パピとママ映画のblog

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愚行録 ★★★★

2017年02月20日 | アクション映画ーカ行
貫井徳郎の同名ベストセラーを妻夫木聡主演で映画化したミステリー・ドラマ。一人の週刊誌記者が未解決の一家惨殺事件の真相を追う中で、理想の家族と思われた被害者一家の意外な評判が明らかになっていくさまを描き出す。共演は満島ひかり、小出恵介、臼田あさ美。監督は本作が長編デビューとなる石川慶。

あらすじ:ある日、閑静な住宅街で凄惨な一家殺害事件が発生する。被害者はエリートサラリーマンの田向浩樹(小出恵介)とその美しい妻・夏原友季恵(松本若菜)と一人娘という3人家族。近所でも評判の仲睦まじい理想の家族だったのだが、何者かに惨殺された。事件は世間を賑わせるが、未解決のまま1年が過ぎ、風化しようとしていた。週刊誌記者の田中武志(妻夫木聡)は、そんな事件に改めてスポットを当て、真相を探るべく取材を開始する。田中が浩樹の会社の同僚・渡辺正人(眞島秀和)、友季恵の大学時代の同期・宮村淳子(臼田あさ美)、浩樹の大学時代の恋人・稲村恵美(市川由衣)らから語られる。や夫婦の大学時代の知人に聞き取りを進めていくと、夫婦の意外な実像が浮かび上がってくる。そんな中、育児放棄の疑いで逮捕・勾留されている妹・光子(満島ひかり)のことが心に重くのしかかっていく田中だったが…。

<感想>まずは、映画の冒頭で、主人公の田中を演じている妻夫木聡が、バスの中で半ば強制的に老女に席を譲らされた田中が、席を立った瞬間にバランスを崩して派手に転んでしまう。不自由な足を引きずりバスを降りる彼の姿に、他の客は罪悪感に苛まれてしまう。と言うか、劇中で何度か田中は観客を驚かせる行動にでるのだ。もちろん足は悪くないのに、注意されたのが彼の気に障ったのだろう。

とにかく、妻夫木聡の無表情な演技で田中はどういう人生を送ってきたのかのヒントもない。訳ありとはいえ、最初っから表情が暗すぎるのだ。週刊誌の記者である彼が、惨殺された田向夫婦の関係者に一人一人訪ねて行って、話を聞きだすことで進んでいく。その過程において、彼の存在感を観客に印象ずけてはいけないし、記憶に残らないのもダメという役柄を妻夫木は上手く出しているのだ。

この映画の中では二つの事件が並行して描かれている。一つは田中の妹、光子で満島ひかりが扮しているのだが、3歳になる娘をネグレクト(育児放棄)したかどで逮捕された事件。もう一つは、一流大学を出て、一流企業に勤め郊外の一軒家で恵まれた生活をしている30代の田向一家の惨殺事件。田中は収監されている妹に寄り添いつつ、田向一家の惨殺事件の真相をも探っていく。

取材を重ねるごとに、美男美女の田向夫婦の裏の顔や、人としての計算高さが関係者の口から暴かれていくが、とは言え、死人に口無しの状況で、その暴露話もどこまでが真実なのかは分からない。語る人間の品性にも跳ね返り、次々と愚行の物語が積み重なっていくのだ。

ですが、それは若さゆえの過ちともいえ、誰の身にも一つや二つ覚えがある行為でもあったりすると思う。ただ、一つ言えるのは、強い立場にある者が取った優越感に満ちた行動は、彼らにとっては何でもない行為でも、弱者にとっては息の根を止めるほどの絶望に繋がり、その悲しみはまた弱者には届かないのだ。

まるでサスペンスミステリーのごとくに、観ている側では何が起きているのだろうと、田中と一緒に事件を覗いているような感覚に陥ってしまう。つまり、観客は想像力を刺激されることがこの映画の面白さだと思います。

ですが、事件を追う内に、妹への愛がより強く出ているように見えた。子供のころに母親が離婚をして再婚をした義父に、怒鳴られ殴られけられる毎日。それに妹の光子は、毎晩のように義父が寝床に入って来ては体を求める幼児性虐待である。母親がもっとも酷い、そんな我が子が再婚した夫に虐められているのを見ても、何も感じないし注意もしない。だから、いつの間にか、兄妹は体を寄せ合って息を潜めて暮らすようになる。そしてなるべくしてなったように近親相姦の間柄になってしまう。そして妊娠してしまう。

育児放棄をして光子が子供を死なせたのだが、それは自分が子供の頃に母親の愛情も受けずに育ったからであり、子供の育て方が分からないのだ。その子供の父親は義父なのか、それとも兄なのかは定かではないが、最後に光子から明かされる衝撃の告白に愚行をしてしまった兄妹がいることを知る。

それに、田向一家の惨殺事件も、実は妹の光子にも関係があり、妻の夏原友季恵は憧れの同級生であり、光子は義父に体を弄ばれても、いつか金持ちの青年を結婚するのだと希望をもち、その為にも一流大学へ入るために費用を出して貰うために、必死で我慢をして義父との関係も続けていたのだから。

それに、憧れの美女の同級生からも、どういうわけか男を紹介してもらう理由で、美人局のような感じで光子は紹介してもらった男と寝てしまうのだ。だから、公衆便所というアダナがついて回り、玉の輿どころか誰も男が寄り付かない。

底意地の悪い友達、出てくる人誰もが誰かを陥れたり、おとしめたりという連続でいかにも「ひっかけどころ」満載ミステリーを最初っから展開しているようだ。結構無茶苦茶な展開が待っていて、それが「愚行」の意味なのだろう。とはいえ妹に対して愚かじゃない兄ちゃんなんていないだろう。

妹の光子は物語の間に差し挟まれた「独白」があります。それは光子が語りかけていた「お兄ちゃん」とは、その正体はすでに観客はおのずと分かってしまうでしょう。ですが、精神分析を受けている場面での光子の満島ひかりの姿が、ほとんど無垢にも見える表情での語りは素晴らしいとしか言えない。確かに光子は愚かな生き方をしてきたのかもしれません。でもね、光子は精一杯生きてきたことには間違いはないのですから。それが全部愚かな行為なのかと言う光子。何とも言えない悲哀感が胸を突き動かして来るし、やるせない。

迷宮入りした一家惨殺事件と、再び調査する週刊誌記者田中が迫る真相とは?それは、仕掛けられた3つのドンデン返しに、ただただ、あ然とし、また驚がくして、絶句してしまい、一筋縄にはいかない物語なのだ。
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