「オレとソマリアで海賊のバイトせえへんか?」。
飲み屋で、唐突にそんなことを言いだしたのは友人スミヨシ君であった。
海賊のバイト。いきなり意味不明だ。
ふつう、バイトといえばコンビニとかマクドナルドとか、お金が欲しいなら肉体労働とかが相場ではないのか。
そういえば彼は昔、9.11のテロのあとオサマ・ビンラディンが賞金首に指定されたニュースを見て、
「シャロン君、いいバイト見つけたぞ。オレと一緒にビンラディン探しに行こう!」
などと誘ってきた男であった。
どういう仕事観なのか。それはアルバイトではないだろう。どう見たって「プロ」の仕事だ。
そこを今回は海賊。おおかた『ONE PIECE』か『天空の城ラピュタ』の影響でも受けたのかと問うならば、
「なに言うてるねん。キミが貸してくれたソマリアの本に書いてあったんやがな」
そう言われて「あー」となった。先日、「なんか、おもしろい本貸して」という友に、高野秀行さんの『謎の独立国家ソマリランド』を渡したのだが、それに感化されたらしい。
高野秀行。「辺境作家」として、コンゴに怪獣を探しに行ったり、ゴールデントライアングルでアヘンを栽培したりという、破天荒な取材からのオモシロ本の数々で、読書ファンには有名なお人。
最近ではテレビ番組「クレイジージャーニー」で一般にも知られるようになったが、『ソマリランド』は、そんな高野さんが、
「世界でもっともデンジャラスな地域」
と呼ばれるソマリアに出向き、その独特すぎる体制や文化について語ったもの。
第35回講談社ノンフィクション賞を受賞した、メチャクチャにおもしろい一冊なのであるが、やはり楽しく読んだスミヨシ君はもう感動しまくり、バリバリに影響を受けたらしいのだ。
そこで友は、
「この本はすごいなあ。おもろいうえに、実用的や。なんちゅうても、『海賊の見積書』がちゃんと書いてあるもん。これさえあったら、ソマリアで海賊行為ができるんや。今度のゴールデンウィークにでも、ソマリア行って、やろうぜ!」。
けっこうなこと、ガチな目でそんなことをおっしゃる。
いや、たしかにそうなのである。高野さんは本の中で、ソマリアの文化風習言語など、日本(および西欧列強の文化)とはまったくちがった価値観をあぶり出し、その特異性をわかりやすく説明してくれるのだが、そこに
「海賊とは、本当のところなんなのか」
という、根本的な問いにも果敢に挑むのであった。
たしかに一口に海賊といっても、平和ボケ日本人にはいまひとつピンとこないところはある。
今どきスティーブンスの『宝島』みたいな、ドクロの旗をなびかせてラム酒を飲むイメージでないことはわかるけど、では今の海賊はどういうものなのか。
どういう人種がやっているのか。「貧困に苦しむ人がやむなく」なのか、それともマフィアのようにシステムがちゃんとあるのか。
それだけで食えるのか、それとも傭兵のように「パートタイム」なのか。男女比は? 実入りはどれくらいなの? 西崎義展さんはかかわっているの?
ニュースでは「海賊対策のため自衛隊が」とかしれっと言ってるけど、その正体は、あらためて考えると謎だらけである。そこで、
「海賊がどうやって外国の船を捕らえるのか、そういう映像を撮れないかな?」
そう考えた高野さんが、同行していた現地スタッフにたずねてみると、
「できるよ」。
との答え。
おお、できるのか。これで海賊のなんたるかが取材できるぞ、とよろこぶ高野さんにスタッフが続けることには、
「タカノ、君が海賊と武器とボートを雇えばいいんだよ」。
へ? 雇う? それってどういうこと?
もしかして、「自分で海賊をやれ」ってことではないかいな?
どうもそういうことらしい。
さすがは、「現地の人と同じように生活」し、そこから取材するスタイルで、現地の人と同じようにアヘンを栽培し、現地の人と同じようにアヘン中毒になった高野さん。
ここでは「現地の人と同じように海賊になれ」とのお誘い。そしてここから、スミヨシ君も感銘を受けた、やり手ビジネスマンも顔負けともいえる怒涛の、
「海賊行為の見積書」
提出となるのである。
(続く→こちら)
飲み屋で、唐突にそんなことを言いだしたのは友人スミヨシ君であった。
海賊のバイト。いきなり意味不明だ。
ふつう、バイトといえばコンビニとかマクドナルドとか、お金が欲しいなら肉体労働とかが相場ではないのか。
そういえば彼は昔、9.11のテロのあとオサマ・ビンラディンが賞金首に指定されたニュースを見て、
「シャロン君、いいバイト見つけたぞ。オレと一緒にビンラディン探しに行こう!」
などと誘ってきた男であった。
どういう仕事観なのか。それはアルバイトではないだろう。どう見たって「プロ」の仕事だ。
そこを今回は海賊。おおかた『ONE PIECE』か『天空の城ラピュタ』の影響でも受けたのかと問うならば、
「なに言うてるねん。キミが貸してくれたソマリアの本に書いてあったんやがな」
そう言われて「あー」となった。先日、「なんか、おもしろい本貸して」という友に、高野秀行さんの『謎の独立国家ソマリランド』を渡したのだが、それに感化されたらしい。
高野秀行。「辺境作家」として、コンゴに怪獣を探しに行ったり、ゴールデントライアングルでアヘンを栽培したりという、破天荒な取材からのオモシロ本の数々で、読書ファンには有名なお人。
最近ではテレビ番組「クレイジージャーニー」で一般にも知られるようになったが、『ソマリランド』は、そんな高野さんが、
「世界でもっともデンジャラスな地域」
と呼ばれるソマリアに出向き、その独特すぎる体制や文化について語ったもの。
第35回講談社ノンフィクション賞を受賞した、メチャクチャにおもしろい一冊なのであるが、やはり楽しく読んだスミヨシ君はもう感動しまくり、バリバリに影響を受けたらしいのだ。
そこで友は、
「この本はすごいなあ。おもろいうえに、実用的や。なんちゅうても、『海賊の見積書』がちゃんと書いてあるもん。これさえあったら、ソマリアで海賊行為ができるんや。今度のゴールデンウィークにでも、ソマリア行って、やろうぜ!」。
けっこうなこと、ガチな目でそんなことをおっしゃる。
いや、たしかにそうなのである。高野さんは本の中で、ソマリアの文化風習言語など、日本(および西欧列強の文化)とはまったくちがった価値観をあぶり出し、その特異性をわかりやすく説明してくれるのだが、そこに
「海賊とは、本当のところなんなのか」
という、根本的な問いにも果敢に挑むのであった。
たしかに一口に海賊といっても、平和ボケ日本人にはいまひとつピンとこないところはある。
今どきスティーブンスの『宝島』みたいな、ドクロの旗をなびかせてラム酒を飲むイメージでないことはわかるけど、では今の海賊はどういうものなのか。
どういう人種がやっているのか。「貧困に苦しむ人がやむなく」なのか、それともマフィアのようにシステムがちゃんとあるのか。
それだけで食えるのか、それとも傭兵のように「パートタイム」なのか。男女比は? 実入りはどれくらいなの? 西崎義展さんはかかわっているの?
ニュースでは「海賊対策のため自衛隊が」とかしれっと言ってるけど、その正体は、あらためて考えると謎だらけである。そこで、
「海賊がどうやって外国の船を捕らえるのか、そういう映像を撮れないかな?」
そう考えた高野さんが、同行していた現地スタッフにたずねてみると、
「できるよ」。
との答え。
おお、できるのか。これで海賊のなんたるかが取材できるぞ、とよろこぶ高野さんにスタッフが続けることには、
「タカノ、君が海賊と武器とボートを雇えばいいんだよ」。
へ? 雇う? それってどういうこと?
もしかして、「自分で海賊をやれ」ってことではないかいな?
どうもそういうことらしい。
さすがは、「現地の人と同じように生活」し、そこから取材するスタイルで、現地の人と同じようにアヘンを栽培し、現地の人と同じようにアヘン中毒になった高野さん。
ここでは「現地の人と同じように海賊になれ」とのお誘い。そしてここから、スミヨシ君も感銘を受けた、やり手ビジネスマンも顔負けともいえる怒涛の、
「海賊行為の見積書」
提出となるのである。
(続く→こちら)