ブレンダ・シュルツの超高層タワーリングサーブ

2013年12月03日 | テニス
 ブレンダのテニスときたら、まるで「女らしく」なかった。

 スポーツの世界には、「個性派」と呼ばれる選手がいる。それは才能ゆえか、それとも自己流ゆえか、いわゆる「基本」とか「常識」にとらわれず、独自のスタイルできびしい競争の世界を勝ち上がっていく者のこと。

 野茂のトルネード投法や相撲なら舞の海などなど、そういった例は数あるが、これが女子テニスとなると、私がまっさきに思い浮かべるのがオランダのブレンダ・シュルツ=マッカーシー。

 一昔前、まだシュテフィ・グラフが女王の座を張っていた時代、女子テニスでトッププレーヤーになるには、ひとつ抜きんでたショットを武器にすることが不可欠であった。

 グラフならあの鋭いフォアハンド、モニカ・セレスなら両サイド両手打ちからの強打、アランチャ・サンチェス・ビカリオのフットワーク、マリー・ピアースのフォアの豪打、伊達公子のライジングショット。

 ブレンダの場合は、これがサービスであった。

 それも、なまなかのやさしいものではない。188センチの長身を生かしたそれは時速200キロに近い。並の男子選手以上のスピードとパワーを誇る、まさにスーパーショットの持ち主だった。

 時速200キロといえば今でこそウィリアムズ姉妹などによって、それなりにおなじみにもなったが、当時の女子テニス界では破格の一撃。現実離れした冗談みたいなショットであった。ブレンダはこのビッグサーブを武器に世界ランキング最高9位に入り、トッププレーヤの仲間入りをする。
 
 ここでおもしろいのが、ブレンダのサービスは抜きんでた一芸というか、これが本当に「一芸」だったこと。

 普通、男子でも女子でも上位でしのぎを削る選手は、それぞれプレーに得意と苦手があるのは当然として、苦手なショットでもまったく打てないというわけではない。フェデラーにとってのバックハンドのように、あくまでも「あえていえば苦手」といったケースが多いものだ。
 
 ところがブレンダとなると、これが本当に「サーブだけ」の選手なのだ。他のショットは、はっきりいって下手。

 いや、下手なんてもんじゃない。そのフットワークも、フォアもバックもボレーも、果ては試合運びからなにから、すべてにおいて、こういってはなんだが

 「これでよくトップ10に入れたなあ」

 と、あきれるような、できなさぶり。もう、すべてがあぶなっかしくて見ていられない超ド下手なのだ。

 ゲームでたとえるならパラメーターが「サービス」のところのみ「超S」で、あとは「パワー」が「A」と、「メンタル」がなんとか「B」くらいで、あとの「スピード」「ストローク」「ボレー」「テクニック」といった基本的技術がのきなみ「E」判定なのである。これを個性派といわずして、だれを個性派と呼ぼうか。
 
 ブレンダのテニスはまさに一発ねらいの砲台。ファーストサービスでドカンとエース。ポイントが取れるのは、それ「のみ」。

 いや、これは全然大げさな話でもなんでもなく、それ以外のショットがてんでダメなんだからしょうがない。

 その証拠に一度古い映像を探してブレンダの試合を見てみてほしい。そのドタドタとしたプレーぶりは、まるで古い喜劇映画でも見ているようなふらつきぶりで、プロとは思えない頼りなさ。

 マリア・シャラポワは苦手のクレーコートでプレーする自分のことを「氷の上の牛」と表現したが、身長190センチ近いブレンダの場合、目隠ししてローラースケートをはいた大熊にラケットを持たせたようなありさまになるのだ。とにかく、あぶなっかしくてしょうがない。

 ところがこれがサービスゲームになると、次々に目にもとまらぬサーブでエースを量産していくだのから、相手からしたらやりにくくてしょうがなかろう。

 なんといっても、テニスという競技は、サービスポイントをひとつも落とさなければ、理論上では絶対に負けがないというゲームなのである。

 そんな動きは重いが直撃を食らうとひとたまりもないという、ティーガー戦車のようなブレンダがもっとも輝いたのが、1995年のUSオープンであった。

 結婚を機に「シュルツ」から「シュルツ=マッカーシー」と名乗るようになった彼女は、この年絶好調で、ウィンブルドンに続いてUSオープンでもベスト8に進出する。このとき「一撃」を食らってしまったのが、なにを隠そう日本の伊達公子だったのである。

 (次回【→こちら】に続く)



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