HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

お試し拠が流行る?

2018-01-10 06:39:03 | Weblog
 2018年、ファッション業界のトレンドは何か。個人的にはデザインでも、素材でも、カラーでもないと思う。むしろEC隆盛の中で、「試着サービス&拠点」の普及が趨勢になるのではないかということである。

 昨年末に報道されているが、ヤマト運輸がついに試着拠点&サービスの実証実験をスタートさせた。ネット通販の拡大で増加した宅配荷物の再配達を減らす対策として3月末まで実験を続け、全国150カ所のサービス拠点拡大を目指すという。
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20180104-00000027-nnn-bus_all

 振り返ると、ECでファッション衣料を買う場合、試着ができないので生地の風合いや素材感はもちろん、サイズや着心地、微妙な色などを確かめることができない。靴になるとなおさら履いたフィット感がわからないまま購入することになる。個人的には、これがECのネックだと、このコラムでもずっと言い続けてきた。

 通販事業者やEC礼賛の評論家諸兄は、ページに掲載する商品情報を充実させ、返品対応等のサービスでフォローし、サイトのブランディングやシステムのインテグレーションを向上させていけば、試着の有る無しでお客がネット購入に二の足を踏むことはない的な論調を展開していた。

 確かにその通り、ECは瞬く間にファッションマーケットに浸透、普及し、ネット通販は完全に店舗販売の補完というより、独自のチャンネルづくり、シェアの拡大を成し遂げた。これには筆者も異論はない。

 ところが、商品をお客のもとに届ける配送事業者の残業が増大したのである。慢性的な人手不足に加え、荷物の増加で業務量が爆発的に増えたからだ。さらにネット通販の競争激化で「返品OK」が当たり前となり、売上げの伸びとともに返品率の向上、再販不能品の増加という副次的な問題を生じさせた。

 正月に知り合いの運送事業者と話す機会があったが、運送業界は圧倒的なドライバー不足で勤務時間が増え、居眠り運転による違反、人身事故に繋がるケースも出てきているとか。当然、プロのドライバーとして会社からは懲罰を受けるため、物流センターの管理スタッフが配送に借り出されたり、本人が倉庫業務に配置転換されたり。最悪の場合は解雇もあり得るという。メディアはそこまで報道していないが、配送業界ではごく当たり前のことなのだそうだ。

 通販事業者もEC評論家諸兄も、これらの問題が発生することにはノーマークだったと思う。宅配はもちろん、返品の増加で、人手不足の配送事業者がパンク寸前に追い込まれるなんて論調は、記憶しているだけでもビジネス紙誌はもちろん、業界メディアでは全く目にしていない。

 唯一、コンサルタントの小島健輔氏がご自身のコラムで、「通販ビジネスの経営陣やコンサルが頭で考えたシステム通りに配送業者をコントロールできないことがハッキリした。ファッション通販では『配達』だけでなく、『返品』の問題も生じている。靴なんかは試着しないとわからない。だから返品は多くなる。お客には『返品が無料で買ってから選ぶ』スタイルが浸透し、売上げが伸びるほど返品率も高まって行くというから、全く皮肉な話だ」と、警鐘を鳴らしていらっしゃった。

 ネット通販市場はほぼその通りになったわけだ。また、「玄関先で配達のスタッフを待たせておいて、その場で試着して『持って返ってよ』と言う強者も出てくるだろう。配送業者に新たな負担が生じるのだ。さて、EC礼賛の諸兄はどう改善策を訴えるつもりか。いよいよ『お試し受取所』といったデポが必要になってくる。結局、ショップレスでは無理なのだ」とも。

 これもその通りになった。だが、ネット通販の企業が改善策を打ったのではなく、配送事業者の方が試着サービス拠点づくりに参入したのである。EC礼賛の評論家諸兄が宣っていたブランディングやインテグレーションといったIT業界特有のお題目よりも、いたってアナログで現実的な機能で改善策に乗り出すわけである。今年、試着サービス拠点がお客から一気に支持を集めるようになれば、通販を行うアパレル企業は堰を切ったように賛同するかもしれない。

 その時、ファッション通販のガリバー、ゾゾタウン、ネットショッピングの古参、ヤフーや楽天はどうするつもりだろうか。「うちはバーチャルモール、仮想商店街という器を提供しているだけ、試着サービスを行うかは各社の裁量に任せる」とでも言うのだろうか。

 まあ、すでにネット通販商品の一部で店頭での受取、返品可を行っているセレクト系のショップもある。店を持っているブランドであれば、デポから店舗に商品を送り、注文客にはそこで試着してもらえばいいわけだ。定期配送の便やフィッティングルームはあるし、販売スタッフも常駐するから、こうしたインフラを活用すればコストはかからない。

 ただ、お客側からすると、これまで「ネット限定の企画商品」は、店舗に置いていないことから試着せずに購入し、気に入らなければ返品するしかなかった。これが店舗まで配送されてそこで試着できるのなら、返品の煩わしさからも解消される。今や商品ではほとんど差別化できないのだから、サービス競争が加熱すれば、やらざるを得ないだろう。こうしたサービスが現実のものとなるのは、時間の問題ではないかと思う。

 個店レベルでも試着サービスを行っているところがある。呼び方はいろいろだが、「商品ご試着サービス」「貸し出し」「こちらからの送料無料」などを積極的に謳われている。サービス詳細を紹介すると、「インターネット通販につきものの、『実際に見てみないとわからない・・・』『サイズが合うかどうか心配』などの不安を解消いたします!!」というものだ。

 また、「試着後、写真とイメージが違う、サイズが合わない等がございましたらそのままご返送いただければ結構です」「実物をご覧になりたい方にお貸し致します」「購入の義務はございません」と、ハッキリ言ってくれているので、お客の側からすれば返品する後ろめたさも感じない。

 ただ、返送する場合には送料をお客の側が負担することになる。そのコストをどう考えるかだ。ネット通販で購入した商品を着てみると合わなかったけど、返品が面倒だから無理して着るか、そのうち着なくなってムダ金を使ってしまったと後悔するか。そうした問題がクリアできるコストと考えれば、安いのではないか。ただ、それが続くと言うことになると、お客は不満のはずだ。

 実際に筆者も昨年の暮れにこうした商品ご試着サービスを試してみた。検索エンジンにキーワードを入力した後にヒットしたアイテムがあった。それを扱うショップのサイトで商品を確認すると、商品の色や生地の風合いが自分の好みで、バナーには「商品ご試着サービス」と記されていたから、これは好都合だと思い利用した。

 もちろん、試着の目的は実際の生地とサイズ、着心地などを確かめて購入するかを決めたいからである。送られてきた商品を見ると、生地は掲載写真のイメージより薄っぺらだったため、試着するまでもなく返品を決めた。店舗で接客を受けたのではなく、販売スタッフの顔色を窺わなくて済むので、買わない踏ん切りも簡単についた。

 返送料はこちらで負担しなければならないから、料金がいちばん安いゆうパックを利用した。ただ、年末で郵便局の窓口はたいへん混雑しており、かなり待たされて時間を食ってしまった。それだけは如何ともし難い。その時は試着サービス拠点が早く福岡にもできてネット通販事業者がみな賛同すれば、そうした煩わしさからも解消されると切実に感じた。やはり返品は非常に面倒である。これはお客の共通の思いだと考える。

 結局、筆者が昨年に実店舗、ネット通販で購入したファッションアイテムは、スニーカー1足だけだ。これもゾゾタウンを利用したので試着できないことから、2サイズを注文して自宅に届いてから試着し、1足を返品した。もちろん、返送料はこちらで負担しなければならない。ゾゾタウンの担当者からは電話口で返品要領など細かな注文を付けられ、お客としてはあまりいい気分はしなかった。返品が増えると、商品に瑕疵が発生し、再販不能率も上がっているからだろうか。

 配送業者への負担を改善し、ネット通販の返品率を下げるには、やはり試着サービスと商品の管理徹底を行わなければならないと思う。そのためには拠点開設が不可欠である。各企業経営者の年頭所感を見ても、こうしたサービスに注力する動きはそれほど見られないようである。しかし、マーケットはECコンサルタントや評論家諸兄が思っているようには動かないのも事実だ。

 試着サービスの拠点が普及して各社が参入していけば、嫌が上でもサービス競争は激化する。これまでECへの参入で店舗賃料や人件費のコストが下げられ、利益が上がるとほくそ笑んでいた経営者も多かったのではないか。今年はそうした思惑も一気に吹っ飛んでいく1年になるかもしれない。

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