転生の宴

アヴァロンの鍵対戦会「一番槍選手権」を主催するNishiのブログ。最近はDIVAとDBACのプレイが多めです。

COJショートショート:クエスト・フォー・ザ・ムーン その6

2014-09-21 00:41:45 | 創作物(M・o・Aちゃん他)
昨日は夜から吉祥寺へ。
買い物しつつCOJという感じでしたが、
あまりうまく行かなかったというのは秘密です。

さて大分間が空いてしまいましたが、
「京極院 沙夜」を主人公とした連載ショートショート、
「クエスト・フォー・ザ・ムーン」の最新話をお送りします。
今回で第6話となりますが、
物語は重大な局面を迎えている様です。

・過去作品
クエスト・フォー・ザ・ムーン その1
クエスト・フォー・ザ・ムーン その2
クエスト・フォー・ザ・ムーン その3
クエスト・フォー・ザ・ムーン その4
クエスト・フォー・ザ・ムーン その5

切札戦士 ジョーカー13(ワン・スリー) 第14話

エージェント・イン・スイムスーツ(1話完結)


<<<クエスト・フォー・ザ・ムーン その6>>>

作:Nissa(;-;)IKU

(前回までのあらすじ:ダンスの授業中、突如謎の光に包まれて姿を消した節子。教員を含めほぼ全員が外へ避難する一方、節子を救うべく、沙夜は独り校舎に残り、探索を続ける。)

(そして「ミイラくん」の助力を得たことで、遂に「アルカナ」に閉じ込められた節子とコンタクトを取ることに成功したのだった。果たして沙夜は節子を救うことが出来るのだろうか。)

「はあっ、はあっ、はあっ…」荒涼とした廃ビルの廊下を一人の少女が走り抜けている。ややカールのかかった赤毛はシニヨンでまとめられ、その体は黒いレオタードと薄手のピンク色のタイツに包まれている。節子である。

節子は未だに今自分が置かれている状況を把握できていない。ダンスの授業中に突如身動きが取れなくなり、気づいたらここにいたのだ。「アルカナ」の存在を知らない彼女が、アルカナ内に「閉じ込められた」ことを理解できなくとも、誰が責められようか。

ビルの壁はあちこちがひび割れていて、そこから冷たい風が漏れてくる。レオタードとタイツだけの節子にとってはいささか肌寒い。床もあちこちに細かな瓦礫が散らばっており、ダンス用の靴越しにも痛みが伝わってくる。

兎に角この建物の外に出なければ――その目論見は予想外の存在によって破られた。出口と思われる扉の向こうから、巨大な影が迫るのが見えたからだった。2対の腕を持ち、剣や斧で武装した怪物――その姿は以前学校のビデオアーカイブで見た「軍隊蟻」を思わせた。

影に追われる様に建物の奥へと逃れた節子は階段を駆け上がり、廊下を突き進んだ。だが廊下の半ばで彼女は足を止めた。軍隊の行進を思わせる無機的な物音が迫り来るのを感じたからだった――しかも天井から。

(どうしよう、このままだと挟撃ちに…)節子は左右を見回した。廊下は長く隠れる場所は見当たらない。階段からも遠く離れ、このままでは見つかってしまうかも知れない。途方に暮れたその時であった。

(((…節ちゃん…怪我は無いか…?)))どこからか自分の名前を呼ばれるのを感じたのである。周りを見回しても人の姿は無い。だが、その声には聞き覚えがあった。

(沙夜ちゃん?)改めて辺りを見回すが、やはり人の姿は無い。にも関わらず節子にとってかけがえのない親友がすぐ側にいる様に感じたのだ。(何処にいるの?)

(((…まさか…聞こえるのか?)))(うん…よく分からないけれど、沙夜ちゃんが思っていることが聞こえるの…)もしかして自分は既に死んでいて、幽霊となった自分に沙夜が語りかけているのではないか――そんな考えが浮かび上がりかけたが、沙夜の声にはいつも通りの温かみがあった。少なくとも、今はまだ生きている。

(沙夜ちゃん…どうしたらいいの?)(((少なくともここはまずい…右手から怪物が迫っている)))恐らく沙夜は元の世界にいて、自分の今いる世界を「外から」眺めているのだろう。もしかしたら、「戻れる」かも知れない――節子の中にかすかな希望が現れた。(ということは…左手に行けばいいのね?)

節子は一瞬左手を眺めたあと、その先に視線を移した。立ち止まっていると怪物に追いつかれるかも知れない。そう感じた彼女は一気に駆け出した。

――

暫く進むと廊下は迷路の様に複雑に入り組み始めた。沙夜の声はある時は頭上から、またある時は足元からと、感じる方向を次々と変えていた。だが彼女の的確な指示のお陰で、節子はここまで怪物に接触することなく逃げ続けることが出来ている。まるで守護天使が付いているみたい――節子はそう感じた。

やがて節子は中庭と思われる開けた場所に辿り着いた。かつて噴水として機能していたと思われる遺構は、古代ローマ時代の遺跡を思い起こさせた。見上げると空は青黒い雲に覆われており、夜のように薄暗い。その時である。

(((節ちゃん、走れ!)))突如、沙夜が警告を発したのである。訳も分からず駆け出したのと、頭上で鋭い衝撃音が鳴り響いたのは、ほぼ同時であった。

入り組んだ段差に足を取られそうになりながらも、節子は必死で背後からの脅威から逃れようとした。振り向くな、振り向いたら襲われる――そう思いながらひたすら前を見て走り続けていたが、3階分の段差を抜けて回廊へ戻ったところで、彼女は脅威の正体を見てしまった――一対の角を持った、巨大な甲虫を。

見上げると更に3階ほど上と思われる壁が割られていて、そこから続々と斧や剣で武装した「軍隊蟻」が群れを成して飛び込んで来る。彼らは巨体の割には俊敏で、細かな段差をものともせずに突き進んで来る。

節子は「軍隊蟻」のビデオの解説を思い出した。彼らは集団で獲物を追跡し、鋭い顎と強力な酸で獲物を骨になるまで喰らい尽くすというのだ。このままではあのビデオで見た、白骨化した牛や馬と同じ目に――絶望へと向かう想像力が働いたその時だった。

「クワガタ」を思わせる角を持つ甲虫が、節子の頭上を越えて飛び上がり、進路を塞いだのである。前には「クワガタ」、背後からは「蟻」の群れ、そして左右は3階ほどはある断崖――。文字通りの「挟撃ち」である。

(もう、だめだ…)節子は思わずその場に座り込んだ。もう逃げ場は無い。このままあの怪物達の餌食になるぐらいならここから飛び降りて(((節ちゃん!手を出せ!)))(沙夜ちゃん?)

沙夜からの強い呼びかけで、節子は我に返った。(((今ならおぬしを連れ戻せるかも知れぬ、だが時間が無い!)))(連れ戻すって…もとの世界に?)(((やったことは無いが…今なら出来そうな気がするのじゃ!)))(沙夜ちゃん…)

沙夜がここまで熱のこもった声をかけてくるのは、節子にとっては初めての出来事だった。だがこのままここに居ても怪物に食われるか、断崖から転落してミネストローネとなるかしかない。ならば――。

節子は勇気を持って立ち上がっった。そして「蟻」の側に向き直り、手を前に伸ばした。冷たくなっていた指先が、次第に温かみを帯び始める。それと同時に「蟻」は一斉に節子へと突進を始めた。

「蟻」の多くが途中で足を踏み外して回廊から転落する中、先頭の数体は確実に節子へと迫ってくる。背後からも地震の様な響きが近づいてくる。「クワガタ」もまた、節子を狙っている様子だ。(((今じゃ!前へ!)))

沙夜の叫び声を感じ、節子は思い切り前へと踏み出した。目の前では「蟻」が斧と剣を振りかざしながら突進してくる。だが節子は手を強く引かれる感触に全てを委ね、そして――、

――

捜索の為に校舎へと戻った校長は、屋上へ向かう階段の踊り場で2人を見つけた。壁を背に座り込む沙夜の膝の上で、節子が顔をうずめてすすり泣いているところであった。

憔悴した様子の2人を、校長は手をとって立ち上がらせた。そしてレオタードの肩紐が切れ、インナーとタイツだけの姿になった節子の為に自身のジャケットを羽織らせ、教室へ向かわせた。

結局その日は設備点検を名目に休校となった。勿論これは生徒たちの精神状態に配慮してのことである。2人の無事が伝わったことで落ち着きを取り戻した生徒たちが三々五々帰路に就く一方、沙夜と節子は校長室に呼ばれていた。

2人にとって幸運なことに、校長はその時の状況について深く問いただすようなことはしなかった。ただ2人が「見た」という光景については、興味を持った様だった。校長は今回の事案が故意のいたずらではないことを確認した上で、2人の無事を労り、下校させたのだった。

――

駅へ向かう坂道を、2人は並んで歩いていた。節子は今もまだ、夢の中にいるような茫洋とした面持ちであった。無理もない、と沙夜は思った。突然異世界に引きずり込まれ、巨大な虫に追い詰められかけたところを助けだされた、などというお伽話の様な話を、どうして現実のものと理解できるだろう。

一方沙夜は今回の出来事で、自分の中に潜む新たな力を感じていた。異世界である「アルカナ」に対し、不完全ながらも干渉できる――その意味は自分でもまだ理解できていない。だがこの力が、これから起こるであろう新たな脅威への備えになるのではないか。沙夜は何度もあの時の指の感触を反芻していた。

急な下り坂を降りきったところで、「新四谷」と書かれた駅舎が現れた。都心の駅にしては小規模な駅前に並ぶ、イカ焼きやクレープの屋台が放つ香りが、未だ夢見心地の2人を現実に引き戻した。

2人は少しだけ駆け足で、クレープの屋台へと向かった。駅舎の向こうでは十三夜の月が、静かに上り始めていた。

<<<その6おわり、本エピソードは次回その7で完結します>>>

――

◎宣伝

転生の宴セガR&D1サポーターズサイトに登録されています。興味を持たれましたら投票してみるのも良いでしょう。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ロシアン検証:期待値は3000... | トップ | メモ:おとよさんの詰めCOJ解... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

創作物(M・o・Aちゃん他)」カテゴリの最新記事