海外旅行は歯が命(ちがう意味で) モロッコ虫歯激痛編

2017年01月29日 | 海外旅行

 旅のトラブルで、は最強かもしれない。

 に迷った、お腹をこわした、荷物を盗られた、病気になったなどなど、旅行中なれない土地でピンチに立たされるケースというのは、ままあるものであるが、

 

 「どないしようもない感」

 

 で上位に来るのは歯痛ではあるまいか。

 モロッコを旅行したときのこと。

 砂漠の国で、なぜかが見たくなった私はエッサウィラという街にやってきた。

 エッサウィラは大西洋岸にある港街。世界遺産にも登録されており、ブルーを基調にした街は抜けるような色合いであざやかに美しく、かつエキゾチック。

 小さいながらも、すこぶるつきに、魅力あふれたところであったのだ。

 宿を探してチェックインすると、さっそく屋上に上ることにした。

 泊まった宿はいわゆる安宿だが、立地だけは抜群によく、のすぐ側にあったからで、屋上に立った私は思わず「わー」と声を上げた。

 そこから見えるのは、一面の青い海だったのだ。

 なんという美しさ。すばらしいロケーション。この宿は大当たりだ。

 さわやかに流れてくる海風が頬に心地よい。タンジェマラケシュでは、旅行者にたかる不良モロッコ人だらけだったが、この街はなんと落ち着くのか。

 嗚呼、旅に出てよかった。

 こんなものを見せられては山ではないが、ベタにヤッホーとでも思いっきり叫び声を上げたくなるのが人情。

 よし、やってみるか。

 童心に帰った私は両手を口にメガホン状にそえ、その塩っぽい風を胸一杯に大きく吸いこみ、せーのでヤ……。


 いだ、いだだだだだだだだ


 風に乗るはずだった呼び声は、情けないダダケ声となって、さわやかな海に響き渡った。

 ぐがあ、い、痛い痛い。いったーい

 突然の強烈な痛みに襲われた私は、コバルトブルーの海に向かって無様な叫び声を上げたのであった。

 いったー、なんじゃこりゃあ。

 あまりの激痛に気絶しそうになりながらも、いったん深呼吸したところで正体がわかったのである。

 虫歯だ。

 歯かよ。激痛の正体は歯だ。

 げ、まずい、こんなところで、えらいことになった。

 どうすりゃいいんだと検討する間もなく、痛みの第二波がやってきた。それも、今度は一発目の3倍アタックである。

 いだあああああああ!痛い、痛いよう(泣)。

 旅にトラブルはつきものであるが、その対処法というのは、たいていの場合はガイドブックに載っているものだ。

 迷子なら人に道をたずねればいいし、お腹をこわせばを飲む、盗難にあったら保険のために盗難証明書を書いてもらえばいい。

 が、虫歯はそうはいかない。

 日本にいても、どうにも対処のしようがないのが歯の痛みであるが、海外だとそれがより、どうしようもなくなる。
 
 どうすればいいのかといえば、ふつうは歯医者に行くしかない。

 しかしである。ただでさえ歯医者なんぞというのは、日本でも、あらゆる理由をつけていきたくないところである。

 それをさらに、海外。それもモロッコの歯医者など、悪いけど信用でけるんかいな。

 さらに悪いことに、歯の治療には旅行保険がきかない。

 そら、命に関わることでもないし、パスポート紛失みたいな、出入国に関わるようなトラブルでもない。

 第一それを認めたら、勝手に海外で保険使って、高い治療を受けようとするヤカラがいるのであろう。

 実際、お年寄りの中には保険を使って海外の病院に入院して、格安で休養を取るという強者もいる。なので、歯に保険が、きかないのは理解できる。

 となると、何も考えず治療してもらったら、あとでいくら請求されるかわかったもんではない。十三あたりの、ボッタクリバーみたいなみたいな目に合うのでは。

 それに、の方も疑問である。

 技術大国で医療レベルの高い日本だからこそ、嫌々でも歯をまかせられるのだ。

 それを、モロッコの医療水準はどんなもんか知らないが、日本より上ということはないだろうし、どうにも、たかり屋の多いモロッコ人など(ホント頭きます)、果たして信用していいものか。

 うかつに口を開けたりしたら、映画『マラソンマン』みたいに、元気な歯に穴を開けられたりしないか。いや、これは日本でもハズレの歯科医に行くと、ないこともないしな。

 それでもまだ、治療してくれれば、マシかもしれない。雑誌『旅行人』の蔵前仁一編集長はインドかどっかで歯医者に行ったら、



 「この治療はどこでやったんだ、すごい技術だ、何? 日本? そうか、さすがたいしたもんだ。もっと見せてくれ」



 治療そっちのけで、助手たちも集めて、大研究会がはじまってしまい、蔵前さんは治療室で間抜けに口を開けながら

 

 「はやぐなおじでぐれー」

 

 情けない声をあげたそうで、そんなことになったら目も当てられない。

 そうしてアレコレ考えた結果、結論としては



 根性でなんとかする」



 ということになり、安宿のシーツにくるまってひたすら耐えた

 かつて妄想……大和魂だけを頼りに50倍の火力を持つアメリカと一戦を交えた、大日本帝国の先輩たちにならったのである。

 もちろんのこと、そんなことで口中の悪魔を振り払えるはずなどないのだが、他に手がないのだからしょうがない。

 結局、激痛で一晩中、一睡もできなかった。死ぬかと思いました。

 幸いなことに、次の日になったら痛みは奇跡的に引いていき、なんとか旅行を続けることができたけど、もしあの痛みが、ずっと続いていたらどうなっていたかと想像すると、これはゾッとする。

 帰国後すぐ歯医者に飛んで抜いてもらったが、もしこれから旅行に出るという方がいらっしゃったら、パスポートや着がえとともに、歯のチェックも忘れないようにしたほうがいいかもしれない。

 旅行者の中には

 

 「これから世界一周するぞ」

 

 勇んで出かけて、三日後くらいに歯の痛みで、一時帰国を余儀なくされた、という人の話も聞いたことがある。

 ふだんは平気でも、環境が変わったことによって、いきなり痛み出すこともある。

 ゆめゆめ、虫歯をあなどってはならないのだ。あー痛かった。


 


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