パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

野火 ★★★.5

2015年09月17日 | アクション映画ーナ行
1959年に市川崑により映画化された大岡昇平の同名小説を塚本晋也の監督、脚本、製作、主演により再び映画化。
日本軍の敗北が濃厚となった第二次世界大戦末期のフィリピン戦線。結核を患った田村一等兵は部隊を追放され、野戦病院へと送られる。しかし、野戦病院では食糧不足を理由に田村の入院を拒絶。再び舞い戻った部隊からも入隊を拒否されてしまう。空腹と孤独と戦いながら、レイテ島の暑さの中をさまよい続ける田村は、かつての仲間たちと再会する。戦場という異常な空間で極限状態に追い込まれた人間たちが描かれる。共演にリリー・フランキー、俳優デビュー作の「バレット・バレエ」以来の塚本監督作品への参加となるドラマーの中村達也。

<感想>舞台は第二次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島。敗戦色濃い中で、田村一等兵に扮した塚本晋也は、結核を患い野戦病院へ行こうとしていた。窪んだ目だけ爛々と密林を彷徨い、遂に禁忌を冒す幽鬼のごとき兵士たちに、南方戦線で野垂れ死にした多くは、戦死ではなく餓死と病死だった史実を思い知らされる。

大岡昇平の原作世界を、見るも悍ましくスプラッタ・ホラーふうに解釈して、映像化した塚本監督自身が演じている田村一等兵の主観で、進行していくのである。そして、主観だからこそ、人間の肉体への冒涜、戦争、及び人間という生きものに対するおぞましい恐怖がダイレクトに伝わってくる映画でもある。

野戦病院では、手足が無いものや、頭が吹っ飛び、内臓が破裂している兵隊などがたくさん寝ていた。だから、肺に穴が空いている兵隊が「穴が空いているくらいで病人づらするな」と怒られるのは、そういう意味でも理にかなっている。片足が折れているのだろうリリー・フランキー扮する伍長は、タバコがあれば生き長らえると豪語し、確かに死にぎわの一服は天国へでも逝くような感じなのだろう。

米軍機の襲撃には、日本軍は手も足もでずにただただ隠れて逃げるのみ。それに、密林を越えてハロンポンまで必死になって歩くのも、日本へ生きて帰る希望を捨てないために。それも虚しく、闇夜に紛れて丘を越えればすぐそこだという言葉に迷わされて、米軍の戦車が砲撃してくるのをまざまざと見せつけるのだ。
戦場での吹き飛んだ顔、手足、滴り落ちる内臓からはムンとする匂いが漂ってくるようだ。飢餓のために爆風で削がれた自分の肩の肉を口に入れ、いつ終わるともしれない果てしない戦争を徹底したスプラッターで戦場を描くことで、リメイクではなく市川崑監督との差異が際立ち、前半で回避された人肉食に踏み込むことも可能になっていた。
何もここまでと疑問の声もあるようだが、戦争を知らないまま70年が過ぎ、想像力が欠如した現代に戦争を描くには、こうするしかないのだ。「お前も絶対に俺を喰うはずだ」という劇中の台詞を、あり得ないと言えなくなる狂気と飢餓の世界がこの映画の中には存在する。

ただし、戦場から帰還後に、日常に戻ってのラストの描写が曖昧なのが残念。始まりは、オリジナルと一緒らしいが、現代という歴史時間に主人公を接合させようとするラストに、暗い人間のおぞましい理性を見た気がした。人肉を食べなかった田村の何かに対する呪縛とは?・・・。ここだけ演出が観念的な気がした。
名作のリメイクというのは、割の合わない仕事だが健闘している作品といっていい。映画の半分は自然描写に費やしており、鮮やかな色彩が島の緑を映えさせ、自然の中での凄惨な戦争を描き、自然と人を均等化させた塚本映画の一つの到達を見た。
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