研究会の回数を重ねるにつれ、私は自分の将棋を取り戻しつつあった。
「さおりさん本来の将棋に戻りましたね」
田口さんを圧倒する将棋を見て糸井君が言った。
「いいところなく負けるって、悔しいですね。でも、さおりさんの本当の力が知れてよかったです」
「みずきちゃんは菜緒派だもんね」
私は嬉しさの照れ隠しで、皮肉を言った。
「いえいえ、私はさおりさんに憧れて女流棋士になったんですから」
「そうだったっけ?」
「ええ。小さい頃、二人が対局している時は、常にさおりさんを応援していました。判官贔屓というか」
「判官贔屓?確かに菜緒ちゃんの方が強かったからね」
田口さんは「しまった」という顔をしていた。若い子をからかうのも面白い。
「でも、強い矢沢さんに堂々とした攻め将棋で、勝った時のさおりさんの格好良さは説明がつきません」
「さおりさんの影響で、田口さんって攻め一本の将棋なんだ?」
糸井君が割り込んできた。
「そうですよ。いま、私と同世代の子たちは、菜緒派とさおり派に二分されているんです。どっちのファンだったかで。お二人とも、将棋の強さやスタイルの違いありますけど、外見も含めて。矢沢さんは可愛いらしくて、さおりさんは美人で格好良かった。私は断然、さおり派でした」
「みずきちゃん、そんなに気を使わなくていいよ」
そう言いながら、私の気分はまんざらでもなかった。それと同時に、彼女から見た今の自分はどうだろうと思うと、罪を犯しているような後ろめたさがあった。
「さおりさん本来の将棋に戻りましたね」
田口さんを圧倒する将棋を見て糸井君が言った。
「いいところなく負けるって、悔しいですね。でも、さおりさんの本当の力が知れてよかったです」
「みずきちゃんは菜緒派だもんね」
私は嬉しさの照れ隠しで、皮肉を言った。
「いえいえ、私はさおりさんに憧れて女流棋士になったんですから」
「そうだったっけ?」
「ええ。小さい頃、二人が対局している時は、常にさおりさんを応援していました。判官贔屓というか」
「判官贔屓?確かに菜緒ちゃんの方が強かったからね」
田口さんは「しまった」という顔をしていた。若い子をからかうのも面白い。
「でも、強い矢沢さんに堂々とした攻め将棋で、勝った時のさおりさんの格好良さは説明がつきません」
「さおりさんの影響で、田口さんって攻め一本の将棋なんだ?」
糸井君が割り込んできた。
「そうですよ。いま、私と同世代の子たちは、菜緒派とさおり派に二分されているんです。どっちのファンだったかで。お二人とも、将棋の強さやスタイルの違いありますけど、外見も含めて。矢沢さんは可愛いらしくて、さおりさんは美人で格好良かった。私は断然、さおり派でした」
「みずきちゃん、そんなに気を使わなくていいよ」
そう言いながら、私の気分はまんざらでもなかった。それと同時に、彼女から見た今の自分はどうだろうと思うと、罪を犯しているような後ろめたさがあった。