HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

カギを握る完成度の高さと編集力。

2012-12-19 13:51:01 | Weblog
 百貨店のそごう・西武が来春から新進気鋭のクリエーターが作る雑貨を売り出す。従来は自主編集売場の「トランスマーケット」で、いろんな展示会で仕入れた商品を販売していたが、ここをリニューアルしてよりエッジの利いた雑貨を期間限定で展開するということだ。

 裏を返せば百貨店業態として苦戦が続く中、ラグジュアリーとNBを中心としたファッション衣料で差別化するのは、難しくなってきたということ。メーカーや卸側も百貨店の販売力が落ちているのに、デザインに特化した商品で冒険するわけにはいかない。
 その点、雑貨ならクセのある商品でも在庫負担にならず、売場スペースもさほど食わない。それにお客はお手頃SPAが乱立するマーケットに完全に慣れてしまっているわけで、もはやファッション衣料に期待していないのは、百貨店側もわかっている。それが雑貨のテコ入れに舵を切った理由と見られる。

 ただ、この程度の政策ならどこの百貨店でも考えるわけで、今年オープンした渋谷ヒカリエも雑貨売場には注力。デザイン性が高く、上質なライフスタイル雑貨を軸に売場を編集している。
 特に和テイストの雑貨は、町工場が持てる技術を生かし企画した商品だ。まさに日本の職人技が新しい雑貨市場を切り開こうとしている点と百貨店側の思惑がうまく合致したと言える。
 そこで、そごう・西武は感性を全面に押し出すクリエーター系の雑貨で勝負にしようということだろう。同時に新進クリエーターの発掘にも力を入れ、創業者支援施設「台東区デザイナーズビレッジ」などを通じ、新たな取引先の開拓に努めるという。

 思えば、既存の雑貨マーケットは大きくわけて3つになる。一つはファッションブランドがMDの構成上、雑貨まで踏み込んで企画製造する場合。ラグジュアリーブランドに見られるスカーフやマフラー、サングラスなどのケースだ。
 二つ目は雑貨専門のメーカーや卸が有名ブランドのライセンスを得て、ブランド雑貨として製造する場合。靴下やハンカチ、傘などがこれにあたり、百貨店の「洋品売場」はこうした商品で構成されてきた。また、ムーンバットのように企画力をもつメーカーは独自で商品を開発し、ブランドマークだけでは捕捉できないニッチ市場を開拓している。


手作りにこだわれば、量産は難しい

 そして三つ目が中小零細から個人に至るまでの雑貨メーカーである。細々とした工房をもち、オリジナリティある革小物やシルバーアクセ、帽子、巻物などを手作りする。一つ目、二つ目は百貨店や量販店が卸先であるのに対し、こちらはそうした流通ルートに乗らないセレクトショップや専門店に合同展の「treasure」や「Plug in」などで商品を披露して、取引するものだ。
  中小メーカーの中にはヒットアイテムが出て、海外に工房を設けて量産に踏み切ったり、直営店を出してSPA化を進めたり、百貨店との取引が始まったりと、躍進するところもある。
 しかし、大半が手作りにこだわるあまりに、手間ひまがかかって量産できず、生産コストを価格に載せれば販売価格が上がり、貴金属でない限り利幅を取るのは難しい。資金と時間を必要とするブランドでの仕掛けなど、全く遠い話である。
 中小零細の雑貨メーカーや個人の多くがこうしたジレンマを抱えながら、商品づくりを行っているのが、雑貨業界の現実だ。

 そごう・西武のケースは、百貨店が個人営業がほとんどの雑貨デザイナーにビジネス、マーケットの場を提供したという点で、新たな一歩を踏み出したと言える。また、台東区デザイナーズビレッジが進める創業者支援や、その先にある製造業の活性化、伝統技の継承などにとっても、明るい材料になるだろう。
 しかし、問題もある。デザイナーは小売りと取引する上では、自らの作風やコンセプトがブレることなく、適正量の商品を安定的に製造していかなければならない。もちろん、クオリティや完成度も要求されるし、歩留まりが良く無ければ利益は出ないだろう。趣味の領域、自己満足の世界ではダメなのである。
 百貨店側もデザイナーによって異なるテイストをうまくまとめて売場を構成する編集力が求められる。いくら期間限定という逃げ場を作っても、クリエーター雑貨に取り組む上では時間をかけてクリエーターを育てていくことが重要だ。でなければ、場当たり的な売場づくりになるのは目に見えている。

 そして、もう一つ苦言を呈しておこう。デザイナーを目指す若者たち、そして「デザイナーを育成」を公言する学校や指導者にである。
 プロの雑貨デザイナーを育てたいのなら、素材を絞り込んでそれを最大限に生かせる技を磨かせなければならない。革か、金属か、木か、その他の素材か。100%手作りか、道具を使うのか、機械に頼るのか、単独か、分業か、である。
 そしてデザインやデッサンの力を付け、手作業や道具・機械使いの技を徹底して磨き、商品たる完成度をあげて行くことが不可欠だ。また、指導者もそれぞれの分野で徹底したノウハウを提供し、技術を教え込んでいかなければならない。
 手芸店に売っているような材料を持ち寄って、「自由に作りなさい」なんてことを1年や2年やったくらいで、クリエイティビティや技術が身に付くわけはないし、その先にプロの道が開けるはずもない。暇を持て余したおばさま方が通うカルチャースクールとは違うのだ。

 雑貨といえども、プロの道は険しい。自分の作風と技を完成させるには5年、いや10年はかかるかもしれない。それまではまともには食えないだろう。その意味で台東区のような創業者支援はありがたいことだ。
 ただ、そうした恩恵に甘えるのではなく、高い次元でクリエイティビティと技術を高めていかなければ、雑貨マーケットにおけるビジネスもクリエーターニーズも広がらないと思うのである。
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