万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ。
フィレンツェの西、トスカーナのヴィンチ村に生まれたという彼、彫刻家ヴェロッキオの工房で修行、やがて画家として独り立ちをする。
後にミラノに招かれ、サンタ・マリア・デッラ・グラツィエ教会の食堂の壁に、彼の傑作 「最後の晩餐」(写真上:部分)を描く。
ここで、少し寄り道。
その 「最後の晩餐」、主イエスが “ 汝らのひとり、我をうらん ” (マタイ/26-21)と告げた瞬間の十二使徒の驚く姿が描かれている。
左からペトロと彼の前に座るユダ、その右にはヨハネ、中央にイエス、その右にトマス、大ヤコブ、ピリポと続く。
面白いのは、ペトロの前で金袋を右手に目を見開き主を仰ぎ見るイスカリオテのユダ。
そして、「それは一体誰やねん? お前さん主に聞いてみてくれへんか」と、隣のヨハネに頼んでいるペトロ、「裏切り者はひとりですか?」と、大ヤコブの後ろでイエスに向かって指を一本立てるトマスだ。
話を戻して、晩年、フランソワ1世の庇護を受け王の居城アンポワーズ城に移り、その地で生涯を終えたというダ・ヴィンチ。
そのフランスに彼とともに旅したのが、ルーブル美術館が所蔵する 「モナ・リザ」 「洗礼者ヨハネ」 「<聖アンナと聖母子>」の未完の三点で、愛着があったのか常に傍に置き筆を加えたという。
僅か十五ほどの寡作の画家の絵、ここウフィツィ美術館が共作も含め三点所蔵するのは、生まれ故郷ゆえに多いとみるのか、はたまた少ないとみるのか?
そのウフィツィ美術館が所蔵する絵のひとつ、ヴェロッキオの 「キリストの洗礼」(写真下)を、ダ・ヴィンチの絵と呼ぶのが相応しいか少し疑問は残る。
が、それはひとまず置いて、この絵のテーマは、イエスがヨルダン川で聖ヨハネから洗礼に与る場面。
ヴェロッキオが全体を制作し、キリストの傍らに佇む天使のひとり(左端)を彼が描いたという。
小編に何度も登場するヴァザーリ、ダ・ヴィンチの余りの巧さに “ ヴェロッキオは、ニ度と絵筆を取ることはなかった ” と証言したという。
もし、ダ・ヴィンチがこの絵の制作に加わっていなければ、この絵はここに架かっていなかったかも知れず、天才の前に為す術もなく呆然とするヴェロッキオの心情、「判るなあ」と甚く同情した。(続く)