転生の宴

アヴァロンの鍵対戦会「一番槍選手権」を主催するNishiのブログ。最近はDIVAとDBACのプレイが多めです。

COJショートショート:クエスト・フォー・ザ・ムーン その4

2014-08-10 00:28:54 | 創作物(M・o・Aちゃん他)
昨日は夜から吉祥寺入り。
イベントはデッキを変えてやってみたのですが、
勝率は半々ぐらい。
割りと予定外のデッキが多くて予想外の殺され方をすることが多かったです。
デッキについてはイベントを完走したら公開という感じで。

――

そんな訳で久々にショートショートの更新です。
「京極院 沙夜」が主人公の連作「クエスト・フォー・ザ・ムーン」の最新話をお送りします。


・過去作品
クエスト・フォー・ザ・ムーン その1
クエスト・フォー・ザ・ムーン その2
クエスト・フォー・ザ・ムーン その3

エージェント・イン・スイムスーツ(1話完結)

<<<クエスト・フォー・ザ・ムーン その4>>>

作:Nissa(;-;)IKU

西東京のとあるビルの屋上。一人の男が携帯端末を掲げて通信モードを起動した。

「こちらチームG、丁度今ミッションから帰還しました」『こちら本部、ミッションお疲れ様でした。こちらも帰還を確認しました』「博士、助手とも無事救助しました。救援ヘリをお願いします」『了解しました。確認の為現在位置コードをお願いします』「西東京ポイントP47の…」

縮れた髪と日焼けした肌を持つ大男は、白衣の老人を背負ったまま無線通信を続けていた。ひと通りの通信を終えると、傍らに座り込む少女に目をやった。「おい新米、よくやったな」

黒髪の少女は答えなかった。膝枕で寝かせている白衣の女を介抱するので手一杯という表情である。無理もない、と男は思った。10分ほどのミーティングで帰れると思ったら緊急出動の要請が出され、いきなり実戦――しかも人命に関わる任務だ――に駆り出されたのだから。

しかし彼の言葉は単なる労い以上のものであった。実際彼女は短時間のうちにミッションに適応し、想像以上の活躍を果たしたのだ。彼女がいなければ、2人を共に救出することは不可能だったろう。

男は上空を見上げる。遠方から赤いランプが迫ってくるのが確認できた。「もうすぐ救援ヘリが来る。一緒に送ってもらえ」男は何か言いたげに少女に視線を移したが、すぐに上空に向き直った。「俺は、一旦本部に戻る」

――

森の中にある小さな寺院。磨かれた石柱と奥に見える手入れの行き届いた日本庭園が、そこが「生きた」寺院であることを物語っていた。

「京極院」――石柱に刻まれたその名前が、この寺院の名前である。だがそれは単なる寺社仏閣以上の意味があった。京極院の一族は先祖代々から高い霊能力を引き継いでおり、その力である時は権力の手の届かない弱者達を救い、またある時は邪悪な意思を滅ぼすべく戦い続けてきたのである。

この小さな寺院、そしてこの一帯の森林は、言ってみればその戦いの為の「前線基地」である。世界の大きな変化とそれに伴う「悪意」の拡散。沙夜が親元を離れてここに預けられたのも、その姿なき新たな「敵」に備える為でもあったのだ。

――

屋根裏にある瞑想室。部屋の片隅にある階段から、銀髪の少女が燭台と香を手に入室してきた。沙夜である。

彼女は既に着替えを済ませていた。蝶の刺繍をあしらった黒紫色の和服は「おくみ」が無く、ドレスのスリットの様な上前からは濃紫色のタイツに包まれた脚が露わになっている。

沙夜は女神の描かれた掛け軸の前に正座し、燭台を床に置くと、その炎で香に点火した。白檀の香が室内に行き渡る中、彼女は帯紐代わりの細い革ベルトを締め直すと、蝋燭の光でわずかに照らされる女神に視線を合わせた。

薄暗い部屋の中、沙夜はこの日の出来事を思い出していた。いつも見る「幽霊」と似て異なる人型の群れ、それらを襲う恐るべき破滅、突如降ってきた「肉片」、夕食の席での祖父との会話――それらの積み重なりが、彼女を照明の無い屋根裏部屋に向かわせたのだ。

深く息をするたび、白檀の香が意識を包んでゆく。香の白い煙が女神の姿を少しずつ覆い隠していった。

――

気づくと沙夜は「いつもの場所」にいた。四畳半の茶の間を思わせる部屋には卓袱台を囲むように座布団が敷かれ、片隅ではブラウン管テレビが「ミイラくん」の再放送を流している。沙夜がテレビを横から見る様に座布団に座るのと、手前の障子戸が叩かれるのはほぼ同時だった。

「入れ」沙夜は障子戸に向かって声をかけた。「邪魔するぜ」障子戸を引いて現れたのは鎧を纏った青白い男である。その手には「風林火山」の軍配が握られている。男は障子戸を親指一本程の隙間を空けて閉じ、沙夜の対面に座った。「俺様を呼んだのはあんたかい?」

「一つ相談事があってな」沙夜は卓袱台の上に置かれた茶碗の1つを男の前に置き、急須の茶を注いだ。「だがまさかお主が来るとは予想外だったぞ、信玄公よ」

「はっはっ、まあこれも一つの縁よ」「信玄」と呼ばれた男は茶を一口すすると満足そうに息を吐いた。「それで、相談事ってのは何だい?」

「今日の出来事の話しじゃ」沙夜はこの日の顛末を語り始めた。「わしの目に突如飛び込んできた、砂嵐の様な『影』…あれが一体何を暗示しているのか…」

「ふぅむ…」信玄は暫く思案したあと、何かを思い出した様に顔を上げた「謙信から聞いたことがあるぜ、確か『アルカナ』とか言っていたな」「『あるかな』…」聞き慣れない言葉である。沙夜はその呪文の様な言葉を反芻する様に思い返していた。

「この世界とは異なるもう一つの世界、って言っていたな」信玄は続けた。「もしも川中島で俺様が謙信を倒していたら、あるいは逆に俺様が倒されていたら――そういった『もしも』が起きた世界って話だ」

「それが『あるかな』と…?」「飽くまで思考実験の中での話よ、それが実在するとか実際に行けるとか、誰も考えてなかったって訳さ」信玄は腕を組み、小さく頷いた。「実際にそこへ行ける装置が作られるまではな」

沙夜は思わず目を見開いた。彼女の中で何かの糸が一気に繋がった気がしたからだった。「ということは、あの『影』は…」

「お前さんには『見えてる』ってことよ」信玄は肩をゆすった。彼の顔を覆う面頬が不意に微笑んだ様にも見えた。「『アルカナ』に閉じ込められた人間や、『アルカナ』に元から住んでいる怪物がな…」

沙夜の様子を見て、信玄は一呼吸置いてから話を続けた。「で、話を戻すと、その装置が作られたのが7~80年程前の話。それで国民の一部を『アルカナ』に移住させる計画もあったらしい。だが色々あって計画は頓挫。装置は失われ、後には未開の『アルカナ』だけが残った…」

「少し気になることがあるのじゃが」ここまでの話で新たに現れた疑問を、沙夜は打ち明けた。「装置が無くなったのならば、もう『あるかな』には行き来できないのじゃろう?では何故…」

「俺もわかんねえ」信玄は首を横に振った。「ただ『装置』の副作用、って可能性はあるな。そいつのせいで『アルカナ』が無差別に人を吸い込み、それをバラバラにした上で現実世界に戻したり」

「それが街中で騒がれている『あの事件』の原因という訳か…」沙夜は太ももに手を置き、少し俯いた。「一体、どうすれば…」「やはりお前さんが直接行くしかねえんじゃねえのか?ただ早まっちゃいけねえ、何事にも準備が必要だ。十分な装備、十分な鍛錬、そして何より、頼れる仲間たち…」

信玄の話を遮るように、不意にベルの音が鳴った。テレビの脇に置かれた黒電話が鳴り出したのだ。「おう、もう時間かい?」「どうやら潮時の様じゃ。謙信公にも宜しくな」沙夜は信玄に一礼した後、電話機の側へ向かった。

――

受話器を取るのと、目の前に女神が現れたのはほぼ同時だった。座禅室に戻ってきたのだ。香は既に燃え尽きたが、蝋燭の炎はまだ室内をわずかに照らしている。

沙夜は香皿を部屋の隅に片付け、燭台を手に立ち上がった。室内に作務衣の男が入ってきたのはほぼ同時だった。彼女の祖父である。剃髪はしているものの、その姿は歳を感じさせない若々しさを持っていた。

「どうやら、上手くいった様じゃな」祖父の手にした燭台が、室内をわずかに照らした。「我らは今、未知なる脅威に面している。それに立ち向かうには、お主の力が必要となるであろう」「はい…」沙夜は小さく頷いた。

「ひとまず今日はゆっくりと休むがよい」祖父の表情に孫娘を気遣う穏やかな笑顔が戻った。背後の小さな窓からは、地上の光に邪魔されることなく輝く星々が小さな瞬きを繰り返していた。

<<<その4おわり、その5につづく>>>

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