転生の宴

アヴァロンの鍵対戦会「一番槍選手権」を主催するNishiのブログ。最近はDIVAとDBACのプレイが多めです。

COJショートショート:クエスト・フォー・ザ・ムーン その2

2014-07-29 01:25:20 | 創作物(M・o・Aちゃん他)
そんな訳で久々にSSの更新です。
COJの登場人物の1人、「京極院 沙夜」がエージェントになる前という設定の連作、
「クエスト・フォー・ザ・ムーン」の第2話をお送りします。
既に第3話は公開していたので、
時間的にはそれより少し前ということになります。

公式と若干設定が異なるところがありますが、
「こういう解釈もある」ぐらいの気持ちで読んでもらえればと思います。

尚、これに伴いまして当ブログの新カテゴリーに「創作物(COJ)」を追加しました。
これはショートショートや診断メーカーネタ、イラストなど、
色々なネタものを公開する際に使われる予定です。
こちらもチェックしてもらえればと思います。


・過去作品
クエスト・フォー・ザ・ムーン その1
クエスト・フォー・ザ・ムーン その2

<<<クエスト・フォー・ザ・ムーン その2>>>

作:Nissa(;-;)IKU

下町の小さなマンション。居間ではパジャマ姿の少女がポテトサラダとハムサンドをつまんでいる。その足元にはリュックサックと水筒が置かれていた。

やがて台所から手ぬぐいをバンダナめいて頭に巻いた青年が戻ってきた。その手にはハンカチで包まれた箱が2つ握られている。「お待たせ!」青年はそのうちピンクの包みを少女の手元に置いた。「今日はお兄ちゃんのスペシャルメニューだぞ!」

「わーい、ありがとー!」少女は嬉しそうに包みを持ち上げた。今日は彼女の学校の遠足の日。この日の為に彼は2人分の弁当を作っていたのだ。「中身は何かなー?」

「それは開けてからのお楽しみ!」彼は軽くウィンクしながらテーブルの前に腰を下ろし、自分のハムサンドを1つつまんだ。「そうだ、遠足から戻ってくるのは何時ぐらい?」

「うーん、4時ぐらい?」「よし、じゃあ4時半ぐらいにいつものスタジオで落ち合おう!」「うん!」「それと…」彼は何か伝えたさげに一瞬言葉を詰まらせたが、「楽しんで来いよ、遠足!」すぐに屈託のない笑顔に戻った。

――

(…ちゃん…沙夜ちゃん…)暗闇の中、誰かが呼びかける声が聞こえる。目を閉じていたせいだと気づくのに、暫く時間がかかった。

うっすらと目を開けると、薄緑色の格子模様と赤毛の少女の顔が目に映った。胸から下を覆う布の重み、そして背後から伝わる柔らかな綿の感触――ここで漸く、彼女は自分がベッドの上で、天井を見上げていることに気づいた。

「あ、起こしちゃった?」「…節子…さん?」ベッドの少女が少しだけ頭を上げると、銀色に輝く髪が静かに揺れた。「今、わしの…いや、私の名を…」

「今丁度来たところなの、沙夜ちゃんの様子を見に」赤毛の少女は自然な笑顔で応えた。「それと、保健の先生は今席を外しているから、いつもの話し方で大丈夫よ」

「そうか…どうも俗世の口調は慣れなくてのう…」銀髪の少女――沙夜は上体を起こすと、ベッドの背もたれに肩を預けた。山奥で祖父と2人暮らしを続けていた彼女はどうしても祖父の口調が抜けず、それ故校内や街中では使い慣れない「現代語」を「意識して」使う必要があった。

だがこの赤毛の少女――節子の前では、不思議といつもの口調に戻ってしまうのだ。それは地方から出て都心で暮らす若者が、地元の家族や友人と電話で話す時にはつい方言に戻ってしまうのに似ている。何故2人がここまで心を許せる仲になったのかについては、いずれ語る日が来るであろう。

「それにしても不甲斐ない…あんな時に倒れてしまうなんて」「気にしなくていいのよ、朝礼の時には毎回誰か彼か倒れるものだし」やや落ち込み気味の沙夜に、節子は水の入ったコップを手渡した。沙夜が一口飲むと、わずかに付けられていたミントとレモンの香りが周囲に広がっていった。

「うむ…」水を二口ほど飲んだところで、沙夜は漸く落ち着きを取り戻した様子だった。「どうも近頃心が落ち着かなくてのう、もしかしたらそれが溜まり溜まったが故なのかも知れぬ」

「落ち着かないって…幽霊のこと?」節子は思い切って訊いてみることにした――正確には、訊かずにはいられなかったのだ。沙夜が強い霊感の持ち主であることは本人から既に聞かされていた。そんな彼女がここまで狼狽えた表情を見せている。何か良からぬことが起きているに違いない――少なくとも節子にはそう思えたのだ。

「それよりもっと悪いもの…」沙夜の答えは節子にとって予想外のものだった。「何かの予兆といおうか、警告といおうか…」話しながら、沙夜は今朝の出来事を思い出していた。

――

事の発端は朝礼の時間に遡る。普段なら校庭で行われる朝礼であったが、この日は特別に体育館で、かつ教員全員による厳重な警備のもとで行われていた。勿論沙夜も生徒の一人として参加していた。

朝礼は校長の訓示から始まった。最近になって都心で続発している謎の失踪事件、そしてバラバラ死体遺棄事件。犯人、動機、関連性など一切不明の一連の事件の影響を受け、黒髪の若き女校長は、終業後は寄り道をせずに真直ぐ帰ること、可能な限り集団下校をすることなどを全校に呼びかけた。

訓示が終わり、校長が一礼する。他の教員達も生徒達も、勿論沙夜もそれに合わせて深く一礼する。頭を上げ、視線を壇上に戻したその時だった。

上手へと向かう校長の頭上に、突如雲のような塊が現れたのである。それが自然現象ではないことに気づくのには少し時間がかかった。周りの生徒達も教員達も、校長すらも「雲」に気づいていない様子である。つまり自分一人だけがそれを見ているのだ。

沙夜は「幽霊」の出現を直感したが、すぐに否定した。彼女には幽霊が青白い半透明の存在として見えていた。だがそれは20世紀のテレビの「砂嵐」を思わせる、形のはっきりしないものであったのだ。

入れ替わりで教頭が壇上に歩み寄ったとき、砂嵐は体育館の天井にまで広がっていった。沙夜は文字通り上の空で砂嵐の広がりを眺めていた。

やがて砂嵐はいくつかの塊に別れ、それらは無数の人型の「影」になった。砂嵐の体を持つ影達は体育館の中を激しく走り回りだした。何かの災害に見舞われ、逃げ惑っているような動きであった。

突如、何かが爆発した様な砂嵐が現れ、それに巻き込まれた影の一つが腰から上を失った。足だけとなったそれは暫く頭上をのたうち回った後、手前の生徒たちの間をすり抜け、床の下を突き抜ける様に落ちていった。

他の影達も異状に気づいたのか、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。だが爆発が彼らを捉えるのが早かった。爆発し、首や胴体を失った影達は次々と体育館内に降り注ぎ、沙夜の視界に覆いかぶさっていった。そして――、

――

「そして、気づいたら保健室のベッドにいた、という訳ね?」沙夜の話をひと通り聴いた節子は小さく頷いた。「私も沙夜ちゃんが倒れた時には本当にびっくりしちゃった」

「急な出来事だったからのう、建物の中であの様な『砂嵐』に巻き込まれたのは、わしも初めてじゃ」沙夜は軽く微笑むと、ベッドから降りるべくシーツを丁寧にめくり上げた。黒いタイツに包まれた細い足が顕になり、床に置かれていたローファーに収まった。

「あら、もう立てるの?」「うむ、それより今は何時ぐらいじゃ?」「もうすぐ昼休みの時間よ、午前中の授業のノートは、後で貸してあげるから安心して」節子は沙夜の手を取り、立ち上がるのを助けた。「それと、今日は沙夜ちゃんにお薦めのメニューがあるのよ」

「メニュー…昼食の?」「うん、『ミネストローネ』っていってね、トマトをたっぷり使った美味しいスープなのよ」「『みねすと・ろーね』…」節子に手を引かれて立ち上がった沙夜は、聞き慣れない単語を復唱しながらその味を想像した。「…そこまで薦めるのであれば、試してみる価値はありそうじゃ」

二人は丁度部屋に戻ってきた養護教諭に軽く挨拶をすると、そのまま食堂へと向かった。沙夜は節子の薦めるまま、ミネストローネと豆腐ハンバーグのセットを注文した。トマトとひき肉をふんだんに使った、若干とろみのあるスープの甘酸っぱい香りが、沙夜の五感に強く訴えかけていた。

<<<その2おわり、その3につづく>>>

――

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