1年ぶりに東京に出張した。毎回、大半がメーカーとの打ち合わせや企画プレゼンにとられ、注目の施設や新業態を見て回る時間はそれほどない。
何かビジネスのヒントを期待したわけでもないが、東京の各地で進む再開発事業の行方には興味をもった。そこで感じたことをまとめてみたい。
東京都心部だけで官民含めて100件以上の再開発プロジェクトが完成、または進行している。ファッションが関係するものでは、松阪屋銀座店跡地をメーンとした銀座六丁目10地区第一種市街地再開発事業、いわゆる銀座6丁目プロジェクトだ。
渋谷でもヒカリエの誕生で一段落したように見えるが、渋谷駅をぐるっと囲むように東急プラザと道玄坂、駅南、桜丘口の再開発事業は今もなお継続中だ。
先頃、宮下公園も商業施設になることが発表されたし、渋谷川沿い遊歩道の整備計画もあり、またまだ開発の槌音は収まりそうもない。
東京駅周辺でも東京ステーションシティ、八重洲口広場、キッテ東京と続き、2017年春頃には丸の内口広場も完成予定だ。そのキッテは来春には博多駅前にも誕生する。
郊外では吉祥寺でJR、京王といった鉄道会社による駅ビル再開発が進み、人の往来増を見越してドンキホーテやフランフラン、ユニクロなどの大型店が次々と進出した。
これらの再開発事業で共通項と言えるのが超高層から高層のビル建設が積極化していることだ。2020年には東京オリンピックが開催されるので、規制緩和によるビル建設の容積率が割り増しされたことが最大の理由だろう。
不動産事業者としても、東京という地価が高い土地に投資をするわけだから、投資資金を早期に回収するには、ビルを多層にしてより多くの収益を上げようとする。
加えて土地の面積は限られているので、高層化すればそれだけ収容力を最大化できるわけだ。結果としてビルの構造は高層部にオフィス、中層部にホテル、低層部に商業施設を誘致する形にパターン化されていく。
また鉄道路線の新設、都市高の延伸といった交通インフラの整備は、巨大資本のもとに加速化しており、人の移動をスムーズにさせることで、拠点となる駅やランドマークは必然的に開発されることになる。
特に民間による再開発事業はバブル崩壊後、地価が下がった時に購入し、再び地価上昇を目論んでビルを開発して転売することで差益を稼いだり、開発したビルにオフィスやテナントなどをリーシングして、利回りを高める思惑で進んでいく。
ところが、ことは簡単にはそういくとは思えない。過去にはオフィス賃料やテナントの歩率家賃などの収入が計画通りにいかず、巨額の特別損失を計上した不動産デベロッパーもあるくらいだ。
本当にオフィスやテナントをリーシングするには、どんな「器」が求められるのか。そこまで考えてプロジェクトは進められているのか。どうしても膨大な建設企画案や事業計画書はあるが、収益を生むための抜本的なソフトが見えて来ない。
再開発施設にはどんなコンテンツ、いわゆる企業やテナントが必要になのか。出店してペイするようなブランドやショップ、業態がどれほどあるか。つまり、開発事業者と入居企業が一体となって考えようとしているのかということである。
こうした再開発ビルにテナント出店する場合、出店時に要した初期投資の回収はもちろん、店舗維持のためのランニングコストを捻出するには、相当の売上げがないと成り立たない。
一例をあげれば、東京駅八重洲地下街にあるユニクロも、イオンモール鹿児島にあるユニクロも、置いているシャツの値段は一緒である。
となると、出店する側が高級ブランド店となって、「商品の単価を上げるか」である。また、デベロッパー側が高級ブランドをリーシングしなければ、商品単価は上がらない。
だが、高級ブランドになると、その背景にあるもの作りや技、イメージやロイヤルティを確立するには時間とコストが必要で、簡単に創り上げられるものではない。
高級ブランドを導入するにしても、ブランド側はロイヤルティを守るために出店立地を選ぶ。銀座といっても路面だろうし、渋谷駅周辺のビルインは厳しいし、道玄坂は飛び地になる。つまり、高級ブランドの出店もそう簡単ではない。
客単価を上げるには、こちらも高級ブランドを置けばいいのだが、今度は購入客の収入に左右されてしまう。確かに東京の可処分所得は高いが、若者を除けばファッションに投資する額は年々低下している。まして、高級品を購入する層は限られてくる。
購買客数を増やすのは、東京のような人口集積があれば、やり方次第では可能だろう。しかし、現状を見る限りユニクロに続くような購買客数を増やせる業態は登場していない。それほどキラーコンテンツとなるファッションテナントが不足しているのである。
東京でもチェーン店を中心にドミナント展開が多く、新業態も似たり寄ったりで同質化競合も顕著になっている。
ファッションはもとより、最近では雑貨店でもその傾向は顕著に見られる。出張中、銀座にリニューアルオープンした「イグジットメルサ」のテナントなんかがまさにそうだ。
大手セレクトショップでは、商業施設が開業するたびにスピンオフの業態を出店させているが、それによりメーン業態が食われてしまうカニバリゼーションが起きているのではと思えるくらいである。
つまり、再開発プロジェクトは、ハード的には国土強靭化計画の一助になり、人の往来が増えるなど交通インフラ事業者とっては、光明かもしれない。
しかし、物を売る商業、特にファッション業界では、ハード数に見合うソフトが開発が追いついておらず、お客の側からすれば施設開業のたびに「大して変わり映えしない」の印象ではないだろうか。
結局、ファッションが期待はずれであれば、次に不可欠なものは「飲食」である。着るものは毎シーズン新しいアイテムを買わなくても済むが、食べたり飲んだりすることを止めるのはできないからだ。
デベロッパー側も器を埋めるためには、そちらに舵を切らざるを得ず、カフェやレストラン、テイクアウトなどで新業態を次々と導入している。場所柄も関係するが、虎ノ門ヒルズの開発くらいから潮目が変わったような気がする。
飲食事業者はFC化や多店舗化を狙って新業態の開発には余念がないようだし、商社もコンテンツ開発を狙い海外業態のリサーチや国内事業化には積極的だ。
飲ではエスプレッソの次に何が来るのか。個人的には海外由来の日本茶カフェも狙い目だとは思うが、どの業態にしてもどこまでFC化、多店舗化できるかがカギになるだろう。
食ではフレンチトーストやパンケーキに次ぐブームを起こせるか模索中というところだろうか。
こう考えると、東京の再開発事業でどこまでファッション業界が活性化されるかは、全く未知数と言わざるを得ない。
業界、事業者側も現状のコンテンツや業態はすでに出尽くしているため、集客を図るにはいろんなイベントを絡めて何とか活性化の糸口を探ろうとしている。だが、新たなムーブメントの創出までには、まだまだ時間がかかりそうである。
単純に東京を見ると、随所に江戸文化が残り、交通網の充実と高層ビル群、そして新たなカルチャー発信と、世界に誇れるメトロポリタンと言える。筆者が仕事をしていたニューヨークと遜色ないというか、段々似てきた感じがする。
しかし、再開発事業で建設される高層ビルがニューヨークのそれと根本的に違うのは、都民や観光客を恒常的に惹き付ける「魔力」を持つようなビルがないことである。
ニューヨークではワールドトレードセンターが無くなったとはいえ、Empire State Buildingが依然としてトップの座に君臨している。
建築から80年を経過し老朽化に域に達しても、世界中の人々を惹き付けてやまないのは、それがSkyscraperであるからだ。ニューヨークでは「文明が辿り着く極地」とさえ言われ続けていることも大きな理由である。
渋谷区と港区を足したくらいしかない狭いマンハッタンで、「より高いビルを建てる」というモットーは、国土が広い米国にあっていかにもニューヨークらしい。本音は東京と同じなのだろうが、それを見せないところがヤンキー流のプライドなのだと思う。
ただ、ニューヨークにしても、高層ビルが象徴する大量生産、大量消費は正しいことなのか。Skyscraperは米国の傲慢さの表れではないのかという意見もある。それをそのまま東京に置き換えられないでもない。だから、開発の先の展望が不可欠なのだ。
ニューヨークでは低地からも様々なカルチャーが発信され、それも世界中の人々を惹き付けてやまない。その一つにタウンやストリートを中心にしたファッションも、位置づけられているということである。
東京がニューヨークを模倣することはなく、どこまでより東京らしく再開発されていくのか。その一翼を担うカルチャーがこれからどう醸成されていくか。
ニューヨークで人気のドーナツ店を原宿に持って来るだけでは、活性化にはならないだろうし、カルチャーの醸成でもないだろう。
だからこそ、ファッションが東京カルチャーの一つとなることができれば、業界としてもまだまだ望みはあると思う。
何かビジネスのヒントを期待したわけでもないが、東京の各地で進む再開発事業の行方には興味をもった。そこで感じたことをまとめてみたい。
東京都心部だけで官民含めて100件以上の再開発プロジェクトが完成、または進行している。ファッションが関係するものでは、松阪屋銀座店跡地をメーンとした銀座六丁目10地区第一種市街地再開発事業、いわゆる銀座6丁目プロジェクトだ。
渋谷でもヒカリエの誕生で一段落したように見えるが、渋谷駅をぐるっと囲むように東急プラザと道玄坂、駅南、桜丘口の再開発事業は今もなお継続中だ。
先頃、宮下公園も商業施設になることが発表されたし、渋谷川沿い遊歩道の整備計画もあり、またまだ開発の槌音は収まりそうもない。
東京駅周辺でも東京ステーションシティ、八重洲口広場、キッテ東京と続き、2017年春頃には丸の内口広場も完成予定だ。そのキッテは来春には博多駅前にも誕生する。
郊外では吉祥寺でJR、京王といった鉄道会社による駅ビル再開発が進み、人の往来増を見越してドンキホーテやフランフラン、ユニクロなどの大型店が次々と進出した。
これらの再開発事業で共通項と言えるのが超高層から高層のビル建設が積極化していることだ。2020年には東京オリンピックが開催されるので、規制緩和によるビル建設の容積率が割り増しされたことが最大の理由だろう。
不動産事業者としても、東京という地価が高い土地に投資をするわけだから、投資資金を早期に回収するには、ビルを多層にしてより多くの収益を上げようとする。
加えて土地の面積は限られているので、高層化すればそれだけ収容力を最大化できるわけだ。結果としてビルの構造は高層部にオフィス、中層部にホテル、低層部に商業施設を誘致する形にパターン化されていく。
また鉄道路線の新設、都市高の延伸といった交通インフラの整備は、巨大資本のもとに加速化しており、人の移動をスムーズにさせることで、拠点となる駅やランドマークは必然的に開発されることになる。
特に民間による再開発事業はバブル崩壊後、地価が下がった時に購入し、再び地価上昇を目論んでビルを開発して転売することで差益を稼いだり、開発したビルにオフィスやテナントなどをリーシングして、利回りを高める思惑で進んでいく。
ところが、ことは簡単にはそういくとは思えない。過去にはオフィス賃料やテナントの歩率家賃などの収入が計画通りにいかず、巨額の特別損失を計上した不動産デベロッパーもあるくらいだ。
本当にオフィスやテナントをリーシングするには、どんな「器」が求められるのか。そこまで考えてプロジェクトは進められているのか。どうしても膨大な建設企画案や事業計画書はあるが、収益を生むための抜本的なソフトが見えて来ない。
再開発施設にはどんなコンテンツ、いわゆる企業やテナントが必要になのか。出店してペイするようなブランドやショップ、業態がどれほどあるか。つまり、開発事業者と入居企業が一体となって考えようとしているのかということである。
こうした再開発ビルにテナント出店する場合、出店時に要した初期投資の回収はもちろん、店舗維持のためのランニングコストを捻出するには、相当の売上げがないと成り立たない。
一例をあげれば、東京駅八重洲地下街にあるユニクロも、イオンモール鹿児島にあるユニクロも、置いているシャツの値段は一緒である。
となると、出店する側が高級ブランド店となって、「商品の単価を上げるか」である。また、デベロッパー側が高級ブランドをリーシングしなければ、商品単価は上がらない。
だが、高級ブランドになると、その背景にあるもの作りや技、イメージやロイヤルティを確立するには時間とコストが必要で、簡単に創り上げられるものではない。
高級ブランドを導入するにしても、ブランド側はロイヤルティを守るために出店立地を選ぶ。銀座といっても路面だろうし、渋谷駅周辺のビルインは厳しいし、道玄坂は飛び地になる。つまり、高級ブランドの出店もそう簡単ではない。
客単価を上げるには、こちらも高級ブランドを置けばいいのだが、今度は購入客の収入に左右されてしまう。確かに東京の可処分所得は高いが、若者を除けばファッションに投資する額は年々低下している。まして、高級品を購入する層は限られてくる。
購買客数を増やすのは、東京のような人口集積があれば、やり方次第では可能だろう。しかし、現状を見る限りユニクロに続くような購買客数を増やせる業態は登場していない。それほどキラーコンテンツとなるファッションテナントが不足しているのである。
東京でもチェーン店を中心にドミナント展開が多く、新業態も似たり寄ったりで同質化競合も顕著になっている。
ファッションはもとより、最近では雑貨店でもその傾向は顕著に見られる。出張中、銀座にリニューアルオープンした「イグジットメルサ」のテナントなんかがまさにそうだ。
大手セレクトショップでは、商業施設が開業するたびにスピンオフの業態を出店させているが、それによりメーン業態が食われてしまうカニバリゼーションが起きているのではと思えるくらいである。
つまり、再開発プロジェクトは、ハード的には国土強靭化計画の一助になり、人の往来が増えるなど交通インフラ事業者とっては、光明かもしれない。
しかし、物を売る商業、特にファッション業界では、ハード数に見合うソフトが開発が追いついておらず、お客の側からすれば施設開業のたびに「大して変わり映えしない」の印象ではないだろうか。
結局、ファッションが期待はずれであれば、次に不可欠なものは「飲食」である。着るものは毎シーズン新しいアイテムを買わなくても済むが、食べたり飲んだりすることを止めるのはできないからだ。
デベロッパー側も器を埋めるためには、そちらに舵を切らざるを得ず、カフェやレストラン、テイクアウトなどで新業態を次々と導入している。場所柄も関係するが、虎ノ門ヒルズの開発くらいから潮目が変わったような気がする。
飲食事業者はFC化や多店舗化を狙って新業態の開発には余念がないようだし、商社もコンテンツ開発を狙い海外業態のリサーチや国内事業化には積極的だ。
飲ではエスプレッソの次に何が来るのか。個人的には海外由来の日本茶カフェも狙い目だとは思うが、どの業態にしてもどこまでFC化、多店舗化できるかがカギになるだろう。
食ではフレンチトーストやパンケーキに次ぐブームを起こせるか模索中というところだろうか。
こう考えると、東京の再開発事業でどこまでファッション業界が活性化されるかは、全く未知数と言わざるを得ない。
業界、事業者側も現状のコンテンツや業態はすでに出尽くしているため、集客を図るにはいろんなイベントを絡めて何とか活性化の糸口を探ろうとしている。だが、新たなムーブメントの創出までには、まだまだ時間がかかりそうである。
単純に東京を見ると、随所に江戸文化が残り、交通網の充実と高層ビル群、そして新たなカルチャー発信と、世界に誇れるメトロポリタンと言える。筆者が仕事をしていたニューヨークと遜色ないというか、段々似てきた感じがする。
しかし、再開発事業で建設される高層ビルがニューヨークのそれと根本的に違うのは、都民や観光客を恒常的に惹き付ける「魔力」を持つようなビルがないことである。
ニューヨークではワールドトレードセンターが無くなったとはいえ、Empire State Buildingが依然としてトップの座に君臨している。
建築から80年を経過し老朽化に域に達しても、世界中の人々を惹き付けてやまないのは、それがSkyscraperであるからだ。ニューヨークでは「文明が辿り着く極地」とさえ言われ続けていることも大きな理由である。
渋谷区と港区を足したくらいしかない狭いマンハッタンで、「より高いビルを建てる」というモットーは、国土が広い米国にあっていかにもニューヨークらしい。本音は東京と同じなのだろうが、それを見せないところがヤンキー流のプライドなのだと思う。
ただ、ニューヨークにしても、高層ビルが象徴する大量生産、大量消費は正しいことなのか。Skyscraperは米国の傲慢さの表れではないのかという意見もある。それをそのまま東京に置き換えられないでもない。だから、開発の先の展望が不可欠なのだ。
ニューヨークでは低地からも様々なカルチャーが発信され、それも世界中の人々を惹き付けてやまない。その一つにタウンやストリートを中心にしたファッションも、位置づけられているということである。
東京がニューヨークを模倣することはなく、どこまでより東京らしく再開発されていくのか。その一翼を担うカルチャーがこれからどう醸成されていくか。
ニューヨークで人気のドーナツ店を原宿に持って来るだけでは、活性化にはならないだろうし、カルチャーの醸成でもないだろう。
だからこそ、ファッションが東京カルチャーの一つとなることができれば、業界としてもまだまだ望みはあると思う。