この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

「『ガタカ』の嘘。」に対する質問状。

2019-02-21 22:40:39 | 旧作映画
 もうずいぶんと長く『ガタカ』という映画の考察をしてきました。
 一番詳しいのは全八章からなる「映画『ガタカ』、最終考察リターンズ」です。
 様々な角度から『ガタカ』という映画を考察しています。
 ただ、この最終考察リターンズはやたらめったら長いんですよ。
 なので最近は『ガタカ』に対する自分の考えを理解してもらいたいときは『ガタカ』における嘘に焦点を当てた「『ガタカ』の嘘。」という考察を読んでもらうようにしています。
 こちらは最終考察リターンズと違ってコンパクトにまとまっているので、誰にでも読みやすく、そして自分の考えを理解してもらえるに違いない、そう思っていました。
 が、その考えは間違っていました。
 つい先日、Questionさんという方から長文の質問状が届いたのです。
 以下転載です。


 はじめまして。興味深く拝見しました。
解釈は人の数ほどあると感じました。しかし
気になった箇所があり指摘させて頂きます。
チグハグなところがあり誤解する人が多いと
感じたからです。

>ジェロームはビンセントが宇宙飛行士になれるとは全く思っていませんでした。
 何を馬鹿なことを言っている、お前が勝手にそう思い込んでいるだけだろ、という方もいるかもしれませんが、もちろんそう断定するに足る強力な根拠があります。

■”ジェロームはビンセントが宇宙飛行士になれるとは全く思っていませんでした"
”断定するに足る強力な根拠"

★大風呂敷を広げましたね。

> それはジェロームが二人の暮らしたアパートメント(の焼却炉)で命を絶ったことです。

★根拠がそれですか?

> もし仮に、ジェロームに、ビンセントが無事に地球に生還すると信じていていて、それでもなお死ぬ理由があったとします。

★"宇宙飛行士になる"ことと"地球に生還する"ことがイコールになっていませんか?宇宙飛行士の定義を地球に生還した人間とする認識ですか?

> その場合、彼がアパートメントで命を絶つことはないでしょう。
 どこかよその場所で、出来ればビンセントに自らの死を知られない場所で死ぬはずです。

★そう思う理由は何故でしょうか。

> もちろん足の不自由なジェロームが遠くに行くのは困難なことです。
 しかし不可能ではないはずです。
 ジェロームがビンセントと暮らしたアパートメントで命を絶ったということは、ジェロームはビンセントが二度とアパートメントに戻ってくることはないと考えていたということに他なりません。

★最も効率良く自身を抹消することで、ビンセントがジェローム(生体認証)として生きられる様に自殺したと考えるのが論理的です。自殺未遂を経験しているジェロームが、外で証拠を残さずに自分を抹消できるとは思いません。なぜなら自身を焼かなければならないからです。自力で跡を残さずどうやって自分を焼くんですか。
※証拠とは生体認証の詐称の証拠です。

> 地球に生還すれば必ず戻ってくるはずのアパートメントに戻ることはないと考えていたということは、ビンセントは地球には生還しない、ビンセントは宇宙に行けば死ぬ、そうジェロームは考えていたということになります。

★そもそも前提が間違っているので、戻ることはないと考えていたという解釈がいまいちピンときません。宇宙に行けば死ぬというのは心不全でですか、それとも寿命でですか。何故ジェロームはビンセントの死期を予見できるのですか。

> 宇宙に行けばビンセントは死ぬ、そう考えていたにもかかわらず、ジェロームはビンセントの宇宙行きに協力し、彼を叱咤激励していたのです。
 このときのジェロームの心情を想像すると自分は泣けて泣けて仕方がありません。
 これほど心を揺さぶられる嘘が他にあるでしょうか。
 とかく嘘は人に嫌われるものですが、時に大いなる感動を生むこともあるのです。

★"宇宙に行けばビンセントは死ぬ"まずこの根拠が乏しいのですが
"宇宙に行けばビンセントは死ぬ、そう考えていたにもかかわらず、ジェロームはビンセントの宇宙行きに協力し、彼を叱咤激励していたのです。"
これは嘘ですか?

すみません、段々イライラしてきました。
一解釈として読めばいいと思われるかもしれませんが、曲解の領域だと感じるので放っておけませんでした。A→B→Cと結論を急ぐ前に、A'→A→A+→B'...と順を追って文章を展開された方が良いかもしれませんね。


 まずお礼を言わせてください。
 この質問状はこのブログの過去最長コメントであり、この先においてもたぶんそうでしょう。
 コメントを書き込むのもさぞかし大変だったのではないでしょうか。

 さて、質問に答えさせてもらいますね。
 自分はジェロームがビンセントが地球に戻らないと考えた根拠として彼が二人が暮らしたアパートメントの焼却炉で命を絶ったことを挙げました。
 そう説明すれば誰でもそれで納得するに違いないと思っていたのですが、そうではなかったみたいですね。
 なのでもう少し詳しく説明させてもらいます。

 焼却炉の中のジェロームの死体をビンセントではない第三者が見つけたとします。
 その某は市民の務めとして当然警察に通報しますよね。
 警察は自殺なのか殺人なのかはっきりしない死体ですから、アパートメントの中を家宅捜索するでしょう。
 そうすると、ジェロームが残した大量の生体サンプルや偽装のための小道具などが見つかります。
 それだけの証拠があれば、さすがに警察もビンセントがジェロームに成りすましていたことがわかる゛です。
 宇宙での任務を終え地球に帰還したビンセントはDNA詐称の罪で逮捕されます。
 最悪の結末と言っていいでしょう。

 ではビンセントがジェロームの死体を発見した場合はどうなのか?
 こちらの場合はより最悪だと言っていいですよね。
 ジェロームの変わり果てた姿を見て、ビンセントがどう思うのか、想像したくもありません。
 まともな精神状態ではいられないのは間違いない。
 そのような精神状態でタイトロープを渡るようなガタカでの日常は送れないだろう、自分はそう考えます。

 ジェロームの死体をビンセントが見つけても、ビンセント以外の人間が見つけても、最悪な結果が待ち受けているのです。
 ジェロームがそのことを予期しなかったとは考えられません(予期しなかったのであればジェロームはただの“お馬鹿さん”です)。
 ジェロームがアパートメントで命を絶つことはどう転んでもビンセントに対して多大な迷惑をかける行為なのです。
 ジェロームがそのことをよしとするとは自分にはとても思えません。
 にもかかわらずジェロームはアパートメントで死んだのですから、それはつまり彼はビンセントが二度と地球に帰らないと考えたということなのだろうと自分は考えたのです。

 失礼ながらQuestionさんはジェロームの死体をビンセントが見つけたときのことをまったく考慮されていないように見受けられます。
 それを無視すれば確かにQuestionさんの主張する説も成り立つのかもしれません。
 が、ジェロームの死体を見つけたビンセントが「わー、びっくりした!そっかー、ジェロームの奴ってこんなにも自分に成り代わって欲しかったのか―。じゃあ頑張って明日からもジェロームとして生きていくぞ!」とでも思うようなキャラクターでもない限り、Questionさんの説は成り立たないと思います。

>自殺未遂を経験しているジェロームが、外で証拠を残さずに自分を抹消できるとは思いません。
 え、どうしてですか?証拠を残さずに自分を抹消する方法なんていくらでもあるじゃないですか。
 アマゾンの奥地やサハラ砂漠で自決するのが理想ですが、それが難しいのであれば崖の上から飛び降りるとかいろいろ。

>なぜなら自身を焼かなければならないからです。自力で跡を残さずどうやって自分を焼くんですか。
 いや、だからなぜ焼身自殺することが前提なのですか?それに跡を残さないことが目的であれば人の手を借りても構わないと思いますが?
 
>何故ジェロームはビンセントの死期を予見できるのですか。
 むしろどうしてビンセントの死期をジェロームが予見できなかったと思うのか、自分には不思議です。
 二人は深い信頼関係で結ばれていました。
 そしてジェロームは誰にも話したことのない、自分の自殺未遂のことをビンセントに話しました。
 であれば、ビンセントの方も自分に関することを何もかもあけすけに、医者から三十歳までしか生きられないと言われたことも、両親から宇宙飛行士になることを止められたことも、弟との遠泳勝負のことも、(そういうシーンがなかったとしても)すべて話した、そう考えるのが自然ではないですか?
 そして俄かには信じがたい話を聞かされたら、それが真実であるかどうか確かめたくなるのが心情でしょう。
 その結果ジェロームはビンセントが宇宙飛行士として適さない、宇宙に行ったら二度と地球に帰らないと確信したとしても何もおかしなことはないと思うのですが…。
 
>A→B→Cと結論を急ぐ前に、A'→A→A+→B'...と順を追って文章を展開された方が良いかもしれませんね。
 それは最終考察リターンズでやっていることなので、当該記事においてはやっていません。

 これぐらいで質問に答えたことになっているでしょうか。
 まだ疑問があるようであれば受け付けます。
コメント (4)
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