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TAR/ター★★★★

2023年06月03日 | アクション映画ータ行

               

「イン・ザ・ベッドルーム」「リトル・チルドレン」のトッド・フィールド監督が16年ぶりに手がけた長編作品で、ケイト・ブランシェットを主演に、天才的な才能を持った女性指揮者の苦悩を描いたドラマ。
あらすじ:ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。

「アビエイター」「ブルージャスミン」でアカデミー賞を2度受賞しているケイト・ブランシェットが主人公リディア・ターを熱演。2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品され、ブランシェットが「アイム・ノット・ゼア」に続き自身2度目のポルピ杯(最優秀女優賞)を受賞。また、第80回ゴールデングローブ賞でも主演女優賞(ドラマ部門)を受賞し、ブランシェットにとってはゴールデングローブ賞通算4度目の受賞となった第95回アカデミー賞でターのは作品、監督、脚本、主演女優ほか計6部門でノミネート。

<感想>ケイト・ブランシェット演じるリディア・ターは誰もが認める天才指揮者で、誰もその才能とカリスマには敵わない。相手を巧みにコントロールし、歯向かう者は容赦せずに追い込むために、腫れ物にも触るような扱いである。リディア・ターは、意識的か無意識的かの判断がつかない程度に傲慢で、時には脅迫的な言葉も厭わない。堂々たるレズビアンでパートナー(ニーナ・ホス)と養子の娘を育てているが、その愛情表現も独善的である。キャリアの頂点に立つ彼女は次のステージに進むつもりだが、実はスランプを抱えており、奇妙な幻覚に悩まされているのだ。

そんなある日、かつて指導した女性が自殺をし、さらには新たな若いミューズが現れたために暴走の歯止めが利かなくなり、・・・トッド・フィールド監督は天才的な演出力で、ターの権力と私生活の行方を見せてゆく。

これは女性キャラクターの人間性の物語であり探求でもある。そのことによって、権力とハラスメントを巡る物語に、より普遍的な拡がりを与えているようだ。だからリディア・ターの場合は、世界的高峰の指揮者としての自負が、彼女を半ば無自覚的な、そして後半部では半ば錯乱状態の暴君のようにみえた。

前半の部分では、ジュリアード音楽院でのバッハをめぐる議論の場面。ターはバッハの女性蔑視に拒否反応を示すジェンダーの学生を芸術論的正論で挑発する。ターが一流であるがために学生とターのどちらの見方もせず感情の置き場を宙ずりにするのだった。

ターの感情の歪みや欠陥を良識で裁きはしない。時にはホラーふうの悪夢を見せながら、大いなるユーモラスとともに人間らしさへの共感を溢れさせている。予測不能な終盤の展開にはさまざまな解釈の余地が残されているが、私たちはリディア・ターの人間性を尊重しつつ、愛することもできると思う。ベルリン・フィルの大音量とともに演奏を指揮する、ケイト・ブランシェットのパワーと熱演とキャリア最高の演技に惚れ惚れした。

 

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