シドニー・ルメット監督 アル・パチーノ主演『狼たちの午後』は極上の人間喜劇映画

2017年04月18日 | 映画
 『狼たちの午後』を観る。

 いかにも硬派なタイトルに、主演が『ゴッドファーザー』のアル・パチーノ。DVDパッケージの紹介文によると、


 「焼けつくような白昼のブルックリンの街の銀行を襲った2人組の強盗と警察の対決を描く。『十二人の怒れる男』を撮った社会派の巨匠シドニー・ルメットによるアカデミー賞六部門ノミネートの傑作!」。


 これは一体どんなハードなストーリーが展開されるのかと期待していたのだが、これが見てみてビックリ。

 なんと狼な社会派と見せかけて、この映画、思いっきりコメディーだったからである。

 というと、おいおいちょっと待て、この作品は実際にニューヨークで起こった銀行強盗事件を題材にしたセミドキュメントのような映画ではないか。

 演出もシリアスで、どこにも笑いの要素があるのかという意見はあるかもしれないが、私にはどう見てもコメディー映画にしか見えなかったのである。

 事件は夏のニューヨーク、ブルックリンの銀行で起こる。

 閉店時間まであと少しという時間帯、3人組の銃を持った男が押し入ってくる。

 「手をあげろ!」。

 リーダーはアル・パチーノ演ずるソニー。ピストルと猟銃で武装した彼らは、支店長をはじめとする銀行員を人質に取り、金を要求する。

 このオープニングからして、これからのハードな2時間を予想させてくれるところだが、あにはからんや。このソニー率いる強盗団というのが、実に場当たり的で頼りないのである。

 まず開始数分で、仲間の一人がビビリまくって、

「ソニー、オイラには無理ッスよ」

 泣きを入れて、「あとはまかせた」といきなり敵前逃亡。おいおいである。

 残されたのはソニーと、その相棒「ベトナム帰りでムショ帰り」、神経症気味のサル。

 いきなり一人減ったけど、今さら後に引けないと、パニックを起こしている女性銀行員に銃を突きつけ、金庫を開けさせる。

 ところが、有り金を全部詰めろとの要求に差し出されたのは、なんと現金1100ドル

 この支店の金は、すでに全額本店の方に送られてしまった後なのであった。残っていたのは1100ドルと、カウンターにある小銭のみ。

 もうここで爆笑である。この導入部、どう見てもシチュエーション・コメディーの冒頭ではないか。

 いきなり、なかなかなマヌケっぷりを発揮するソニーたちだが、さらに悪いことに、次の対策を講ずる間もなく、あっという間に警官隊に包囲されることに。

 外には武装警官にパトカーにヘリコプター、さらにはFBIまで登場。うかつに外に出ればスナイパーが狙っているという、スットコ強盗団には身にあまる、超マジモードの大歓迎。

 億単位の大金をかけているならともかく、小銭程度の強奪でドタマをぶち抜かれてはたまるまい。

 あまりのことに呆然となり、頭をかかえるソニー。どう見ても笑うところだ。

 しかも、ここからの展開も、シリアスなのに妙にほのぼのしている。

 まず、人質のはずの銀行のお姉さまたち。

 当初こそ、ライフルを向けられて「キャー」なんて、しおらしく叫んでいたが、ソニーとサルがあまりに頼りないことに完全に気を抜いて、だんだん倦怠になっていく。

 のんびり煙草は吸うわ、銃で遊ぶわ、帰りが遅いというダンナに「冷蔵庫のもの温めて食べて」と電話するわと、ひとり気を張って糖尿病の発作を起こす支店長とは対照的に、リラックスしまくり。

 そんな「のほほんストックホルム症候群」とでもいうようなのんびりムードの中、金も盗れず進退窮まったソニーは開き直って、海外に高飛びを決意。

 警察に逃亡用の飛行機を用意させるが、そのやりとりの中、ソニーが調子にのってアティカ刑務所の暴動(1971年に、劣悪な環境と差別待遇により囚人が起こしたもの。死者も出た)を引き合いに出して、野次馬たちをあおったせいで、いつのまにか彼は民衆の英雄に。外は今でいう「祭り」状態に。

 「がんばれ、ソニー!」のコールが鳴りやまないまま、ソニーはサルと逃亡先について相談するが、

 「南の国へ飛ぶ、どこがいい」

 「……ワイオミング」

 「それ、アメリカじゃねーか!」

 なんていう漫才のような会話を披露したりと(もちろんサルは大まじめ)、状況の過激さと強盗二人のスットコぶりが、もう見事なコントラストなのである。


 (続く→こちら




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