本格的に風邪をひいてベッドでゴロゴロを余儀なくされてしまい、ただゴロゴロでは退屈極まりないので、時間を無駄にするまいと、まあそういう理由があってもなくても読書はしますが、今回手に取ったのは有川浩著、『旅猫リポート』(講談社文庫)です。この小説はハードカバーでは2012年に刊行されていましたが、文庫版は今年2月の刊行でした。以前から読みたいとは思っていたので、文庫版が出た途端にお取り寄せ。
さてストーリーですが、タイトルから察せられる通り猫視点の物語で、元野良のナナ(オス!)と飼い主サトル(人間視点の時は宮脇悟)の旅の物語です。出だしは夏目漱石の『吾輩は猫である』の冒頭の引用で、「吾輩は猫である。名前はまだない。―と仰ったえらい猫がこの国にはいるそうだ。その猫がどれほど偉かったのか知らないが、僕は名前があるという一点においてのみ、そのえらい猫に勝っている。」というパロディー。
猫視点がお気に召さないとか、人間視点との交替や時間軸の飛び方などがややこしいと思われる方もいるかもしれませんが、私は泣いちゃった口です。
サトルとナナが旅に出る理由は、サトルが「のっぴきならない事情でナナを飼い続けることができなくなった」ためで、引き取っても良いと申し出てくれたサトルの昔の友人たちを訪ねていきます。その中で一人と一匹が共に見る光景を思い出として心に刻みつつ、サトルの過去もその友人たちを訪問することで少しずつ明らかになっていくという構成になっています。しんみりするシーンも多々ありますが、動物同士のやり取りとか、ナナの視点の様々な感想がユーモラスでクスクスと笑ってしまうところもあります。
結局新しい飼い主は見つからず、サトルもナナも共に札幌に住むサトルの伯母さんのところへ行き、一緒に住むことになります。サトルは子どものころに両親を交通事故で亡くし、この叔母さんに養育されたのですが、彼女との同居が描かれた章「ノリコ」ではさらに衝撃的な過去が明らかにされます。私的には「その設定は無くても良いのでは?」と思わなくもなかったのですが。ちょっとくどいというか「これでもか」という不幸設定はちょっと韓流ドラマに通じるものがあって、若干引いてしまうところはなくもないです。本人の健気さや優しさ・朗らかさを際立たせ、ドラマを分かりやすく盛り上げる意図があるのかどうかわかりませんが、正直「くどいな」と有川浩ファンの私でも思いました。ここですっかり「興ざめ」してしまう方もいるようですが、私はそれでも「泣けるお話」だと思います。まあ、その辺は感受性と好みの問題なので、人それぞれでしょうね。