農林水産省は、安全側に振った基準値を民間団体が「自主的に守る」ことを規制した。
その元記事は、http://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/ryutu/120420.html 。
騒がれた農林水産省のページが削除され、見られなくなる可能性もあることも考慮して、ここにPDFの通知内容の抜粋を張る。
(抜粋)
24食産第445号
平成24年4月20日
食品産業団体の長宛
農林水産省食料産業局長
食品中の放射性物質に係る自主検査における信頼できる分析等について
食品中の放射性物質への対応については、昨年3月に厚生労働省において定められた暫
定規制値に適合している食品の摂取は健康への悪影響はないと一般的に評価されているも
のの、より一層、食品の安全と安心を確保するため、厚生労働省により食品衛生法第11
条第1項に基づく新たな基準値が設定され、本年4月1日から施行されたところです。
(中略)
また、食品衛生法に基づく基準値は、放射性物質を含む食品からの被ばく線量の上限(介
入線量レベル)を食品の国際基準を策定するFAOとWHOの合同会議であるコーデックス委員
会の指標である年間1ミリシーベルトに合わせる一方で、算定の際の一般食品の汚染割合
を50%とし、コーデックス委員会ガイドライン(10%)より厳しい前提が置かれ、さ
らに特別な配慮が必要な飲料水や乳児用食品等を区分して長期的な観点から設定されたも
のですので、過剰な規制と消費段階での混乱を避けるため、自主検査においても食品衛生
法の基準値(一般食品:100ベクレル/kg、牛乳及び乳児用食品:50ベクレル/kg、
飲料水:10ベクレル/kg)に基づいて判断するよう併せて周知をお願いいたします。
(後略)
これに関して、中部大学武田教授は、皮肉を込めた記事をアップされている。
少し煽るような論調になっている点は、冷静さの観点からどうかと思うが、問題の発見・提起という意味ではさすがと思う。
以下、中部大学武田教授のサイトの記事(→http://takedanet.com/2012/04/post_77bc.html)から転載する。
農水省、無農薬野菜の禁止に?! 食品安全では無添加食品を禁止に?!
農水省が「1キロ100ベクレル」と決めた国の食材汚染の基準より低い目標を民間が個別にたてるな!と通達をだした。前代未聞、軍部が幅をきかせていた時代でもそうそうない話だ。東京に首都が移ってから400年、制度疲労は極限に達していると思われる。このまま掘っておくと次のようなニュースも出てくるだろう。ここで芽を摘んでおかなければならない。
【近い将来のニュース1】農水省は農家が「無農薬野菜」を栽培するのを禁止する動きに出ている。それに歩調を合わせて食品安全委員会も「食品添加物を入れない食品」の販売禁止を検討している?!
【近い将来のニュース2】日本政府と霞が関の官僚は、「日本を民主主義から封建社会へ」変えた方が日本のためになると判断、国民はバカだから自由に行動させてはダメだという方向に基本的な政策を取り始めた。国民の自由な活動を制限し、すべてを国家統制の中で生活することを強要する、それは金融政策、教育政策、環境政策ばかりではなく、国民の健康、食品まで及ぼす?!
【近い将来のニュース3】憲法には「基本的人権」が明記されているが、戦力を否定している憲法でも世界第5位の軍事力を誇る自衛隊を国民は認めてきたのだから、基本的人権を無視することもできると霞ヶ関が内部通達をだした?!
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「国が決めた食品汚染の基準が1キロ100ベクレルなのだから、それより低い自主基準は使うな!」と農水省が通達(食材の流通にとっては恫喝や準強制になる)した。「放射線障害防止規則」の第一条には「被曝をできるだけ減らすように努めなければならない」とあるのだから、「民間が国より良い方向の目標を立ててはいけない」ということをハッキリと役所が言ったということだ。
たとえば、「農薬の基準があるのだから、無農薬など認めない」、「添加物の基準が決まっているのだから、食品には必ず添加物を入れなければならない」というのと同じで、本来、ない方が良いとか、少なくした方がよいものなのだけれど、現実的に使わなければならないからこそ「**以下」という基準がある。
また、道路交通法関係では、「この道路は時速50キロに制限されているのだから、30キロで走るなどもってのほかだ」となり、校則では「9時から1時間目が始まるのだから、8時50分に教室に入るなどとんでもないことだ」、メタボでは「男性では胴回りが85センチ以下ときまっているのだから、80センチ以下を目指した個別の目標のダイエットは禁止」などとなる。
日本社会の基本的な道徳、倫理、秩序を乱す発言だ。実にばからしいが、官僚がここまで来たかということを示している。
もう一つ、「被曝は健康に良い」という自説を強調する学者がいても良いが、法律(社会の合意)では「被曝は減らす方が良い」となっていることは上記の法律でもハッキリしている。
道路交通関係でも「スピードが速いほうが緊張感があって安全だ。特に制限速度をオーバーしているときはさらに緊張しているから安全」という人がいても、「制限速度が決まっていて、速度が遅い方が安全だ」という合意がある時にはそれを守らないと社会は維持できない。
ここまで来ると、ほとんどの公約を守らない民主党、法律規則を無視する官庁は、早期に総退陣、総辞職、総退職しなければならないだろう。日本国憲法の基本的人権を無視する日本の中枢をこのまま放置して良いと考える人は、憲法改正運動(第9条ではなく、基本的人権の制限)を初めて、旗色を明らかにして欲しい。
今回の農水省の通達がだされ、報道されることは実に異常な社会である。こうなったら増税どころか、思い切って税金を半分にして、官僚のトップを全部入れ替えなければならないだろう。わずかな可能性を求めれば農水省自体が、この不適切な通達を取り消し、陳謝し、関係者を処分するなら良いが。その力は残っているか?
(平成24年4月25日)
武田邦彦