国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

ポーランドの親ドイツ政権の成立と欧州統合反対派の英国・スカンジナビア連合の孤立深刻化

2007年11月15日 | 欧州
●ポーランド新首相就任 欧州重視の体制に回帰 2007.11.9 産経新聞

 【ベルリン=黒沢潤】ポーランドのカチンスキ大統領は9日、先月下旬の総選挙で勝利した中道右派政党「市民プラットフォーム」のトゥスク党首を首相に指名した。新首相は直ちに組閣作業に入り、来週には新政権を発足させる考え。新政権は欧州連合(EU)やドイツなどと対立したカチンスキ前政権の外交政策を大きく見直し、欧州重視へと舵を切る。

 前政権はこれまで、自国の意見を反映させるため、欧州憲法を修正した「改革条約」の採択に強く抵抗、欧州内で「問題児」(独公共放送)扱いされてきた。これに対してトゥスク氏は8日、ワルシャワを訪問したバローゾ欧州委員長との会談後、「新政権は親欧路線をとる」と明言した。

 トゥスク氏は、来月のリスボンでの新条約署名後、国内批准を早期に済ませる考えで、前政権が国民投票の実施まで表明して導入を遅らせた欧州通貨ユーロについても2012年導入を目指す。

 民族主義的傾向が強い前政権下では、第二次大戦中のナチス・ドイツの蛮行が蒸し返され、対独関係が悪化した。新政権は「ドイツは最大のパートナー」と位置づけ、関係修復に全力を挙げる。

 歴史認識や食肉輸入、ガス供給などで対立したロシアとの関係も見直す方針だ。ただ新首相はロシアに対しウクライナやグルジアとの友好重視を率直に表明、一定の「距離」を置くとみられる。

 “欧州回帰”の姿勢が強まる一方、注目されるのは対米関係だ。トゥスク氏は「英国は別として、欧州で伝統的に1番の親米国はポーランド」と主張する親米派だが、イラク駐留反対が国内で81%を占めるため、駐留軍を来年撤退させる方針。米ミサイル防衛(MD)施設の国内設置にも基本的に賛成するが、「政治的見返り」を主張する可能性が高い。

 ポーランドは1000万人もの移民を米国に送り出し、EU加盟国でもありながら、渡米ビザの申請者の5人に1人が拒否されている。現状改善に向け、国際的に知名度のあるワレサ元大統領の米大使任命も取りざたされている。

 市場重視派の新政権は内政面で、所得税の一律課税(15%)や、石油・ガスを除く約1200の国営企業の民営化を実施、今年の経済成長(6%強)を上回る経済発展を実現させたい考えだ。
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/071110/erp0711100000010-n1.htm





●ポーランド総選挙、野党が勝利・出口調査、政権交代確実に 2007/10/24 日経
 【ワルシャワ=桜庭薫】連立政権崩壊に伴う21日投票のポーランド下院選挙は即日開票された。地元テレビ局の出口調査によると、中道右派の最大野党「市民プラットフォーム(PO)」が保守系与党「法と正義(PiS)」を大差で破り、政権交代が確実になった。双子で大統領、首相を務めるカチンスキ兄弟の愛国主義的な「保守革命」は欧州連合(EU)やドイツなどとの関係悪化を招いたことから、国民の支持が離れた。

 出口調査はPOの得票率を約44%、PiSを約31%と伝えた。定数460のうち、POは226議席を占めると予想され、単独過半数の231議席をうかがう勢い。POが単独過半数に達しない場合でも、他党議員の引き抜きや農民党との会派結成により連立政権を樹立できる見通しになっている。
http://www.nikkei.co.jp/kaigai/eu/20071022D2M2200T22.html





●Enlargement backers water down Sarkozy's idea on group of wise men - Turkish Daily News Nov 14, 2007

Pro-enlargement countries such as Britain, Sweden and Denmark ensured there will be no mention of borders or Turkey, and no proposals for new EU institutions so soon after leaders agreed a reform treaty last month ending 10 years of wrangling.
http://www.turkishdailynews.com.tr/article.php?enewsid=88558






【私のコメント】
10月21日のポーランド総選挙は、ドイツとロシアを共に敵に回しEU内部で孤立することになった奇矯な民族主義政権が倒れて、親ドイツ、親EU政権が誕生することになった点で非常に意義深いと思われる。新政権はユーロの2012年導入を目指すなど欧州統合にも積極的であり、これでマドリッドからワルシャワまで、欧州大陸の5大国全てが欧州統合推進派に足並みを揃えたことになる。ロシアが親ドイツであることを考えると、欧州半島ほぼ全体が親ドイツに塗りつぶされたと考えても良いだろう。

Turkish Daily Newsによると、英国・スウェーデン・デンマークなどの欧州拡大賛成派は、トルコをEUに加盟させないためにフランスのサルコジ大統領が提案している「賢人会議」に反対だという。これらの国々はトルコをEUに加盟させることでEUの統合を阻止したいと考えていると思われる。揃って通貨にユーロを採用していないことも、通貨主権の統合に反対であることの証拠である。この観点から見ると、欧州統合反対派はEU未加盟国を含めても英国・スウェーデン・デンマーク・ノルウェー・アイスランドの5カ国しか存在しないと想像される。反ドイツの英国・スカンジナビア連合と見なせるだろう。ポーランドの前政権はユーロ導入に反対する点でこの英国・スカンジナビア連合の貴重な味方であったが、それが今回の総選挙で敗れたことは大きな痛手である。いずれにせよ統合反対派の劣勢は明らかであり、彼らは統合された欧州の中で孤立し、最終的には統合に飲み込まれていくことだろう。

ただ、欧州統合推進派の前途は決して安易なものではない。統合反対派の代表である英国の不動産バブルと同様にスペインやアイルランド、東欧諸国などの欧州辺境諸国を中心とする不動産バブルも崩壊しつつある。それは相対的に貧困なこれらの諸国の経済に大きな打撃を与えるだろう。ユーロ高の中でも輸出が堅調なドイツと異なりこれら諸国は膨大な経常赤字を出している。既にドイツ国債の利回りとフランス・スペインの国債の利回りの格差が拡大しているという情報もある。ユーロ加盟国の場合は国債価格の暴落、ユーロ未加盟国の場合は通貨の暴落という形式で統合推進派諸国は攻撃を受けることになるだろう。英国は自らの不動産バブルを崩壊させることでそれを欧州辺境諸国に波及させ、欧州統合を崩壊させるという一種の自爆テロ計画を準備している様にも思われる。欧州大陸諸国と英国の間のこの深刻な対立の行方から目が離せない。








【11月24日追記】
●デンマーク、ユーロ導入に向け国民投票へ 首相が表明 2007年11月23日 朝日新聞

 デンマークのラスムセン首相は22日、欧州の単一通貨ユーロの導入の是非を問う国民投票を実施する考えを明らかにした。欧州連合(EU)で英国などとともにユーロを拒んできたデンマークが導入に踏み切れば、ドルに続く基軸通貨としてユーロの地位固めになる。足踏みが続いた欧州統合の深化にも弾みがつきそうだ。

 デンマークは00年の国民投票でユーロ導入を否決したが、ラスムセン首相は22日の記者会見で「国民に(再び)判断を求める時が来た」と述べた。首相は13日の総選挙を経て政権3期目に入っており、任期の4年のうちに投票を実施するという。08年中に踏み切るとの見方も強い。

 ユーロは99年に誕生し、仏独などEUの主要13カ国が導入している。08年1月からは地中海の島国キプロスとマルタが加わる。

 ユーロ導入には財政赤字削減などが必要。デンマークと英国、スウェーデンは導入の条件を満たすと見られるが、ユーロが自国経済に与える影響について懐疑的で、導入を見合わせている。

 だがラスムセン首相はこの日、ユーロ不参加は「国の利益を損なう」と述べた。デンマーク中央銀行が政策金利変更のタイミングを欧州中央銀行(ECB)に連動させるなど、ユーロ圏との結びつきは極めて強いが、現状ではECBの決定に関与できない。02年からの現金流通を経て、デンマーク国民のユーロへの抵抗感も薄れている。

 ユーロは昨年末、現金の流通額が米ドルを上回ったほか、堅実な経済運営で信認が広がり、世界各国の外貨準備の25%を占めるまでになった。初期からのEUメンバーであるデンマークがユーロを導入すれば、スウェーデンや英国でも導入論が出てくる可能性がある。

 デンマークは92年、欧州連合条約の批准を国民投票で否決。93年の再度の国民投票で、ユーロ導入を「適用除外」としてようやく条約批准を可決した。00年にはユーロ参加を再び国民投票で否決。充実した福祉政策を維持できるか、国民に不安が強かったためとされる。

 AFP通信によると、10月の世論調査ではユーロ導入に好意的だったのは51%。08年にはEUの新基本条約である「リスボン条約」の批准作業が各国で始まり、ラスムセン首相としては、統合機運の高まりを追い風に導入を実現したい考えだ。改めて否決されたとしても、ユーロの評価は確立しており、ユーロ圏全体への打撃は小さいとみられる。
http://www.asahi.com/business/update/1123/TKY200711230158.html





【コメント追記】
デンマーク政府がユーロ導入に前向きになっている。ポーランドの新政権樹立と同様に、反EU的な英国にとっては大きな打撃だろう。
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Unknown (けんじ)
2007-11-17 19:57:26
ユーロについては、最近考えたことを記す。             
 元々為替差益が一般の人の関心事で実際に商売をしている人々は又別だと思う。ユーロの文化的意味は何か?EUは元々二つの大戦の反省から出来たと私は学校で習った。従がってその背後にヨーロッパではもう大きな戦争は止めようと言う暗黙の合意(それ以外はでは戦争は良い)である。ユーロを受け入れると言うことは大東亜戦後に新円切り替えがあったが、それと同じである。従がってうまく立ち回ればいい目が出来る。この要素はよく判らない。
 自国の通貨を失うと言うことは何を意味しているか?
 ヨーロッパの歴史を考えると(学校で習った程度である)共通通貨はローマ帝国がその嚆矢で、そこへキリスト教が入りやがてそれが分裂した。その背後には金の力があったが実際に商売をしている人には金は一時的な避難場所であり、之は今も同じと私は思う。
 西ローマ帝国はやがて滅びその後大きな力を持ったのは神聖ローマ帝国である。中世を抜けると新教が出来、やがて、ナポレオンの国民国家が出来た。それでもその背後にはやはり金があった。この国民国家でたぶん紙幣が実質的に流通したと私は勝手に思っている。
 このことはヨーロッパ全体に通用した通貨は歴史上無いということである。ユーロは壮大な実験と言われる所以はこの歴史的背景があるが我々日本人はその歴史感覚がなく、只の商売のみの観点からそれを見ているから、見落とす部分が多分多いトオモウ。
 その結果は如何。私は外国語が出来ないので読むことが出来ないが、ユーロは失敗すると見ているヨーロッパの人々は多いトオモウ。
 そのわけは各国の文化的背景が異なるからである。

 ユーロ高は円安だから我国はヨーロッパとの貿易に有利だがそれがどのような影響を我国に与えるかは私はわからない。しかしユーロは中世のギルド的要素があるから、やがて保護主義に陥るのではと言うより、それが最終目的でないだろうか。

 いずれにしてもヨーロッパにはかって、共通通貨はない。在ったのは金である。我々はヨーロッパ諸国のユーロに対する確執は、ヨーロッパを舞台にした戦争と言う側面を見すえ、講和条約がどのようになるか想像し、その講和条約の実質的な勝者は誰か(その中にはアメリカのある部分がある)を考えて、行動しなければならない。  
 昭和の始めに我国の首相が(欧州情勢は複雑怪奇なり)と唱えて、(自らの無能宣言だが当人はそう考えていなかった)辞任し、その後我国がどのような道をたどったかを思い起こすことと私は考えている。

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