メランコリア

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福音館古典童話シリーズ 43 バンビ 森に生きる フェーリクス・ザルテン/作 福音館書店

2024-04-01 11:17:53 | 
2021年初版 酒寄進一/訳 ハンス・ベルトレ/挿絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


2021年初版で昔からのシリーズが今も子どもたちに読み継がれているのは貴重

ディズニーアニメ映画では観たかなあ?
シシ神さまみたいな古老に生き様を教わる場面も面白い

生まれたばかりの頃はなんにでも驚いて、感動して、あらゆる事象を吸収し
あっという間に成長して、子孫を残して去る
とてもシンプルで豊かな一生

動物はことばを持たないから、テレパシーや五感で仲間やほかの動植物と交流する様子も
細かく描写して素晴らしい

本作を読んでいると、ヒトが動物たちにどれほど謎に満ちて
本能的に怖れられているかひしひし伝わってきて悲しくなる

ゴーボを撃ったのは、飼っていたのと同じヒトだろうか?
飼い慣らして、仲間を呼ばせて殺す罠?

ヒトは万能だと敬っていたが、ヒトも動物たちと同じ
喜怒哀楽を持ち、生まれて死ぬ生き物と諭す最後は宗教的でもあった

昔からシカに伝わる伝説がほんとうになって
ヒトと動物が仲間になることも出来るのになあ

原作のイラストをそのまま使ったとのことで
品の良い線画が文章を飾っている


【内容抜粋メモ】

1.
しげみの奥の隠れ家で生まれたノロジカのバンビ
赤い体にはこまかな白い斑点がある
母さんは、丁寧に体をなめてあげる
バンビはお乳を見つけて夢中で飲む






2.
夏になり、母さんはバンビを連れてけもの道を通る
何を見ても珍しいバンビは質問攻めにする






イタチが野ネズミを殺すのを見て驚く
バンビ:僕たちもいつか野ネズミを殺すの?
母さん:私たちは誰も殺さないのよ







2羽の鳥が食べ物を取り合ってケンカするのを見て
ノロジカもそうするか尋ねると
周りに食べ物があふれているから大丈夫だと答える母さん

草原に出る前に用心を重ねて、ようやく出ると
広々とした青空に嬉しくなり、意味もなく飛び跳ねるバンビ

母さんはバンビに追いかけっこを教える
蝶、キリギリスなどの昆虫にもうっとりするバンビ

昼間は隠れ家で眠り、草原に出歩くのは夕方から早朝のみという約束を守らせる
枯れ葉が危険を教えてくれる
心優しい木の葉はほんとうにありがたいと思うバンビ
だが、母さんが何度も言う“危険”の意味はまだ分からない







4.
平和で上品な野ウサギと挨拶する

野ウサギ:
いずれ素晴らしい貴公子になる
そりゃもう、見ればすぐにわかります







近所に住むいとこのエナもゴーボとファリーネを産んだと分かる
ゴーボは気の弱い男の子
ファリーネは好奇心の強い女の子
3頭はすぐに仲良くなる







みんなの前に見事な角を持つオス鹿が現れる

母さん:
お父さんたちよ 話しかけるかどうかは向こう次第なの
危険を逃れる知恵をつけ、ずっと生き続けたら
あなたも父さんのようにたくましくなって
ああいう角を生やすのよ



5.
バンビは耳をすまし、においを嗅ぎわけるのも上手くなった
小柄なモリフクロウは、いつもバンビを驚かす
バンビが「ビックリした」というと、フワフワした毬のようになって喜ぶ







大きなナラの木に住むリスのおばさんとも仲良しになる

母さんは急に突き放す態度を見せて、姿を消すこともあり
不安で母さんを呼びながら歩き回っていると
2本足で歩く“アイツ”を初めて見て、一目散に逃げだす
母さん:あれが、、、アイツよ!








6.
バンビは1人でいることが多くなる
母さんがまたいなくなり、寂しくて呼んでいると古老に出会う

古老:ひとりはいやか? 恥を知れ!








そして、気配も音もなく姿を消す
その日から古老にまた会いたくて探すようになる
彼は森の主で、いくつなのか、どこに住むのか誰も知らない

目の前を巨大なアカシカの群れが通り、母さんは恐怖で叫ぶのが止まらない
モリフクロウ:私に1日の長ありさ あんな連中、構わないほうがいい








7.
いきなり雷鳴がとどろき、草原にいたオス鹿が血を流して死んでいる
母さん:走るのよ! アイツよ!







カラス:
おれの一族もたくさんアイツにやられている
アイツは気分で殺す

ふたたび古老に会う
古老:自分の耳で聞き、鼻でかぎ、目で見るのだ 自分で学べ



8.
木から葉が落ちる
葉:僕らがいなくなっても、また別の葉っぱが出てくるってほんとかな?
葉:下に落ちても、まだなにか感じるのかな?
と話しているうちに、また1枚が下に落ちて冬となる



9.
これまで豊かな世界しか知らなかったのに
雨が多くなり、北から嵐がやって来て
ひもじく大変な時期が来た

隠れ家は四方から風が吹き抜けて
はじめは喜んでいた雪も、食べ物が見つからなくなり
仲間たちは寄り添い合う

ネットラばあさん:子育てはこりごりだね

ロンノはアイツに炎を投げつけられて、左脚をひきずっている話をして
英雄扱いされている

アイツには“3本目の手”(銃)があるという噂をネットラばあさんは信じない

エナおばさん:飛んでいるキジも落とす

大人になりかけのマレーナ:
いつかアイツが私たちの所へ来て
穏やかになって仲直りして、森じゅうが幸せになるって言い伝えがあるわね








10.
寒さはさらに厳しくなり、ひもじさで辺りは殺伐とする
カラスの群れが野ウサギの病弱な息子を襲って食べ
リスはテンに噛まれてこと切れた
キツネがみんなから好かれていたキジを引き裂いた









体が弱いゴーボはまともに立っていることもできない
遠くでカケスが警戒音を出して、アイツが仲間を連れてやって来る







イタチの前を野ウサギが逃げても、みんな恐怖で我を忘れて駆けている
母さん:バンビ、ちゃんと私についてくるのよ

友だちの野ウサギも雷鳴にやられる
ゴーボは雪の中で身動きできない
ゴーボ:僕は転んでしまった 君も行ってくれ、バンビ







ようやくあたりが静かになり、ネットラばあさん、ファリーネと再会して喜ぶ
エナおばさんとも合流するが、それきり母さんに二度と会うことはなかった



11.
ネットラばあさんが冬の間も食べ物のありかを教えてくれたため、生き延びることができた
バンビは生えたばかりの角をハシバミの木にぶつけて
表皮や被毛を落とす







リス:角の手入れが終われば、見違えたようになる
と褒められて喜ぶバンビ







だが、ほかのオスたちがバンビに寄ってたかって追い回し
ロンノとカルスにも酷い目に遭う

バンビに若い力がみなぎり、前にいるオスに突進して、それが古老だと気づく
古老:体も大きくなって、強くなった 勇敢であれ



12.
また夏が来て、ファリーネを見ると急に心がかき乱されるようになる
バンビ:僕のこと好きかい? 僕と一緒にいてくれる?

そこにカルスが現れて、バンビは迷いなく激突し、カルスは逃げだす
ロンノもファリーネを追い回し、バンビは怪力で突撃したため
ロンノの角の先が砕け、血を流して去る

ファリーネ:ステキだった あなたが好きよ








13.
アカシカを見て、ファリーネも悲鳴を上げるが
バンビは彼女を守ろうとして恐怖心を乗り越えていることに気づく
アカシカもバンビと仲良くなろうとして、また今度にしようと立ち去る










14.
居眠りから覚めたバンビは、ファリーネが「こっちよ・・・」と呼ぶ声に誘われる
古老:行くな メスの呼び声ではない

古老について行くと、アイツがメスの声をマネて呼んでいると分かる
ファリーネに再会した時、離れても僕を呼ばないでくれと頼む







15.
草原でゴーボと再会して喜び合う

ゴーボ:
アイツに助けられて、一緒に暮らしていたんだ
ボクはね森の誰よりもずっと多くのことを体験したよ







草原でもまったく警戒しない様子を見て呆然とするバンビたち



16.

ゴーボ:
雪で倒れていたら、イヌが見つけて、アイツはボクを家に運んだ
アイツの住処は冬でも暑いくらいさ
干し草、クリ、欲しいものは何でも食べさせてくれた
アイツの子どもも僕を可愛がってくれた









古老も来て、ゴーボの首輪を見るなり
古老:不幸なやつだ と言って去る



17.
森じゅう、ゴーボの話でもちきりとなり
エナおばさんは息子を特別な存在として自慢する
マレーナはゴーボを好きになり、いつも一緒にいるようになる



18.
バンビは古老の言ったことが頭から離れず探し回る

モリフクロウ:君が古老のお気に入りなのは知っている
と言われて喜ぶバンビ

なんでも知っているモリフクロウに居所を聞くと
行ったことのない窪地の向こうの風に倒れたブナの老木の下の穴にいると教えてくれる

古老:今は感じるだけで十分だ いずれ分かる時が来る しっかり生きるのだ








19.
みんなが寝る昼間に草原を歩き回るゴーボ

ゴーボ:
食事は持ってきてもらうものだ
冬になったら、アイツの所へ行くからいいさ

またアイツが来て、カケスが警告するのも聞かないゴーボ
雷鳴がとどろき、ゴーボの脇腹が開いて血まみれの内臓があふれ出す
ゴーボ:アイツは、ボクだと分からなかったんだ・・・







20.
オオバン:無事に生きて、お腹をいっぱいにしたければ、動いてなくちゃ

キツネがカモの母さんをくわえて行くと
子ガモたちは「僕たちの母さんを見ませんでしたか?」と嘆いている







友だちの野ウサギは罠にかかり、古老は角で助けてあげる
古老:生きるとはなにか学ぶのだ そして、用心をおこたるな








21.
雷鳴がとどろき、バンビの左脚の力が抜ける

古老:
立て! 逃げなくてはならない、わが子よ!
さもなければ終わりだ アイツが追ってくる

古老のあとをついていくと、血を流した場所からひと回りして戻るのを繰り返し
イヌの尾行をまく

薬草を食べて、ブナの木の下の穴で休み、傷は日に日によくなるが
しばらくは恐怖と衝撃から抜け出せなかった



22.
秋になり、バンビも古老のように気配を消す術を身に着ける

リス:
大事なナラの木をアイツが伐り倒した
ナラの木が泣き叫び、みんな宿なしだ
みんな、君が死んだと思っている








バンビは懐かしく思い出すが、古老の言ったことで一番大事なのは1人でいられること
生きていることの意味を理解したければ、1人でいなくてはならない



23.
冬のある日、前足が折れたキツネがイヌに追われて近くまで逃げてきた
古老:われわれには関係ない







キツネ:われわれは親類じゃないか 家に帰らせてくれ 家族のそばで死にたいんだ

イヌ:
ダメだ! オレはあの方を愛しているし、あの方は全能だ
ウマ、ウシ、ニワトリ、みんなが崇めている

カケス:裏切り者!






イヌはキツネのノドに噛みついて殺し、主人を呼ぶ

古老:
もっとも恐ろしいのは、不安におびえながら一生を過ごし
アイツを憎み、自分までも憎み、アイツのせいで殺し合いをすることだ



24.
ファリーネを見かけて、灰色になり、年をとっていることに気づく
心を揺さぶられるが、声をかけずに去る

その時、3発の雷鳴が響く
古老と見に行くと、密猟者は首に傷口が開いて死んでいる







古老:
アイツが全能というのはウソだ
アイツと私たちに差などない 私たちと同じなのだ
アイツも怯え、苦しみ、悩む 倒されることがあるのだ


バンビ:私たちすべての上に、私たちとアイツにまさるものが存在するということなんですね

古老:
これで私の役目は終わった この世に別れを告げる場所を探す
私の息子よ しっかり生きるのだ お前をこよなく愛していた

(これまでオオカミやクマとか出てこなかったのに
 このヒトは誰にやられたんだろう?



25.
夏 草原に子どもが2人いて、母を探して泣いている
バンビ:ひとりはいやか?

あの男の子はなかなかいい 大きくなったら、また会うかもしれないな
女の子もファリーネの子どもの頃にソックリだ









訳者あとがき
本書は動物たちの五感が豊かに描かれている







『動物絵本シリーズ』の吉田遠志:
動物は言葉を持たない だから私の絵本では、動物は一切言葉を発せず、思いは絵に描きこんだ

「動物文学」
イソップ寓話「アリとキリギリス」など
アンナ・シューエル『黒馬物語』
キップリング『ジャングル・ブック』
ポター『ピーターラビット』
ボンゼルス『ミツバチマーヤの冒険』など

バンビは、“子ども”の意味のイタリア語“バンビーノ”から来たと思われる
ディズニーのアニメーション映画『バンビ』で広まった
映画ではアメリカナイズされ、アカシカが描かれている

手塚治虫も気に入って、1951年『バンビ』をマンガにしている
2005年『カラー復刻版 手塚治虫のディズニー漫画 バンビ ピノキオ』

『少年少女世界動物文学全集』あかね書房 1964年
『バンビ』は第一巻目に収録

アカシカ“ヒルシュ”は群れをつくるが、ノロジカ“レー”は違う


フェーリクス・ザルテン
本名ジークムント・ザルツマン 1869年ハンガリーのペスト生まれ
16歳でギムナジウムを中退し、家計のために働きながら作家を目指す

「カフェ文化」
ウィーンではカフェを文化サロンとし
ザルテンも常連だった

第一次世界大戦では、ユダヤ人の文化復興「シオニズム運動」に傾倒
1923年頃から動物物語を書き、動物を介して「生きる」ことの厳しさを描く

ナチス台頭により、スイスに移り、1945年チューリッヒで死去
『バンビ』の続編『バンビの子供たち』ほか


ハンス・ベルトレ
1880年 オーストリア生まれ
第一次世界大戦中は戦争画家として活動 1943年没








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