ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

10/04/28 御名残四月大歌舞伎(7)「助六由縁江戸桜」千穐楽

2010-05-01 23:59:49 | 観劇

2008年1月の「助六由縁江戸桜」を観た時、次は新しい歌舞伎座の杮落とし公演かもと思っていたら、現歌舞伎座さよなら公演の掉尾を飾ってくれた。
写真は、観劇前に現歌舞伎座最後の千穐楽の垂れ幕のかかる正面を左の方から撮影したもの。
【歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)】
あらすじは公式サイトからほぼ引用するが、Wikipediaの「助六」の項が詳しい。
新吉原の三浦屋の格子先に、花魁の揚巻や白玉が居並ぶ中、髭の意休が揚巻を口説く。しかし助六という間夫がいる揚巻は、意休に悪態をついて見世の中へと去ってしまう。ここへ助六がやって来て、意休に喧嘩をしかける。やがて意休の子分くわんぺら門兵衛が、福山かつぎ寿吉に言い掛かりをつけるので、助六は門兵衛やその弟分の朝顔仙平を懲らしめて意休を挑発するが、意休は我慢してその場を去る。
そこへ白酒売の新兵衛が通りかかり、助六を呼び止めるが、実は助六は曽我五郎の世を忍ぶ姿で、新兵衛は兄の十郎。弟の行状を心配する十郎に対して、五郎は紛失した源氏の重宝友切丸の行方を訊ねるために喧嘩を売っていることを明かす。兄は喧嘩を奨励し、二人で国侍利金太や通人里暁などに喧嘩を売る。ここへ兄弟の母の曽我満江が現れて二人を諭し、五郎には喧嘩の戒めとなる紙衣を着せる。満江と入れ替わるように再び現れた意休が、ついに抜いた刀はまさしく友切丸。五郎は揚巻の助けで意休の帰りを待ち伏せすることにし、その場を去っていく。

今回の主な配役は以下の通り。
花川戸助六=團十郎 三浦屋揚巻=玉三郎
白酒売新兵衛=菊五郎 曽我満江=東蔵
髭の意休=左團次 三浦屋女房お松=秀太郎
番頭新造白菊=家橘 遣手お辰=右之助
三浦屋白玉=福助 白玉付番新梅ヶ香=歌江
くわんぺら門兵衛=仁左衛門 朝顔仙平=歌六
福山かつぎ寿吉=三津五郎 通人里暁=勘三郎
国侍利金太=市蔵 奴奈良平=亀蔵
男伊達 山谷弥吉=権十郎 同 田甫富松=松江
同 竹門虎蔵=男女蔵 同 砂利場石造=亀三郎
同 石浜浪七=亀寿 禿たより=玉太郎 
傾城 八重衣 松也 同 浮橋=梅枝
同 胡蝶=巳之助 同 愛染=新悟
金棒引=種太郎、萬太郎、廣太郎、廣松
口上=海老蔵

成田屋での上演の際は河東節の演奏が始まる前に口上がつくが、常には弟子筋がつとめるのを海老蔵が出てきて驚いた。成田屋を背負っていくものとして先祖が上演してきた由来を語る姿に、公私共に大きく成長したことが感じられた。TVの報道でもここはしっかり写されて絵になっていたが、海老蔵が翌5月に演舞場で水入りまで通しで助六をやるのにつながるということもあるだろう。もちろんしっかり観る予定。

一階の二等席上手席だったが2列目なので左を向くとちょうど鳥屋の揚幕のところに目がいく。揚巻の花魁道中の出で照明の逆光の中で俎帯の錦糸がきらめかせて玉三郎のシルエットが目に入っただけで、じわっと涙が浮かんできた。現歌舞伎座で立女形の頂点に立つ姿を見る最後の公演にこんな席で立ち会うことができた幸せをかみしめてしまった一瞬だった。揚巻が酒に酔って身体を揺らす姿の優雅さも満喫できた。

舞台正面の並び傾城は御曹司中心の顔ぶれ。中でも八重衣の松也が顔も声も飛びぬけて美しいのに驚く。花道の揚巻とのやりとりが続く場面は華やかさの極み。客として出てくる髭の意休の衣裳も立派で揚巻に次ぐ重さがあるらしい。左團次は貫禄もあるし、揚巻に悪態をつかれてもぐっと受けとめる度量を感じさせて適役。
揚巻の悪態の初音も玉三郎の台詞に酔う。張りと意気地の中に濃厚な色気が漂う。
揚巻の声を張り上げるのは「女暫」の巴御前とはやはり違っていて、玉三郎の真価が発揮されて実に無類なのだ。

花道からの助六の出もしっかり堪能するために今回は奮発したが、延々と花道で傘を使っての所作事を3階でしのぐには少々辛抱がいる。團十郎の助六は目が効くだけでなく所作の極まり極まりに温かみのある重厚さを感じた。大病の後の復活の度に大らかな重厚感を増している姿を舞台を観ることが有難いと思う私である。

舞台に出てきた助六への「煙管の雨」、意休への下駄乗せ、くわんぺら門兵衛、福山かつぎ、朝顔仙平などとのやりとりの内容は実に滅茶苦茶。しかし楽しいからいいのだ。海老蔵の襲名披露公演で最初に観た時は冗長な場面だなぁと感じたが、ここが楽しめるようになったわけだ。出てくる役者が仁左衛門、三津五郎、歌六というのも贅沢だ。仁左衛門はこういうご馳走の役を思いっきり可笑しく自らも楽しそうにやってくれるのがいい。

菊五郎の白酒売新兵衛で團菊が五郎十郎で揃った!立ち廻りが終るといつの間にか花道にいるといるのを新鮮に思ったが、いつもはどうだったろう。舞台に出て助六を嗜めるが、喧嘩に納得して教わるところが和事味の可笑しさたっぷり。江戸和事はやはり菊五郎の柔らかさの力の抜け具合が無類だなぁと痛感。團十郎の「剛」と菊五郎の「柔」の組合せが絶妙!!
「股くぐり」を強要する繰り返しも2組というのがいいのだ。最初の田舎侍の主従を市蔵・亀蔵兄弟というのも嬉しい。続く通人里暁が客席が待っていた勘三郎。相手に関わるネタや時局ネタで笑いをとる役だが、勘三郎はテンションの高いところが魅力で、その炸裂を待っているわけだ。
助六から「股~くぐれ」と言われ、「野暮だけどイイ男だね。1月には押し戻されちゃったしね」(「道成寺」の押戻し)「それと兄さんが大病克服されておめでとう」とか「息子が落ち着いてよかったね」とかでペラペラ言い立てる。菊五郎には「こちらもおめでとう、世界のしのぶちゃんだもんね。今日は来てるんだよね」と客席を見て湧かせる。團菊とも相好がくずれるのも無理もない。両家の紋を表裏にしたふくさを被っての股のくぐりっぷりも可愛いし、「こんなことなら木挽町へ行けばよかったけど、さよなら公演でチケットとれないんだってね」「歌舞伎座がなくなったら演舞場、御園座、南座、松竹座でやるし、平成中村座やコクーンもよろしく」としっかり宣伝。「寂しいけれど3年後には新しい歌舞伎座でもっともっと夢を見させてもらいましょうよね」「それじゃ今の歌舞伎座とはさよなら~」劇場を見渡して一礼。口元は多分「有難う・・・」と見え、引っ込んでいった。揚幕まで見えるので双眼鏡で追っかけると、涙もろい勘三郎の目にはしっかり涙が光っている。ホント、いい人だ!

三浦屋から揚巻とともに編み笠をかぶった侍風のお客が登場し、助六が揚巻の浮気相手だと詰め寄る。笠の中の顔を覗いてびっくり。十郎も粋がって喧嘩をふっかけるが同様にしてびっくり。床机の赤い布を被って隠れる姿が可愛い。ふたりの母の満江の東蔵がいい。揚巻が預かった紙衣は風呂敷の中の畳紙から取り出される。ここは演者によって違うので要チェック。
満江が十郎を伴って去った後、意休が出てきて揚巻をくどく。紙衣姿で床机に隠れていた助六が姿を表すが、揚巻が庇う。その打掛のしたに隠されて極まったところは有名だが、実に絵になる場面だとつくづく思う。そこでの意休の説教の内容が今回もよく聞き取れなかったのだが、5月は聞き取れるといいなぁ。

意休の抜いた刀が友切丸であることを確認した助六は血気にはやる。揚巻は帰るところを待つ方が上策となだめて、助六が姿を花道に消すところを舞台中央で見送る幕切れ。
やはり助六と揚巻、座頭の立役と立女形の二人が締め括る。華やかで賑々しい顔ぶれが揃った芝居の残像をこの二人に集約させているように思える。歌舞伎座最後の演目として大顔合わせで見せる「助六」には、この幕切れがふさわしい。

終演後いつまでも鳴り止まない拍手に、場内アナウンスが流れる。やはり團十郎らしくカーテンコールはなしということだ。本興行最後の日ということで、客席でデジカメや携帯で写真をとる人が多かった。一階席にsakuramaruさんと並んで座っていたので私たちも前方まで行って携帯で撮影。それぞれのグループごとに交替でシャッターを押しあったが、最後の舞台の興奮冷めやらず名残がつきない気持ちを共有していた。
色褪せた定式幕も名残惜しい。新劇場では染め直された定式幕になってしまうのだろうか。
長いお付き合いではなかったが、この5年くらいで足繁く通わせてもらった歌舞伎座に感謝の気持ちがいっぱいだ。私の一生のうちでもひとつの劇場の最後の公演の千穐楽に居合わせることができるという経験はもうないのではないかと思える。貴重な体験をさせてもらえたこともまさに有難いことだと思っている。

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
とうとう幕が降りました! (さちぎく)
2010-05-02 10:28:00
超贅沢な「助六」、超華やかな舞台、ワンワンの空気を全身に感じつつ後半近くなると、もうすぐ幕だというわびしさがこみ上げてきました。ずっとこの場に居たい!とうとう最後だという気持ちでした。でも同時に3年後のこけら落としが楽しみ、絶対見にくるよ!と心に誓いました。終演後お話できて楽しかったです。有り難うございました。
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大千穐楽 (六条亭)
2010-05-03 23:39:02
ぴかちゅう さま

御名残四月大歌舞伎の感想完結、お疲れさまでした。私の方は30日の閉場式のレポを詳細にアップしましたので、千穐楽の記事は雑感で簡単になっていて申し訳ありません。TBをうちました。

千穐楽はお目にかかれませんでしたが、私も一階席を奮発したお蔭で、團十郎さんの花道の出端の写真に写り込むという偶然がありました。なお、さちぎくさまとは第二部がお隣の席だったというこれまた偶然がありました。

歌舞伎座には本当に長いことお世話になったという感じで、閉場式では心から感謝しつつお別れをしてきました。

『助六由縁江戸桜』は祝典劇と言ってもよいでしょうから、新・歌舞伎座での杮落とにまた出る可能性も高いですね。

それまでは代替劇場で、引き続き歌舞伎を応援して行きたいですね。私は明日新橋演舞場の通しです。
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2010-05-04 02:09:21
★さちぎく様
本当に超贅沢な「助六」を千穐楽で観劇できたことは感激してしまって、揚幕を出たところの玉三郎丈の後光のさすような揚巻の後姿を見ただけで目頭が熱くなってしまいました。
終演後もおしゃべりが楽しかったです。5月はまず国立小劇場の文楽でご一緒できますね。これからも歌舞伎や文楽などでいろいろお話を聞かせてくださいませ(^O^)/
★六条亭さま
「歌舞伎座閉場式」のレポアップに感謝申し上げますm(_ _)m
私はこの5年くらいの歌舞伎観劇歴なのですが、それでも集中して通わせてもらった歌舞伎座に感謝の気持ちがいっぱいです。それに私の一生のうちでもひとつの劇場の最後の公演の千穐楽に居合わせることができるという経験はもうないのではないかと思えて、貴重な体験をさせてもらえたようで本当に有難いことでした。
千穐楽は第三部だけでしたが、久しぶりに二等ですが一階席を奮発し、花道での玉三郎丈の揚巻と團十郎丈の助六を堪能しました。華やかで賑々しい顔ぶれが揃った芝居の残像を幕切れもこの二人に集約させているように思えました。歌舞伎座最後の演目として大顔合わせで見せる「助六」には、この幕切れがふさわしいとつくづく思いました。
5月の新橋演舞場の「助六」は、海老蔵ですから「水入り」までやって若手への継承のイメージをより強くしてくれるのだと期待しているところです。さっそく六条亭さんの初日レポを楽しみにしています。
新歌舞伎座のこけら落し公演を楽しみにしつつ、3年の間、あちこちで歌舞伎観劇を続けます。御園座くらいは妹が名古屋にいることだし、まず遠征してみようかという気にもなっているところです。
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まさに掉尾 (スキップ)
2010-05-05 22:11:15
ぴかちゅうさま
歌舞伎座最後の演目としてまさに掉尾を飾るにふさわしい豪華な配役、力の入った舞台でした。
それを最後のその日に、ちゃんと花道の出からすべてお見届けになれたのはうらやましい限りです。

そうそう、並び傾城の中の松也くん、抜きん出ていましたね。同感です。

今となっては、もう新しい歌舞伎座に思いを寄せるしかないのですが、私たちの胸の中で歌舞伎座の思い出は消えませんし、ぴかちゅうさんのおっしゃるように、歌舞伎座という劇場の千穐楽に立ち合うなどという経験はこの先もあることではないでしょうから、このタイミングの幸せには感謝したいと思っています。
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豪華絢爛! ()
2010-05-09 00:44:04
「助六由縁江戸桜」は役者も衣装も豪華で、
見応えのある演目でした。
とにかく一番印象に残ったのは揚巻演じた玉三郎さんの美しさ!
ただただ見惚れておりました。
團十郎さんの助六も男の色気満載で、素敵でした♪(笑)

股くぐりでは笑えました。
勘三郎さんが花道で言った「さよ~なら~」の
映像は、
TVのワイドショーで拝見しましたが、
声に出さない(ありがとうございました)の言葉に、
ジーンと胸が熱くなりました。

先日、新橋での助六も観てきましたが、
若手中心の演目もまた素晴らしかったです♪
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皆様TB、コメントを有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2010-05-10 22:15:43
★スキップさま
第三部は久しぶりに二等ですが一階席を奮発。花道での玉三郎丈の揚巻と團十郎丈の助六を堪能できたので千穐楽だしまぁいいかと財布の紐を緩めた甲斐がありました(^^ゞ
並び傾城の中でも松也くんには惚れ惚れしました。次から次へと賑々しい顔ぶれが出てきて、まさに大ご馳走大会のようでした。
歌舞伎座も都知事のいちゃもんをやり過ごして今の建物の思い出深いファサードや赤い絨毯や柱などの設計は極力受け継ぐようにしてくれるらしいのが嬉しいです。
★「ARAIA -クローゼットより愛をこめて-」の麗さま
玉三郎丈の揚巻も語り草になりそうですよね。千穐楽直後のTV報道で花道の出の場面はどの局もしっかり映していましたが、あの逆光のシルエットが目に入っただけでここに立ち会えた!とジーンときてしまいました。
5/7(金)夜のフジテレビの中村屋の特番も御覧になられたのですね!この間に歌舞伎座で観た舞台の映像にも観劇の時の高揚感が甦りました。
ポスターにでかでかとありましたが、「歌舞伎座から新橋演舞場へ」と世代交代も含めて印象付けるように演目が3つもかぶらせてあるのがまた心憎いです。
海老蔵の「助六」は評判がいいですね。千穐楽で観る予定なので楽しみにしています。
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Unknown (hitomi)
2010-07-09 21:00:30
ここに集う皆さま、本当に生でご覧になれてお幸せです。山鹿以来、海外旅行のために上京あきらめたと言うか、さよなら公演はすべてみることが出来ませんでした(泣)玉三郎の本のことは聞いていたのに取り紛れてすっかり忘れていました。
コクーン歌舞伎のTBもありがとうございます。好きな大大なので嬉しいでうs。
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★「猫と薔薇、演劇、旅ファン」のhitomiさま (ぴかちゅう)
2010-07-10 02:15:13
TB2本&コメントを有難うございますm(_ _)m肝心のこちらの記事のTBがうまくいってませんでしたが再トライで成功してよかったです。コクーン歌舞伎の記事もお目通し有難うございました。中川右介による歌舞伎についての幻冬舎新書第二弾『坂東玉三郎 歌舞伎座立女形への道』は是非是非おすすめです!
山鹿の八千代座の玉三郎公演、海外旅行と充実したレポを楽しく読ませていただいています。さよなら公演はTVのオンエアで見ることができればまぁよしとしていいのではないでしょうか。
私などはTVを見る環境に一切お金を払っていないので劇場に通って観るしかないので、必死に安い席のGETに頑張ってます。
新しい歌舞伎座の杮落とし公演の先行予約権をめざしてこれからも松竹の公演にせっせと通うことにします(^^ゞ
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