関連の本を撤去する動きが進みつつある。ネット上でのニュースでも数件ほど取り上げられ、少しずつ波紋は広がりつつある。

そして今、リバースデビルのオフィスにその「烏兎」と思われる人影が映し出されているのだ。これを捕獲できれば仮説の検証にも役立つことだろう。「ただのコスプレ好きの民間人かも知れん、だが油断はするな。確実に捕獲せよ」ナイトシェードは管理者に命令した。

――

事前の予想に反し、捕獲はあっさりと成功した。ロボット兵の瞬発力の高さに対し「烏兎」の足は鈍く、「飛び道具」による脱出も行われなかったのである。既にそれは上半身を縄で縛られており、女達に銃を突きつけられた状態で座り込まされている。

女達の頭上に、ホログラムが浮かび上がる。それは鉤鼻付きの仮面の女と、サングラスの老人を映し出した。「これは――『烏兎』ではないな?」「生体反応があります、どうやら生身の人間だった様ですな」ホログラムはナイトシェードと管理者とのやりとりを暫く映していた。

彼らの分析の通り、捕らえられた「烏兎」は本物ではなかった――「守る会」の後を追いつづけた結果、「ゲート」に飛び込んでしまい、アルカナに迷い込んでしまった少女、愛美である。彼女は怯えた表情でホログラムを見上げていた。

「どうやらランダム生成された『ゲート』に巻き込まれた様ですな、ここへたまたま通りかかったとは少し考えにくい様ですが――」管理者の言葉にナイトシェードは暫く考え込んだ後、ホログラム越しの愛美に向き直った。

「訊きたいことは山ほどあるが、場所が場所だ。お前には我々のオフィスまで来てもらう――なに、悪いようにはせん」そこまで言ったところで、ナイトシェードは数日前に訪れた「実験室」を思い出した。

手足と舌を切断され、点滴と麻薬で生体部品として生かされている若い男。培養液に漬けられ、生体クラウド端末の連鎖爆発予防の「ファイアウォール」として使われている少年の脳髄。そして新たなロボット兵と生体部品精製の為の脳の切除手術――恐らく少女も同様の運命を辿るであろう。

だがホログラム越しの少女の姿に、ナイトシェードは奇妙な既視感を感じていた。あの歳ぐらいの少年少女に囲まれて、物語を読み聞かせたり、一緒に踊ったり――あるいは自分がその少女の1人だったか。何かを思い出そうかとして額に手を載せたとしたその時であった。

――

突如、オフィスの奥から鋭い衝撃音が飛び込んだ。窓ガラスが割れた音だ――そう気づいた時には部屋の空気が勢い良く吸い出されはじめた。運悪く窓際に席を構えていたオペレータが、小型のデスクごと60階以上もある高さから放り出された。

緊急用のシャッターが直ちに降ろされ、ひとまずの危機は去った。ナイトシェードはオフィスの奥に視線を向ける。そこには一人の少女が膝立ちで座っていた。銀色の長い髪。紫色に輝く瞳。そして黒いボディスーツとタイツに包まれた肢体は華奢だが、不思議な妖艶さがあった。

管理者とオペレータ達は腰を上げ、辺りを落ち着きなく見回し続けている。突然の乱入者が、彼らには見えていない様子であった。その様子からナイトシェードは、幻覚を見ているのは寧ろ自分ではないかとも感じた。

「誰だ、お前は――」ナイトシェードはその少女に向けて声を上げた。そして困惑した――(((沙夜ちゃん?助けに来てくれたの――?)))内なる声が突如、彼女の意思を遮ったからであった。

<<<その5おわり その6へつづく>>>

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