仁左衛門日記

The Diary of Nizaemon

上を向いて歩こう

2017年05月28日 | ムービー
『上を向いて歩こう』(1962年/舛田利雄監督)を見た。
物語は、「ある夜、関東少年鑑別所で集団脱走事件が起きた。追跡され、追い詰められた河西九(坂本九)と左田良二(浜田光夫)は、通りかかった軽自動車に飛び込み、拾った空き瓶のかけらで腕を切って怪我をしたふりをする。運転者を脅そうとしたのだが、運転していたのは少年保護司の永井徳三(芦田伸介)だった。永井は事情を察したが、とにかく2人を病院へ連れていき、翌朝、長女の永井紀子(吉永小百合)を見舞いに行かせ、久米刑事(大森義夫)と連れ立って病室を訪ねたのだが、良二は窓から逃げ出してしまい・・・」という内容。
九は、石本(石川進)ら、少年院や鑑別所帰りの連中が大勢働いている永井運送の厄介になるが、「大人なんて信用できるもんか」と言い放った良二は、ドラムを教えてくれたジェシー牧(梅野泰靖)を訪ねバンドボーイになるものの、「少年院帰りのくせに」と罵られてしまう。
いくら見返してやろうと意気込んでみても、一度貼られたレッテルはそう簡単に覆せないものなのだろう。
一方の九も「お前にはドラムという夢があるじゃないか。俺は何をしていいかよく分からないんだよ。分からないから自分に出来ることを一生懸命やってるんだよ。でも、それが俺には一番難しいんだよ」と、何とかしようと頑張ってもなかなか上手くいかない自分がもどかしいようだ。
また、妾の子だという松本健(高橋英樹)は、かつて永井運送で働いていたが、そこを飛び出してノミ屋をしながら大学受験の勉強をしている。
怪我をさせてしまった兄・マサユキとの間に確執があったのだが、事情を知った紀子の助言により、兄の誕生日に訪問して同じ大学に合格したことを報告するものの、父と兄に冷たくあしらわれてしまうという、何だか随分と込み入ったエピソードの連続で、♪上を向いて歩こう♪(永六輔作詞、中村八大作曲)というヒット曲をテーマにしながらも、随分と重い物語だった。
1964年のオリンピックを間近にして活気あふれる東京の中で、頑張っているけれども、なかなか上手くいかない若い人達も大勢いたのだろう。
そんな人達を応援しているかのような物語に思えた。

マルサの女

2012年04月12日 | ムービー
『マルサの女』(1987年/伊丹十三監督)を見た。
物語は、「ラブホテルを経営している事業家・権藤英樹(山崎努)に脱税行為の疑惑を持ち、新たな調査を始めた港町税務署の調査官・板倉亮子(宮本信子)。やり手の調査官ではあったが権藤の巧妙なやり口の前には無力に等しかった。やがて亮子は国税局査察官(マルサ)に抜擢され・・・」という内容。
結局は暴かれてしまうものの、劇中に出てくる脱税の描写が面白い。
そんな場所に通帳や印鑑を隠しているのか等と笑ってしまうが、現実社会でも、宗教法人が捨てた古い金庫の中から札束が見つかったという事件が報道されたことがあるくらいだから、ここに登場するエピソードはそれなりの取材に基づいているのだろう。
そして、暴力団が絡み、国会議員が絡み・・・と、この類いの話はどんどん真っ暗闇に向かっていくことが分っているからなのか、暴力団関東蜷川組の組長・蜷川喜八郎(芦田伸介)という人物が登場するものの、国会議員については"漆原先生"という名前しか出てこない。
そちらの話もいつかは取り上げて欲しかったのだが、伊丹十三(1933年~1997年)氏が亡くなって15年。
その後、こういった色々なこだわりの強い監督が出てこないのが残念である。

事件

2006年06月26日 | ムービー
『事件』(1978年/野村芳太郎監督)を見た。
殺人と死体遺棄の罪に問われた工員(19歳)の裁判を描いた物語で、被害者は犯人の義理の姉という事件だった。
今の時代はもっと凶悪な犯罪が連日のごとく起きていて、すでに現実社会は物語の殺人事件を凌駕していると思うのだが、原作が書かれた当時やこの映画が上映された当時は充分過ぎるほどに憂鬱な内容(人間模様)だったのかもしれない。
公判検事役は芦田伸介、弁護士役は丹波哲郎で、2人の名前が最初に紹介されることから一応彼等が主役ということになるのかもしれないが、他に存在感がある役者がこれでもかというくらいに出ていたので、2人の対立(対決)はかえって霞んで見えるほどだった。
これほど台詞が多い丹波哲郎も初めて見たが・・・。
(^_^;)
共演の渡瀬恒彦は、『仁義なき戦い』(1973年/深作欣二監督)の役柄同様に相変わらずチンピラ役がピッタリでこの上ない凶暴さを含んでいたし、大竹しのぶは、本当にしたたかな女の役が上手だと感じた。
また、佐分利信がキレ者の裁判長の役で出演していたが、公判検事と弁護士の互いの戦略に流されそうな状況を本筋に戻してくれる貴重な役柄で、「順調にいくといいがね」と、ぼそっと言った台詞や次々と明らかになる人間模様が『獄門島』(1977年/市川崑監督)の住職(了然和尚)役を思い起こさせたのだった。
この1970年代前半という時期は、なかなか良い日本映画が作られていた頃なのかもしれない。
これはおすすめできる日本映画だ。