国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

風雲急を告げるトルコ情勢:トルコの破滅的対外戦争の始まりか?

2007年10月12日 | トルコ系民族地域及びモンゴル
●トルコ軍がクルド人過激派拠点を爆撃 越境攻撃の前兆か 2007.10.11- CNN/AP

トルコ・シルナク──トルコ軍の戦闘機と武装ヘリコプターが10日、イラク国境付近で、クルド人武装勢力の拠点とみられる地点を爆撃した。イラク北部のクルド人過激派の潜伏先を砲撃したとの情報もあり、対米関係悪化の恐れがあるイラク越境攻撃の前兆とみられている。

通信社ドガンによると、トルコ軍はイラクへの逃走ルートを遮断して爆撃を実施する一方、クルド人反政府武装組織「クルド労働者党」(PKK)に対する軍事行動を支援ため、現地に戦車を派遣した。

こうしたなか南東部ディヤルバクル市内では、警察車両に手投げ弾が投げつけられ、警官1人が死亡、4人が負傷した。犯行声明は出ていないものの、これまでの前例からクルド人過激派による犯行の可能性が高い。

また、シルナク州当局によると、イラク国境に近いハブールで、女性8人を含むクルド人20人近くが逮捕された。国営アナトリア通信は、逮捕者の大半が学生であり、トルコ入国時に拘束されたとしている。
http://cnn.co.jp/world/CNN200710110016.html








●「トルコ猛反発 アルメニア人虐殺非難決議案 米下院委採択へ」世界から‐南北アメリカニュース:イザ! 2007/10/10

【ワシントン=古森義久】90年以上前のアルメニア人虐殺に関して当時のオスマン・トルコ帝国を非難する決議案が米国下院外交委員会で10日に審議されることとなった。現在のトルコ政府は、同決議案が事実の一方的解釈であり、その採択はトルコと米国との関係を深く傷つけるとして激しく反対しており、日本糾弾の慰安婦決議案とも類似する局面が注視される。

 米国議会下院の外交委員会(トム・ラントス委員長)は、1915年からの数年間に起きたアルメニア人大量虐殺を公式に「ジェノサイド」(事前に計画された集団的虐殺)と呼び、その悲劇への理解などを米国の外交政策に反映させるという決議案を10日の公聴会で審議し、採決するという予定を発表した。

 同決議案はこの虐殺をオスマン帝国の責任だとし、アルメニア人の犠牲者150万としている点などで、現在のトルコ政府が激しく反対している。しかし、米議会側ではアルメニア系米人の意向を受けたカリフォルニア州選出のアダム・シフ下院議員(民主党)らが提出し、すでに下院で226人、上院で31人の共同提案者を得るにいたった。

 トルコ政府はこの動きに対し「いわゆるアルメニア虐殺の実態はなお不明確な部分も多く、ジェノサイドと呼ぶことには問題があり、決議案の採択はトルコ国民を激怒させて、トルコ・米国関係に重大な打撃を与える」として反対し、5日付の米紙ワシントン・ポストにも決議反対の全面意見広告を掲載した。

 同広告は、エルドアン首相が歴史調査のためにアルメニアとの共同委員会を設けることを提案した点を強調し、この種の決議は「真実を求める側への不公正」だとして、その採択は両国関係を悪化させると警告していた。

 トルコ政府は今年2月には当時のギュル外相を米国議会に送りこみ、もし、この決議案を通せば、トルコは米国のイラク作戦に不可欠なトルコ領内のインジルリク基地の使用を拒むことまでも示唆していた。こうした点は日本政府の慰安婦決議案への対応とは対照的だった。

 米国政府もこのトルコ政府の主張に同調し、議会に対し、同決議案への反対を明確にしていた。またヘンリー・キッシンジャー氏をはじめ過去8人の国務長官歴任者たちが連名で9月末、下院外交委員長あてに同決議案への反対を伝える書簡を送っていた。 
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/89369/







●トルコのアルメニア人殺害は虐殺 下院委員会が決議案承認 2007.10.11- CNN

ワシントン(CNN) 米下院外務委員会は10日夜、第一次世界大戦当時のオスマン・トルコ帝国で大勢のアルメニア人が殺害されたことを「大虐殺」(ジェノサイド)と認定する決議案を、27対21の賛成多数で承認した。決議案に法的拘束力はない。

ブッシュ政権幹部は、議員らに決議案に反対するよう働きかけていた。大統領はホワイトハウスで、トルコが北大西洋条約機構(NATO)や国際テロ対策における米国の重要な同盟国であるとの認識を示し、決議案によってトルコとの関係が大幅に悪化する可能性を警告。「1915年に始まったアルメニア人の悲劇的な苦しみをわれわれは深く遺憾に思うが、今回の決議案はそうした歴史的な大量殺人への正しい対応ではない」と語った。

ライス米国務長官とゲーツ米国防長官もホワイトハウスで記者会見し、イラク駐留多国籍軍のペトラウス司令官やクロッカー駐イラク米大使、ファロン米中央軍司令官が決議案への懸念を示したと語った。ライス長官は、何年も前に起きたアルメニア人殺害を非難したい人々の感情に理解を示したうえで、「この時機の決議案採択は、われわれの中東政策にとって大変厄介だ」と明言。トルコが中東政策の戦略的同盟国であり、米国の依存度が高いことを理由に挙げた。ゲーツ長官も、イラク駐留米軍向け航空貨物の70%、燃料の30%がトルコ経由で輸送されていることを挙げ、トルコと良好な関係を保つことの重要性を強調した。

下院で過半数を占める民主党の指導部は、下院本会議で決議案を審議する意向を表明。決議案を提出したアダム・シフ下院議員は、支持者が既に226人にのぼっており、本会議での採択に必要な票数を上回っている、と語った。

ただ、トルコのギュル大統領はブッシュ米大統領への書簡で、決議案が採択された場合「両国関係に深刻な問題が生じるだろう」とけん制。トルコの駐米大使もCNNに対し、決議案採択が「トルコ国民の心を大きく傷つける動き」になると述べ、トルコと米国およびアルメニアの関係にとっても痛手だと指摘した。
http://cnn.co.jp/world/CNN200710110001.html





●駐米大使を召還=虐殺認定の決議案に抗議-トルコ  2007/10/12  時事通信 

 【エルサレム11日時事】トルコ政府は11日、米下院外交委員会が第1次大戦中にオスマン・トルコ帝国がアルメニア人を大量虐殺したと認定する決議案を承認した問題を受け、駐米大使を召還した。トルコ側は「今後の対応を協議するため」と説明しているが、米側に強い抗議の意を示す狙いとみられる。
 トルコのアナトリア通信によると、エルドアン首相は記者団に対し、同決議が承認されたことについて「将来にとって、非常に残念なことだ」と指摘。今後の対応については明言を避けつつも、「われわれの闘争は続く」と述べた。
 一方、トルコの東側に隣接するアルメニアは同委の決議案承認について「正義を獲得するための重要なステップだ」と称賛した。決議案承認は、トルコとアルメニアにとって最も敏感な問題を刺激した形だ。
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2007101200119





●トルコ国務相が訪米中止、「虐殺」非難決議受け 2007年10月13日 読売新聞

 【カイロ=福島利之】米下院外交委員会が20世紀初めにオスマン帝国で起きた「アルメニア人虐殺」の非難決議案を採択したことを受け、トルコの国務相が週末に予定していた米国訪問を中止した。半国営アナトリア通信が13日、伝えた。訪米を取りやめたのは、対外貿易を担当するトゥズメン国務相で、ニューヨークで開かれる米国とトルコのビジネス促進を話し合う会議に出席する予定だった。

 決議をめぐり、訪米を中止したトルコの要人は、海軍司令官に続き2人目となった。トルコ政府は11日、駐米トルコ大使を召還している。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20071013i213.htm







【私のコメント】
トルコ軍がイラク領クルド地域への越境攻撃の構えを見せている。もし本格的な戦争に突入すれば、イラクを占領する米国とトルコが軍事的に激突するという可能性も否定できないだろう。一方で、米国下院ではトルコによるアルメニア人虐殺非難決議が外務委員会で承認され、下院本会議での採択も視野に入っているなど、トルコは対米関係悪化を深刻化させている。このまま本会議でも非難決議が採択されれば、トルコは通告通り米国のイラク作戦に不可欠なトルコ領内のインジルリク基地の使用を拒むかもしれない。それは、イラク戦争継続を困難にさせるだろう。

米国でこの決議が採択されたのは、フランスと並んで米国にアルメニア人移民が多いことを考えれば不思議なことではない。米国のアルメニア人移民はユダヤ人に次ぐ強い政治的影響力を有し、歴史的に反トルコ運動を継続してきた。アルメニア人移民は少数民族の立場からユダヤ人と同様に民主党を支持しており、米国議会が民主党支配になった以上決議が採択されるのは自然とも言える。無論、国際金融資本の世界支配終焉に伴って米国内でトルコを支持する勢力が弱体化したという要因も大きいと思われる。

私は、米国が下院総会でもアルメニア人虐殺非難決議案を採択するというシナリオが組まれているのではないかと想像している。そしてトルコ領内のインジルリク基地の使用拒否、イラク北部へのトルコ軍の侵攻が発生し、その事態に対処するという明目で米国とイラン・シリアとの(表向きの)対立が解消される予定になっているのではないかと想像する。ベトナム戦争の深刻化が米中国交回復に繋がったのと同様のシナリオである。北朝鮮の核支援を受けたシリア・イランが米国の友好国になることでイスラエルの滅亡が確定することになる。

その後はトルコでは、米軍に支援されたイラク領クルディスタンから分離独立軍が大規模に侵入して内戦が激化すると想像する。同時にアルメニア国境、ギリシャ国境、キプロス軍事境界線付近でも領土返還を求める争いが勃発する可能性がある。トルコは周辺国全てを敵に回した破滅的戦争に突入して敗北することになるだろう。

このシナリオでは、米国・イラン・シリアの全てが利益を得ることができる。その代わり、イスラエルは滅亡し、トルコは破滅的敗北を経験することになる。イスラエル・トルコではこの敗北によって逆に活路を開くことを意図する勢力が政権を支配しているのではないかと私は想像している。イスラエルの国家としての先行きの暗さを考えたとき、アシュケナジーが自国の滅亡と引き替えに出身地の東欧への移住を検討するのは当然とも考えられる。また、トルコの支配階層は北キプロス、クルディスタン、アナトリア半島のイスラム原理主義的トルコ人といった不良資産を敗北によって一挙に切り捨てて、世俗的イスラム教徒から成るイスタンブール・イズミル両地区だけの小国を建国することを狙っているのではないかと考えている。
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4 コメント

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これを日本にあてはめれば? (おじさん)
2007-10-12 17:54:03
>また、トルコの支配階層は北キプロス、クルディスタン、アナトリア半島のイスラム原理主義的トルコ人といった不良資産を敗北によって一挙に切り捨てて、世俗的イスラム教徒から成るイスタンブール・イズミル両地区だけの小国を建国することを狙っているのではないか。

小泉は地方を切り離し、「東京政権」を狙っている?そうかんがえるとつじつまが合いますね~
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Unknown (Aletheiajp)
2007-10-12 22:12:55
>世俗的イスラム教徒から成るイスタンブール・イズミル両地区だけの小国を建国することを狙っているのではないか。

世俗的イスラム教徒の一部は、ある意味で、日本の浄土真宗のようなものだから、「新小国のEU加盟にはキリスト教への改宗が条件」と言えば飲むかもしれない。

 しかし、この場合、イスタンブールはアジア側とヨーロッパ側の新市街のみとなり、ヨーロッパ旧市街とそれに続く東トラキアは、第一次世界大戦のセーブル条約通り、コンスタンティノープル自由国として独立し、ギリシャに統合されるのが正しい。そうすれば、EU加盟は間違いなく認められるだろう。

 トルコで最も格の高いモスクは、スルタン・エユップ・ジャーミィである。これは金閣湾の最奥部に面しており、ここはテオドシウスの城壁の外側である。ここはイスタンブールに残してもよい。ブルーモスクはアジア側に移転することになるだろう。
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面白い推論ですが (名無しの経営者)
2007-10-13 12:33:48
アルメニア人虐殺問題は、Wikipediaにも記されているように、イスラム教徒対キリスト教徒の問題である。米外交委員会が、ア人虐殺非難決議を承認したことは、イラク戦争がイスラム対キリストの戦争であることを認めることに繋がる。

これはイラク戦争で米側に付いた、トルコを敵に追いやることになる。米土関係を破壊するものだ。米をイスラムの敵と断定することに等しい。イスラム社会の中の米軍の立場を決定的に不利に導くものだ。

外交委員会である以上、そのような結果を十分考慮して決議しているものと考えられる。

この状態を打開する唯一の戦略は、イスラム同士を戦わせることだ。実際米は、クルド人を扇動して対土テロをさせ、土・クルド戦争をけしかけている。イラク国内では、シーア派とスンニ派の両者に武器を与え、お互いにテロを繰り返させている。

小生には、米国が、このようなイスラム同士の争いを中東全体に広げることで、イスラエルの存立を担保しようとしているように見える。
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米軍、イラクへ代替輸送経路を検討 トルコの協力拒否備え (Aletheiajp)
2007-10-14 01:46:08
米軍、イラクへ代替輸送経路を検討 トルコの協力拒否備え

○CNNの報道です。
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 米国防総省当局者は13日、米下院外交委が第1次世界大戦当時のアルメニア人殺害を「大虐殺(ジェノサイド)」とした決議案を承認したことなどでトルコとの関係が緊張している事態を受け、イラク軍事作戦でトルコが協力を中止した場合の代替措置の検討を開始した。

 トルコ政府は11日、決議に反発して米国駐在大使の召還を発表、両国関係に重大な支障が及ぶ可能性を警告している。トルコは北大西洋条約機構(NATO)の一員で、米国のテロ戦争には協力してきた。アルメニア人の虐殺問題はオスマン・トルコ時代の事件で、トルコ政府は殺害の事実は認めているが、「虐殺」の表現には反発している。

 米国防総省によると、イラク駐留米軍への補給物質輸送でのトルコ領空の利用やトルコの空軍基地使用は大きな役割を果たしている。仮にトルコが米軍への協力を拒否した場合、ヨルダンやクウェート経由が余儀なくされるが燃料費などでのコスト増は必至だという。

 ゲーツ国防長官は最近、イラクへの補給物質輸送で燃料の約7割、装甲車両の95%がトルコ経由との事実を明らかにしている。

 米国、トルコはまた、イラク北部に拠点を構え分離独立の武装闘争を長年展開するトルコ少数民族のクルド人反政府武装組織「クルド労働者党」(PKK)に対する越境軍事行動の是非でも対立。トルコ政府、議会はこの攻撃に踏み切る動きを見せているが、米国がイラク内政への悪影響を考え、圧力を掛け阻止を図ったのも米軍の今回の動きの背景要因となっている。

→いよいよ動き出しましたね。
米国はトルコを切るでしょう。
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