この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

傑作なんだろうけど好きにはなれない『風立ちぬ』。

2013-07-21 21:39:59 | 新作映画
 宮崎駿監督、『風立ちぬ』、7/21、ワーナー・マイカル・シネマズ筑紫野にて鑑賞。2013年33本目。


 宮崎駿監督の最新作『風立ちぬ』を公開二日目で観てきました。
 前作(『崖の下のポニョ』)越えの大ヒットスタート!とネットニュースで騒がれている割にはお客さんの入りは程々でした。もっとチケット売り場で長蛇の列が出来るかと思ってたんですけどね。

 宮崎駿の最新作にして遺作、そして最高傑作という評価も聞き及ぶ本作ですが、自分は正直あまり好きじゃないかな。
 百人が百人絶賛するのも面白くないので、拙ブログでは否定的なレビューを書くことにしましょう。笑。

 まず気に入らないのが公式サイトのヒロイン菜穂子の扱いです。
 彼女を指して「薄幸の少女」とあるんですよね。
 ゴメンなさい、彼女のどこが幸が薄いのかがわからない。
 確かに結核を患って短命ではあったかもしれないけれど、裕福な家庭に生まれ、容姿にも恵まれ、初恋の人と運命的な再会を果たし、そして結ばれる。
 短いけれど、羨ましいぐらいに満ち足りた人生だったんじゃないですかね?

 主人公の堀越二郎も個人的に共感できるキャラクターではなかったですね。
 幼少のころは戦闘機のパイロットに憧れるが、生まれ持った近視のため、それを諦め、一転、戦闘機の設計者を目指すのですが、彼の生涯において挫折と呼べるようなものは幼少期にパイロットを諦めたことぐらいなんです。
 あとはもう本人がやりたいと思うことをやって、後から結果がついてきちゃう。挫折もない、障害もない、失敗もない(少なくとも作品の中でそういったことは描かれない)。
 菜穂子とのことも関東大震災の際に彼女を助けると、十年後再会するまで彼女は二郎のことを慕い続けていて、再会した後はこれといった苦も無く二人はくっついちゃう。
 やりたいことをやって、それが万事うまく行っちゃう、そういったキャラクターに自分は共感は出来ないし、好きにもなれません。

 彼を好きにはなれない理由は他にもあって、菜穂子と結婚し、一緒に暮らすようになっていた二郎は溜まっていた仕事を家に持ち帰るんですよね。結核を患い、体調が優れず横になっていた菜穂子は仕事をしていた二郎に手を握っていてくださいと懇願し、二郎もそれを了承します。
 そこまではいいんですよ。
 煙草を吸いたくなった二郎が煙草を吸いたくなったから手を離してもいいかと聞くと、菜穂子は(手を握ったまま)どうぞ吸ってくださいと言います。
 そしたら驚くことに二郎はその言葉を真に受けて煙草を吸い始めるんですよね。
 いくら本人から許しが出たとしても、結核患者の前で平気で喫煙しちゃう二郎の神経は自分には信じられません。
 そこは単純に我慢するか、もしくは一時的に席を立てばいいじゃないですか。

 自分の目には主人公の二郎が好き放題にやっているように映りましたが、それは監督である宮崎駿に関しても同じことが言えると思います。
 本作に関して公開前に一番話題になったのは主人公の堀越二郎の声を声優の経験はまったくない、ずぶの素人である映画監督の庵野秀明が当てたことだと思います。
 もし堀越二郎というキャラクターの声のイメージに庵野秀明の声が一番ピッタリだから彼を採用した、というのであれば、何も問題はないし、それが当然です。
 しかし自分にはそうは思えないんですよね。
 宮崎駿が主人公の声に庵野秀明を起用したのは、彼の声がピッタリだと思ったからというより、単純に彼と一緒に仕事をしたかったから、つまり彼のことが好きだったから、、、としか思えない。
 事実かどうかは定かではありませんが、そう想像するだけで気持ち悪いです。

 本作が傑作であることは否定しませんが、単純に脚本だけで見るとお世辞にも出来が良いとは言いかねると思います。
 例えば本作ではカプローニというイタリア人が登場します。
 彼はしばしば主人公の二郎に対し、人生の指針となるような言葉を与えます。
 しかし彼は二郎の夢の中にだけ登場するキャラクターなんです。つまり、カプローニを創作したのは他でもない二郎自身と言えます。
 自分が作り出したキャラクターの言葉に従うなんて、、、と思いました(この解釈については間違っているという人が多いでしょうね。カプローニはあくまで実在の人物であり、彼と二郎の夢がリンクしただけなのだと。そう思えたらよかったんですけどね。)

 何より一番の問題は、二郎にとって何より重要なのがあくまで美しい飛行機を作ることであり、その飛行機がどのような使われ方をしようとまったく頓着しないことですね。
 自分としては二郎がそのことに苦悩し、躊躇し、反省する姿を見てみたかったのですが、、、そうなると作品が全然別のものになっちゃうでしょうね。

 何やかんやケチをつけましたが、本作が傑作であることを否定する気はないのです。
 近作の『ハウルの動く城』や『崖の下のポニョ』などは「観る価値がない」と酷評しましたからね。笑。
 本作が宮崎駿の遺作でなければいいと思います。


 お気に入り度は★★★、お薦め度は★★★★(★は五つで満点、☆は★の半分)です。
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4 コメント

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もの申~ぉすっ! (sunblue)
2013-07-22 21:03:23
ご無沙汰しております。ペコ。

ご無沙汰にも関わらず、もの申してぇ…ごめんなさい。ペコ。

主人公の声優さんの件です。
駿氏曰く…
「天才は、天才故に、(話の先が読めてしまうから)口数が少ないものだ。ならズブの素人のしゃべりのほうが、合っていると思う」といって、あの監督さんを選んだらしいです。
オーディションしてもよかったのかもしれませんが、
状況も、仕事のことも分かっている「ズブの素人」の方が話は早いでしょからねぇ(^^)♪
それに、庵野さんは、アフレコに何回も失敗して、駿氏から「どーする?」と尋ねられても、「お願いします」と続けたそうです。恩もあったり、感じたり…なコトもあったのでは?
それに駿氏は、声優さんの「声優だからこその、すべらかな様子や、演技かかった、間とか、様子では違う」と思われたみたいです。
もともと、実在の堀越さんを、堀辰雄さんのいくつも出している詩のような小説のいくつかの話を混ぜて作った(?)作品らしいので(風たちぬの名前も、菜穂子の名前も同名の小説があったと思います。)、史実よりお伽噺色が強いと思います。
ゼロ戦になってしまう件です。
それは、ダイナマイトを作った方も同じでは?
プルトニュウムを見つけた方?探した方?作った方?も同じなのでは?
批評に、良いも悪いも無いと思ってます。
ただ、よく情報を知ってからのほうが、批評の仕方も変わるのではないでしょうかねぇ(^^)

それに、この映画はアニメですが「大人の見るアニメ」と思いますモン♪
堀さんの小説が子供向きではないですから♪

長々失礼致しました。ペコ
返信する
Unknown (デヴォン山岡)
2013-07-22 21:36:06
せぷ殿の感想、ほとんど俺と一緒ですねw

ただ、せぷ殿が「ここがダメだ」と指摘した部分が、俺にはとても面白かったんですよねw

タバコをあそこで吸っちゃうとこなんて、マジかよ!ってズッコケました。常識ハズレな奴だなってw

結局、常識ハズレな奴を描きたかったんだなと。

庵野を声優に起用したのは、監督が完全に観客を突き放したからだと思いますね。

声優の演技した声が嫌だっていう理由も、完全に自分勝手で、観客の気持ちをまるで無視してますし。

ぜんぜん天才じゃないですあんなのw

声優を決めるときのドキュメント見ましたが、ほとんど内輪ウケみたいな悪ノリで決めてたし。

でも、俺はそこにグッときたんですけどね。
この人はついに勝手気ままな作品を創れたんだなあって。
返信する
デヴォン山岡様に半分同意♪ (sunblue)
2013-07-22 22:52:07
再度お邪魔致します。

私も同じコト思いましたっ!デヴォン山岡様。
もう、子供のためとか、世のためとか、辞めて
「ご自身のため」に作ったアニだなぁ…。と。
堀辰雄さんの小説を元にした時点で、
「宮崎さんのための宮崎作品」と思いました♪
返信する
コメント、感謝です。 (せぷ)
2013-07-23 00:44:47
sunblueさん、デヴォン山岡さん、コメント、感謝です。

>sunblueさん
sunblueさんからコメントをもらって少し、、、いえ、とても驚きました。
前のように気軽にコメントてもらえたら嬉しいのですが。

>ご無沙汰にも関わらず、もの申してぇ…ごめんなさい。
いえいえ、全然構わないですよ。自分と違う意見を持つ方からのコメントも大歓迎です。

>ズブの素人のしゃべりのほうが、合っていると思う」といって、あの監督さんを選んだらしいです。
はい、そのエピソードは知っています。さらに言えば二人のこれまでの確執も。
それらを知った上で、自分は宮崎駿が本作の主人公に庵野を起用したのは、結局のところ庵野のことが大好きだからなのだろうなぁと思ったのです。

>それは、ダイナマイトを作った方も同じでは?
ダイナマイトを発明したノーベルはダイナマイトが戦争に使われたことに絶望して、ダイナマイトによって得られたお金を元にノーベル賞を設立した。その行動や思考はシンプルでわかりやすいです。
一方ゼロ戦を開発した堀越二郎の考えは自分には理解も共感も出来るものではありません。
でも理解できないから否定しているってわけではないですよ。
人間は所詮矛盾した生き物ですから、必ずしも理解しうるものではありません。
それは充分わかってはいるのです。

>デヴォン山岡さん
>タバコをあそこで吸っちゃうとこなんて、マジかよ!ってズッコケました
えぇ、あのシーンが演出として正しいというのはわかっているんですよ。
あそこで二郎に煙草を吸わせることによって、二郎がどういう人間なのか、そして二人の関係を端的に表現していますからね。
しかしそれとは別に人間としての堀越二郎は好きになれないんですよね。

>庵野を声優に起用したのは、監督が完全に観客を突き放したからだと思いますね。
それもあるかもしれませんが、自分は結局のところ宮崎駿が庵野のことが好きで好きでたまらなくて、少しでも一緒に仕事をしたくて彼を抜擢したように思いました。
そう考えた方が如何にも宮崎駿らしいですから。笑。

>この人はついに勝手気ままな作品を創れたんだなあって。
そうですね、ある意味究極的に勝手気ままな作品だと思います。
ただ自分は、もう少し観客のことも考えて作品は作って欲しいなぁと思っちゃいますが。。。

>sunblueさん
>「ご自身のため」に作ったアニだなぁ…。と。
まったく同じことを押井守も言ってましたよ。
映画『風立ちぬ』は宮崎駿が自分のために作った“オレ・ジブリ”だって。
押井守と話が合うかもしれませんね。笑。
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