「助六」は海老蔵襲名披露公演で玉三郎の揚巻が見たくて観に行ったのが初回。その時はやたらと冗長な芝居だなぁと思ったものだ。さて2回目の今回ようやく團十郎の助六を観ることができる。1/2のNHK「初芝居中継」もながら見ではあるが観ていて、今回はずいぶんと楽しめそうだなという気がしていた。千穐楽でやっと観る。
かしまし娘さんのブログでご紹介のあった河東節で出演中のnaojiroさんのブログ「直隠居の余噺日記」に「助六」の河東節の歌詞を載せていただいているのを発見。事前にプリントアウトして予習と膝の上でチェックしつつ鑑賞することができ、感謝m(_ _)m
【歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)】
ウィキペディアの「助六」の項はこちら
あらすじ等は上記を参照してくださいm(_ _)m
口上で段四郎が格子の向こうに向かって「河東節御連中様なにとぞお始めくださりましょう」と呼びかけると、タテ三味線が「はっおー」とかけ声をかけて演奏が始まる。これは河東節独特のかけ声らしい。タテ三味線の方のお声は女性のようだった。なんかそれもいい感じだと思えてしまった。詞章をチェックしながらだと聞き流すこともなく、ぐぐ~っとその世界に入っていきやすい。
今回の主な配役は以下の通り。( )内は先ほどアマゾンで20%引きにつられて申し込んでしまったDVD収録の時の2003年1月歌舞伎座の配役。
花川戸助六:團十郎(同左) 白酒売新兵衛:梅玉(菊五郎)
三浦屋揚巻:福助(雀右衛門) 同 白玉:孝太郎(芝雀)
福山のかつぎ:錦之助(松緑) 朝顔仙平:歌昇(権十郎)
くわんぺら門兵衛:段四郎(同左) 通人:東蔵(松助)
髭の意休:左團次(同左) 曽我満江:芝翫(田之助)
金棒引き:廣太郎・廣松
今月の東京の歌舞伎4座競演のためか、新吉原三浦屋見世先の並び傾城たちが従来よりも若く美しい。芝のぶや京妙、京紫も出ている。傾城が居並ぶところへ、花道から揚巻登場。3階B席からは福助の頭の方しか見えないが、美しく立派な揚巻。舟に乗っているように揺れる酔態も色っぽく、立女形としての堂々たる存在感に感慨深い。
左團次の髭の意休が孝太郎の白玉とともに花道から登場する。孝太郎も初役ということで初々しい様子がまたいい。意休は本命の揚巻を口説きたいのだが、揚巻には助六という間夫がいるのが悔しいので助六を盗人よばわりする。それに怒った揚巻が意休に悪態をつく「悪態の初音」の名台詞も可愛げたっぷりの憎憎しさでいい。意休をしっかり振って見世の中へと入ってしまう。
そこに助六の「出端」。傘をさして花道に出てきて河東節にのってしばらく踊る。やはり團十郎の頭の方しか見えないが、見えるところだけでも引き締まった顔で気力が漲っているのがわかる。
並び傾城「助六さんその鉢巻きはえぇ」
助六「この鉢巻きのご不審か~」
この声でしびれた。いつも台詞回しはいいと思えない團十郎だが、17回目の助六の気力の充実した台詞には降参だ。私も聴き慣れてきてしまったせいもあるだろう(^^ゞ並び傾城や新造から吸い付け煙管がどんどん受け取ったり、髭の意休を挑発したりするところも余裕たっぷり!海老蔵とずいぶん違うなぁ。
福山のかつぎの錦之助がとにかくいなせでカッコイイ!赤い下帯と法被だけの姿から踊りこんで引き締まった身体がのぞくのがまたセクシー。やっぱりこの役はこれでなくっちゃ。くわんぺら門兵衛の段四郎と朝顔仙平の歌昇のしどころも楽しめる。
意休の子分どもとの立ち回り。その喧嘩を白酒売が花道に現れて止めるので、助六は白酒売にも喧嘩をしかける。「どいつだ。大どぶへさらい込むぞ、鼻の穴へ屋形船を蹴込むぞ。こりゃまた何のこったい」。こりゃまた何のこったいのところの節回しと悪態をつくオーバーな顔がまた可愛いのだ。もうこのへんで團十郎助六の可愛さにハマった。
梅玉の白酒売の新兵衛も初役だというが、これがまたすごくよかった。この役は江戸和事の役ということだが、なんともやわらかな風情がよい。ここで助六が実は曽我五郎で、新兵衛がその兄の十郎だと明かされるのだが、やわらかいだけでなく武士としての品位がちゃんとにじむのだ。さすがに義経役者だ。紛失した源氏の重宝友切丸の行方を訊ねるための刀検めのために相手に刀を抜かせるための行動と知った兄は弟に謝って、ともに喧嘩をすることにする。喧嘩の練習の鸚鵡が可笑しいったらない。足を踏み込んでも内股になってしまい、「おおどぶへ、さらいこむぞ」と繰り返す言葉のコワイ内容と優しいしゃべり方のギャップ!梅玉にこんなに笑わされるなんて初めてだ。
ふたりが国侍や通人に喧嘩をしかけて股をくぐらせるところがまた可笑しい。東蔵の通人が時事ギャグネタを炸裂させ、二人の受賞ネタで爆笑をとっていた。ギャグは噂では知っているが見たことのないものばかり(「ウソ~」「どんだけ~」「おっぱっぴー」「そんなの関係ない」等等)。TVのバラエティ番組は極力見ないのだが、こういうところで教えてもらって有難いばかり(笑)
そこへ揚巻が侍を送って出てくる。助六は揚巻の浮気を怒って侍に喧嘩を売る。顔を見て次々と萎れる兄弟。母の曽我満江だった。五郎の放埓を戒めにやってきた母は五郎の本意を知ると赦してはくれる。仇討ちのための大事な身体を守るために無茶ができないように紙衣を与えて着替えさせる。神妙になる助六ってこんなに可愛かったっけ。芝翫の満江も貫禄十分だった。揚巻に預けた紙衣は「御誂」と大書された畳紙にくるまれているのがちょっと変だったけど(笑)
満江と兄が去ると意休が再び現れて、助六の本性を見抜いた上で仇討ちの本懐をとげるための意見をするという意外な場面へ。その手段として香炉台を刀で斬るが、そこで友切丸と知れてしまう。意休は本当は何者なのか。これは省かれている前の方の段でわかるらしい。五郎がすぐに取り替えそうとするところを揚巻が意見。意休の帰りを待ち伏せすることにして退場していく。
って、2回目の今回は退屈もせずに観ることができてしまった。世代交代した傾城役の女方陣と大顔合わせの立役が揃った舞台は華やかで芝居も濃厚だった。還暦を過ぎた市川宗家の助六は上演史上で初めてということだ。病気から復活した当代團十郎がそれを成し遂げ、それも十分若々しい助六だったのを褒め讃えたい気持ちだ。
世代交代前の「助六」を観ておかないといけないと思ってしまって、2003年1月歌舞伎座収録のDVDを買ってしまった次第。雀右衛門がもっと元気なうちに歌舞伎を観始めていればよかったが仕方がない。DVDでしっかり見せていただくことにしよう。
写真はDVDの表面だが、3階でここをしっかり観るなら東に行かないといけないが、ウェブ松竹だと指定してとれないんだよなぁ。
1/26千穐楽夜の部①「鶴寿千歳」
1/26千穐楽夜の部②高麗屋父子の「連獅子」