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たそがれオヤジのクタクタ山ある記

主に北関東の山を方向音痴で歩いています。山行計画の参考にされても責任は負いかねます。深慮せず軽く読み流してください。

雨降沢から小法師岳に行くつもりがただの右岸尾根歩きになり、何ともおかしな歩きになってしまった。結局、小法師には行けず。

2019年10月31日 | 足尾の山
◎2019年10月27日(日)

かじか荘上駐車場(7:54)……林道離れる(8:19)……庚申川(8:29)……雨降沢大滝(8:42)……1328m標高点(11:33)……夜半沢(12:19)……車道(13:17)……駐車場(14:00)
※かなりあちこちで休んだり寄り道をしています。タイムはそれぞれの到着時刻です。

 かねての坑夫の滝と庚申七滝が終わり、庚申川流域の当面の課題として設定した歩きは雨降沢を遡行して小法師岳に至るルートだけが残っている。これを年内に終わらせたい。沢の水も11月に入ってしまえば冷たくもなり、骨折痕に負担がかかる。10月までにやってしまいたかったが、栗駒山に行きたくなったり、同窓会があったりと、あっという間に10月も末になってしまった。あせり半分で昨日の26日に実行する予定でいたが、前日は終日の大雨。川も沢も確実に増水しているはず。27日に延期した。
 これまで坑夫の滝見物時に、雨降沢の玄関口でもある大滝(「雨降滝」とも呼ばれているらしい)を二度見ている。その際の印象として、無理をすれば滝の直登も可能かと思っていた。それが不可なら左岸巻き。右岸側はどう見ても垂直の高い岩壁に近く、巻きは到底無理だろう。大滝さえ越えられれば後は楽だと思っているのだが。
 雨降沢の情報は皆無に等しい。釣り人は入っていても情報はない(実はこれが終わってからpot bellyさんの記録を見つけた)。せいぜい岡田氏の『足尾山塊の沢』だけだが、氏は雨降沢を下りで使っているので、凡な沢のようだといったイメージしかつかめない。ちなみに同著には大滝は7mとある。自分が下から見上げる限りはせいぜい5mと見ている。その上に2m分の緩い傾斜があるのかは下からではわからない。

 駐車場にはゲート前を含めて車が10台。4人組(3人だったか)が体操をしているところで、こちらが車外に出るとすぐに出発し、後着の青年2人も、こちらが準備している間にさっと出て行った。おそらくは庚申山の紅葉目当てだろう。後の祭りではあるが、自分の歩いた標高からして、おそらく庚申山の紅葉は盛りだったかもしれず、帰途で歩きながら、自分も庚申山に行っていればよかったかなと後悔したりしている。それほど、今日のこれからの歩きはお粗末そのものの歩きになってしまった。

(林道に水が流れている)


(空はどんより。陽があたっていればきれいだろうが、タイミングとしてはもう少しか)


(遮断機が下りている)


 前を歩く二人組の歩きは遅い。よほどに追い越そうかと思ったが、庚申川に下る姿を見られたくはない。まして、こちらはヘルメットをザックに括っている。林道は思いの外に泥状になっているところは少なかったが、水が流れているところが多く、まだ一昨日の大雨の影響が残っている。庚申川の水量が多いことは確かだ。いつもよりも川音も高く聞こえる。嫌~な感じになった。
 林道でおかしな光景を目にした。カーブ地点の小広場。以前はここまで車も乗り入れできたが、今はかなり下のかじか荘上にゲートが設置されている。広場の先の未舗装入口に遮断機状のゲートはある。ここはいつも開放状態になっていたのが今日は遮断機が下りている。いろんな憶測が出てくる。合鍵で下のゲートを無断で開けて入る車が出てきたのか、あるいはシカ除けのつもりなのか。何かの意図があって締め切りにしたのは確かで、ここは脇を通って行けるが、人が通れるなら、シカとて同様だし、これくらいの高さなら、シカなら簡単に飛び越せる。せっかくだからついでに記す。空は曇り空だが、林道から見える山肌の紅葉はかなり濃くなっている。晴れていたら塊まった紅葉も楽しめるだろう。それを見て、小法師岳に向かいながらの紅葉を期待してしまった。1400mを超えれば確実に盛りになっているだろう。ただ、小法師岳の紅葉は11年前の10月29日に法師岳とともに歩いた時にはすでに終わっていた。
 前方の2人が坑夫の滝を上から写真撮りしている。滝はまだ木々の葉で見えないはずだ。こちらはそこから下るわけだから、撮影が終わって先に行くのを待機したが、鈍感なのか、後ろに一人、歩いていることに気づいてくれない。川音が足音と気配を消しているのだろう。

(葉の下は水気が多く結構滑る)


(正面に雨降沢。左右は庚申川)


(泳いで渉った淵。その時よりもむしろ水量は少ないように見えるが。左に後で登ろうとした岩場が見えている)


 庚申川に下る。まずは最初の後悔。滑る。地面はかなり水を含み、一部に泥状もある。普通の地下タビにしたのは失敗だった。スパ地下にすべきだった。湿った土に足をとられ、何度か転びそうになってヒヤヒヤ。こんなところでこけて脇の斜面に落とされでもしたらかなり危ういことになる。
 河原の上に出た。水量は、ハイトスさんと坑夫の滝に行った時とさして変わりはないが、流れは急で、雨降沢から流れ込む水量は多い。気持ちは萎えたが、ここまで来たには、先に行くとか、何か新しい成果は持って帰らねばなるまい。雨降沢の大滝を見て戻りました。3回目です。今日は豪快でした。これでは気分的にも済まされない。
 沢タビに履き替える。今日はネオプレーンの靴下を履いている。ワークマン扱いを含めて、何足もネオプレーンソックスは買ってはいたが、履いたのは今回が初めてだ。これまで履かなかったのは、発汗性を気にしてのこと。自分はいわゆるアブラ足だ。これを家を出る時から履いてみた。何も違和感はなかった。むしろ普通の靴下よりも感触が良い。
 ヘルメットは白にした。それなりにわけがある。オレンジヘルメットでは、万一に捜索が加わった時、紅葉に同化して特定できないだろうと思ったからだ。沢タビは短いので、沢用の脚絆を巻く。

(今日の雨降滝。えらく豪快だ)


(これは6月に見た雨降滝。滝壺は腰までもなさそうで、左右、いずれからでも登れそうだった)


 気を重くして川を渉る。やはり足をとられた。急流になっている。水温は想像ほどに低くはない。雨降沢に入る。これまた流れが急で、岩に両手を付きながら滝の前に出た。ウヒャー、これはまたご立派な滝で。過去2回のお姿とは全然違うじゃないの。水量がたっぷりで勢いもあり過ぎ。これの直登はあり得んわ。目論んでいたのは、右岸際から少し登り、滝に右足を突っ込んで支えにし、腕力で上に登るつもりでいた。少しは水をかぶることになる。これでは右足を預けようとした時点で落とされる。両足支えは論外。勢いと幅があり過ぎだ。滝側に足場になり得るところは急流の下に隠れている。

(アップでわかりづらいが、巻きをしようとした左岸側の上部。あそこに至るまでがかなり危なそうだし、上がどうなっているかも知れずで撤退。これだけ見る分には問題はないが)


 では、次の手段としては巻きか。ここの巻きは厳しい。滝下左岸の岩の切れ目を登ることになり、実のところ、その先はどういうことになっているのか、下からでは想像もできないが、かなりの急登になっているのは対岸から見てわかっている。右岸よりは少しはマシといったレベル。
 少し登ってみた。3mほどか。下を見るとほとんど垂直。さらに上に行くにしても岩場が続いている。おそらくは恐ろしいの一言の状態だろう。手がかり、足がかりが貧弱過ぎる。無理して先まで行き、撤退自体にダメージが大きくなる前に引き返した方が無難。腹這い姿勢で、岩にある少ない凹凸に足と手を置きながら、半ば滑って着地した方が安全のように思えてそうした。着地すると膝がガクガクしていた。前述のpot bellyさんは右岸をあきらめ、ここを登ったらしい。7mとあった。
 右岸巻きははなから想定外でいる。ここで終わりにするか、あるいは、林道に戻って、きりんこさんコースで左岸尾根に取りついて小法師岳という手もあるが、それは今回に関しては沢通しに行くつもりだったから不本意な歩きになるし、林道に戻ったら、おそらくは来年に見送りして、そのまま駐車場に戻ることになる。庚申山に改めて向かうには気落ちの度があり過ぎ、紅葉がきれいでも上の空の気分での見物になりかねない。さりとて、また庚申川を泳いで近道する気にはなれない。坑夫の滝だけだったらそれもありだが、スタート時で全身ずぶ濡れでは先が長過ぎる。まして一人ではなぁ。やはり今回はあきらめだなと戻りかける。頭の中で、午前中に戻ったら、昨日やり残した庭の片づけをして昼から飲むかといった算段もすでに浮かんでいる。時間稼ぎに備前楯か向山なんて思考は浮かばない。行ったとしても一般コースでは歩きたくもない。そんな考えが出たとしても地図がない。

(右岸側に垂れたロープ)


(これでもかなり急だ)


(下を見ればこんな傾斜になっている)


 念のため、右岸側を眺めてみた。岩壁の間に上に続く草地の回廊のようなものがあった。かなりの急斜面だが、細いロープが垂れているのが目に付いた。その時は、何だ右岸側から巻けるのかとショックを受けたが、釣り人が設置したらしきそのロープの強度はいかがなものか。這い上がって、ロープを捕まえ、強く引っ張って、さらに身体を預けてみた。というのも、ここの激斜面は、ロープ頼りなしでは登れそうにない。まして、雨後で土がかなり脆くなってもいる。引っ張ってみるだけでは信用できない。使えそうだ。
 後先も考えずにロープをつかんで斜面を登った。必死だった。下は見られなかった。ロープが消えたあたりで、巻くにしては高過ぎやしないかという疑問が出る。沢の上流方向を見ても、相変わらずの岩壁になっていて、そんなところをトラバースして沢に復帰したとしたら命がけになる。滝越えの方がむしろ安全。その時点で、下の沢から目視100m以上は登った気分でいたが、実際は60mしか登っていない。それにしても何のためのロープだろう。危険に身をさらしてまでの釣りキチもいまい。それとも岩に秘密のバンドでもあるのか。

(あの小尾根を目指す)


(安心するのは早かった。ここも急だ)


 ここで落ち着いたわけではない。とにかく、この先、どういうことになっているのか地図を広げて確認したいが(記憶では、小法師岳に行くには巣神山からのレギュラーコースに合流するはず。だから尾根歩きにしても、左岸尾根は考えても、右岸尾根は当初から想定外だった)、そんな状況下にはなく、まだまだ上に急斜面は続き、気を許せば転がり落ちそうなところだ。ストックすら出せないでいる。ノドカラになっているのに水も飲めず、セキが出て水を要求する。慎重に登って行くと、ようやく先に小尾根が見えた。あそこで落ち着こう。
 小尾根に上がった。これで川から100mは這い上がったか。ここもまたザックをおろせる状況にはない引き続きの急斜面。小尾根は庚申川から岩壁を通じて上がってきている尾根のようだ。痩せている。だが、これまでの斜面に比べたら、真下の川が視界から消えている分、気分的には歩きやすくはなった。

(本尾根との合流は岩場だったが、傾斜はかなり緩んでいる)


(あそこで休む)


 さらに上に幾分なだらかな尾根が見えて来た。おそらくあれが右岸尾根本体だろう。本尾根に上がるとほっとした。ここからなら転がっても、どこかで止まる。先に行き、幾分平らになったところでようやく休憩できた。標高950m。ロープをつかんでから30分だが、気分的には2時間だ。ザックを下ろし、先ずは水をがぶ飲みしてセキを止めてほっとして一服つけるとさらに咳き込んだ。本当にヤレヤレだ。
 落ち着いたところで地図を広げる。やはり思っていたとおりだ。この右岸尾根は雨降沢からはどんどん離れ、1167m三角点を通る尾根の西側に出る。雨降沢に楽に下れそうな尾根も沢もない。元に戻ることが不可能な以上はこのまま行くしかない。ここまで這う這うの体で登って来ているのに、落ち着くと、それではつまらないなんておかしな気持ちも出てくる。小法師岳の山名板のメンテもするつもりでスプレーニスも持参したが、何度も歩いたことのある尾根を歩くのでは大した収穫もない。沢登りにこだわらずに左岸尾根を歩いていれば、それで変化のある歩きができたかもしれないが、1224m標高点の先で一度歩いたことのあるハンター尾根に乗ることになる。だから沢歩きにこだわっていた。
 ヘルメットを帽子に替え、沢靴は靴下とともに地下タビに履き替えた。ストックもここで出した。ストックは必要もないようだったが、最近、クマ対策として、遭遇時にストックを立てて大男を装い、大声を発すればクマも逃げていくという話をネット記事で読んでいたからだ。それはあくまでも自然に住むクマを対象にしたことで、里に下りてエサをあさるクマには適用はしまい。もちろん、クマ撃退スプレーはズボンのポケットに入れている。これから入る巣神山エリアでクマに遭遇したことは三度ほどあり、安心はできない。まして、栗こそないが、ドングリがあちこちに転がっている広葉樹の尾根だ。今、腰をおろしている石の側にさえ、ドングリとシカフンがあちこちに落ちている。

 ともあれ、その間、いろいろと考え、今回の小法師岳はあっさりやめることにした。ここまでもかなり憔悴していて、一般ルートでさえ、登れる自信をなくしている。この右岸尾根をそのまま登り、登り切ったところで尾根を1167m三角点に下り、ここを北に延びる尾根で下る。降り立つところは庚申林道を歩きながら見当はつけている。実は、今回の予定は、沢コースで小法師岳に登り、下りは一般ルートで巣神山コースから分かれて防火線をそのまま三角点に向かい、その未踏尾根を下ることだった。2年前の6月、ハンター尾根を歩いた下りでそれをやろうとして、地図に見える途中のナマコ状のマークが気になって、北東に下る沢筋に逃げ、小滝川ダムの下に出て、腰越えの庚申川を対岸に渉った。
 小法師岳には行かず、地図上はやけにちんまりした歩きになるが、この尾根を含めて未踏尾根を2本でも歩ければ、ある程度の満足にはなる。これを、今日は行きたくもない巣神山にでも経由したら、車道の歩きがえらく長いものになる。これは避けたい。

(石英をふんだんに使った贅沢な第一ケルン)


(この辺の紅葉)


 休みついでに第一ケルンを積む。RRさんですら、こんなところを歩いたことはないだろう。雨降沢は歩いたこともあるだろうが。
 尾根は一難去ってののんびり歩きの雰囲気。周囲をうろつく。これまでは視界の先だったのが、身近に紅葉の風景が目に入ってきた。標高は1100m。赤も黄色も賑やかになっている。ただ、まだまだ半端で、盛りという言葉には一週間早そうだ。まして、バックの青空がないから余計にそう感じるのかもしれない。どうしても緑のままの葉が多い。近づくと黄色の葉は焼けてこげ茶のボツボツを出し、赤とて葉元はまだ緑だ。これからなのか、ここだけなのか、はてまた例年どおりなのか。大雑把な紅葉で、接近の撮影はかわいそうになってくる。この尾根の紅葉を楽しむのは、おそらくは今季に関して、もしくは以前を含めて自分が初めてなのかもしれないと思うと、むしろひっそりした味わいに健気な感じさえしてくる。これからして、上がるに連れて期待が持てるということになるだろうか。このまま小法師岳に向かえば別天地かもなと思ったりもするが、先に行くのを拒んだ以上は、ガツガツした紅葉見物はさておき、未踏尾根歩きに徹しよう。北東北の紅葉は終わっても、北関東の低山の見ごろはこれからだ。

(右岸尾根登り。どうも昨日も雨が降ったようだ)


(先ずはの尾根の紅葉。決して鮮やかではない。陽があたっていればきれいなはず)


(青葉がまだまだ)


(何とも惜しい風景)


(塔の峰)


(第2ケルンを積む)


(混合になっている)


(右岸尾根を振り返る)


(なだらかな尾根が続いているが、前方に三角点のある合流尾根が見えてきている)


(庚申山)


(真向いの山肌は曇っていても部分的にきれいで)


(そこだけをアップにしてみた)


(鮮やかな赤もあった)


(まだ続く)


(それほどでもと思われてもしかたがない。派手派手よりも自分の好みの紅葉だったし)


(ついでに)


 文章同様に休憩も長くなった。重い腰を上げて右岸尾根を登る。半端な紅葉を楽しみながら歩く、急な登り作業はない。庚申山と塔の峰が見えたところで第二ケルンを積んだ。両山ともに、遠目には山肌は淡い色づきになっている。集中的に群れたボンボンじみた紅葉になっているところもある。気分は良いが、ほどなく防火線のある三角点尾根に出るはず。やはり、右岸尾根はあっけない。もう、取り付き部の登りに苦労したことは、頭の中では半分過去のことになりつつある。気持ちは複雑だ。半端でも遠近の紅葉を楽しみつつ、さらに上の紅葉も勝手に期待している。だが、体力は下で消耗して限界。三角点が終点になってしまう。

(三角点尾根。この奥でクマが遊んでいた)


(行く方向とは逆の側に逃げてしまった。1326m標高点付近)


(遠目にはきれいだが、葉が小さくて近づくときたない。ここだけは陽があたった)


 間もなく尾根に出てしまった。防火線だ。ここから左の三角点方向に下るつもり。その左手に黒いものが見えた。まさかクマではなかろうと、よく見ると丸く真っ黒なコロコロしたのが動いている。50mほど先。エサを探している気配。クマだ。撃退スプレーを手で確認し、カメラを構えると、とっさに左下に機敏に逃げて行った。こちらの気配を察知したのだろう。これで、もう一つの未踏尾根はおしゃかになった。クマが逃げ込んだ方に下ろうとしていたのに、ヤブの中に潜むクマの存在を分かっていて下るわけにはいかない。
 何度も振り返りながら、反対方向に防火線を上に行く。もう安全だろうと思ったところで倒木に腰かけて地図を広げる。別ルート探しだ。ついでにお腹も空いていたのでコンビニおにぎりを食べる。さて、どうしよう。前述のように、巣神山に行ったら、長い車道歩きになる。戻って予定どおりに下るかとも思った。それを考えたのは、これまで出会ったクマ中では一番パンダのようにかわいいクマだったからだ。写真撮り出来なかったのが残念なくらいだ。こんなことを記しているのも難がなかっただけのことで、見えないところに親熊が潜んでいたやも知れぬのだ。
 足尾の山塊でクマを見たのは3年ぶりくらいか。中倉山の一般登山道を横切っていたのを見て以来だ。この巣神山周辺では、いずれも先様が気づいて逃げていただいているが、そちら方面に向かうつもりのところにクマを見るのは気が重くなる。ルートを変えざるを得ず、ヤブの中をどう歩いているのかまったく分からず、細い沢に入り込み、出たところで巣神沢を下っていたことを知ったということもあった。
 どうしても車道歩きを少なくするには、この位置からでは夜半沢利用しかないかという結論になった。夜半沢の歩道歩きは正直のところ嫌いだ。石がゴロゴロしているし、沢水で滑る。だがこれしかない。
 一応のけじめとして1326m標高点まで行き、南東に下る尾根から北東尾根に乗り換え、夜半沢に出るとする。二つの尾根ともに歩いたことはない。皮肉なことに、夜半沢は三角点からは難なく下れ、遠回りする結果になるが、クマが待機しているのではこのルートしかとれない。
 未練がましく、防火線を少し先まで行く。1326mを越える。北側の紅葉は細かい葉を付けた木々が続き、きれいでもない。これで気持ちもすっきりした。赤や黄色の連なりになっていたらまた悩むことになる。

(南東に下る尾根に入る。一応、これでも尾根)


(半々の紅葉)


 南東に下る尾根の分岐は不明瞭。ただの広い斜面だ。1326mでコンパスを合わせたから、半信半疑で下る。尾根型は不明瞭というか無に等しい、右手斜面が低くなっているから間違ってはいない。ここでまたクマを見た。右下50m先をかけて行った。こちらの存在を鈴の音で気付いたのだろう。さっきのクマよりも一回り大きく、茶系の毛をしていた。自分の向かう方向とは別方向に行ったから、進行に問題はない。それにしても今日はよくクマを見る。複数回は初めてだ。それでいてシカを見たのは2頭だけ。

(そろそろ進行方向が変わるはず)


(なぞの標石)


 同じ風景の中の歩きが続き、依然として尾根型は判然としない。ここで妙な標石を見つける。立派な標石で、頭には+印。測量用の物だとして、ここには三角点も標高点も水準点、基準点も無い。文字が彫られている。宮標石に見えなくもない。この辺は鉱山の所有地であっても、御料地だったという話は聞いたことがない。

(夜半沢に下る尾根)


(ここで真っ赤なのがあった)


(つい下から撮ってみた)


(ここも明瞭な尾根型になっていない)


 そろそろ北東に下らねばならずGPSで確認すると、今いる位置がそうだ。覗きこむと、段差状になっていて、果たして下れるのかと思ったが、シカ道を見つけてそれを辿ると、すんなりと尾根に乗ることができた。そしてこんなところにもハンターの捨てた薬莢が目に入った。菓子袋も落ちていたりで、ハンターが結構入るエリアなのだろう。
 ここもまた不明瞭な尾根だ。コンパスは尾根が夜半沢に落ち込むところに合わせた。地図の水線が出て来るのはまだまだ下流だが、この辺、過去に3回、象山行きを含めて三角点には行っているので、後は沢沿いに下れることはわかりきっている。

(ようやく夜半沢)


(迂回して夜半沢に)


 沢音が聞こえてくるのと、沢の方から人の声が聞こえてきたのがほぼ同時だった。最低2人の声が聞こえ、沢伝いに登っているようだ。物好きもいるものだ。クマのいる三角点でも見に行くのか、象山にでも登るのか。すぐに真下に沢が見え、ここで時間を稼ぐ。あらぬところから下る自分を見られたら、相手もびっくりする。
 声が聞こえなくなったところで沢に下る。尾根の末端からでは下れず、上流に向かうとすんなりと沢に出た。やはり、こんな夜半沢でも水は多い。

(紅葉が加われば、隠れたスポットになるかも)


(今日は水量もあって見映えのする流れもある)


(左下にコンクリの残骸が残る。橋だったのだろうか)


(苔むした沢がずっと続く)


 ここから嫌な沢沿いの歩きになる。石がゴロゴロして、今日に至っては泥濘も多い。地下足袋は泥を足底に積んで滑る。この先のことをあまり記したくはない。地図の水線が出るあたりから左岸側の崩壊が進み、右岸に渉って左岸側に戻ったりの繰り返し。明瞭な踏み跡があるわけでもない。とにかく、歩きやすいところを沢沿いに下るだけだ。小滝の里がありし頃は、象山に向かう遊歩道もあったのだろう。
 いつもよりも水量が多いから、小滝状のところもあって、水流に見ごたえはある。途中、2度は休憩したか。菓子パンを食べたり、タバコを吹かす。その間に滑って尻元をついて、ズボンの尻は泥んこになっている。とにかく長い。水を流すパイプが出てきて、社宅跡の石垣を見てほっとした。

(ようやく道状になって)


(社宅跡の石垣)


(階段を下る)


(大きな石垣を見て。ここには小滝坑の坑長の役宅でもあったのか)


(車道に下る。ここは水が流れている)


 階段を下って車道。この階段は水の流れになっていた。階段を下っているところで車道を走る車がいきなり速度を下げた。そりゃ当然だろう。こんなところで人が歩いているわけだから、何をやっているのか気にもなる。ここまでの夜半沢歩きは一時間。長かった。
 ところで気になった。上流で声が聞こえたあの2人、普通なら周辺に車があるはずだが見えない。帰りに小滝の里にも車はなかった。決して空耳ではないはずだが。
 ここからでも長いなと車道歩き。しかし、それは甘い。クラシックコースで皇海山に登るハイカーは、定番として初日は原向駅から庚申山荘まで歩く。自分の歩く距離はその1/8程度のものだ。ましてザックの中で重いのは水を吸った沢靴くらいのもの。これとて軽い。その辺にザックをデポして空身で引き返すほどのこともない。てくてくと歩く。上りなのがつらく感じる。

(小滝抗の入口を旧小滝橋から)


(小滝)


 いつもなら車で素通りするところだ。ふらふらと庚申川の景色を眺めたりしての道草。ふと気になったのが小滝坑の入口看板。立入禁止の看板を立てる発行人は<古河機械金属株式会社足尾事業所>となっている。先日、同窓会の延長で行った阿仁鉱山の選鉱跡立入禁止看板にも<足尾事業所>とあって、不思議に思っていた。公ではなく民間のやることだ。組織、経営的なこともあるのだろう。いずれにせよ、阿仁に古河の資産はあっても、事業所はないのだ。銅価が下がっていては探鉱を続けて行くことにも意味はない。

(象山方面)


(南無阿弥陀仏と記されているように見えた)


(かじか荘下で)


(象山)


(アップで)


 昔の墓地跡らしきところを見てかじか荘上の駐車場に到着。車は7台くらいになっている。石に腰かけて一服。残った水は捨てた。今日の歩きは何だったのだろうといった思いも出てくるが、雨上がりの不可抗力と思えばそれまでの話であきらめもつく。
 さてどうしよう。水は冷たくはなるが、雨降沢の課題はそのままになったし、山名板のメンテもある。結局はこれから先の気分次第だなと収める。
 車を出すと雨がポツリポツリと窓にあたる。国道に出ると小雨になり、足尾トンネルを抜けるとワイパーが忙しくなった。雨は大粒。どんなルートで歩いても小法師岳まで行っていたら、まだ山中で歩いていて合羽に着替えてトボトボと歩いている。今日のところは、さっさと下って正解だったようだなと正当化するしかしょうがない。むしろ、この雨のせいにできて救われるといったところか。だが情けない気持ちだけは残る。

(本日の軌跡)

「この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図200000(地図画像)、数値地図25000(地図画像)、数値地図25000(地名・公共施設)、数値地図250mメッシュ(標高)、数値地図50mメッシュ(標高)及び基盤地図情報を使用した。(承認番号 平24情使、 第921号)」※今回のブログの写真、きれいでも鮮やかでもない紅葉写真ばかりを連ねたが、陽があたっていたら、青葉を含んでいてももっと見栄えはしたかと思う。この半端な紅葉が自分には好みなのだ。まして右岸尾根は、下は過激な登りながらも、その先はひっそりとしていて、それに見合った静かな紅葉だった。ただ、雨続きだったこと、そして曇天だったことで余計に湿っぽい紅葉になってしまったことはしかたがない。

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6 コメント

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雨降沢 (みー猫)
2019-11-04 21:30:11
こんばんは。
雨後の増水でルート変更になったのですね。えらく至近で熊2頭いたんで驚きです。2頭は血縁でしょうか。もし予定通り滝を突破だと、熊さんらに挟み撃ちになってたかも知れず危うかったですね。それはさらっと流して実に微妙な紅葉が良かったというのはたそがれさんらしいです。一頭目がパンダグマだったからなのでしょうか。見てみたいものですが、デカいのとセットだとちょっと考えます(笑)
Unknown (瀑泉)
2019-11-05 22:28:57
この日は,台風21号の影響で,河川は増水しているだろうとは思ってましたが,案の定でしたネ。特に,雨降沢滝は,立派な姿だったようで。此れでは登れなくても,仕方がないでしょう。
それと,たそがれオヤジさん同様,pot bellyさんも
,垂れていたロープを使って失敗したみたいで。
まぁ,前もって知っていればといったところでしょうが,そんな処にロープが垂れていれば,使いたくなるのも人情でしょう。
ところで,pot bellyさんによると,左岸側に薄い踏み跡があって,それを辿ると7m滝の真下に降りられたとありますが,とても簡単な雰囲気ではなかったんですかネ。まぁ,見ていないからナントもですが,本流側から回り込むのも難しいとなると,雨降沢をまともに遡行するには,滝を登るしかないのかな。
しかし,紅葉はマズマズだったとはいえ,一日に熊二匹とはネェ。そういえば,以前,1326mへ続く滝沢右岸尾根を歩いた時,新鮮な熊糞を見たことを思い出しましたヨ。やはりこの辺りは,其れなりに居るようだから,うかうか歩いては危険でしょうネ。
みー猫さん (たそがれオヤジ)
2019-11-08 07:11:08
みー猫さん、こんにちは。返信遅くなり失礼しました。
熊も、人間の気配を察してさっと逃げて行くのが普通ですが、これはあくまでも視界が広い中でのことで、いきなりばったりだったら、襲われるでしょうし、また、ふみふみぃさんのようにわざわざ木から下って来て襲おうとした記事を見たりすると、一概に熊の習性は計りかねます。おそらく、その時の熊の気分でしょう。逃げて行ったから安心というわけにもいかないと思います。とにかく、熊が逃げた方向に行くのは禁物でしょう。
あの辺は熊の多発地帯だし、果たして血筋関係なのかは微妙です。
紅葉は見られたものではありませんでした。雨で湿っぽくなってもいましたから。無理やのに好みにしたようなものです(笑)。
瀑泉さん (たそがれオヤジ)
2019-11-08 07:11:44
瀑泉さん、こんにちは。
どうも私の判断が甘かったようです。一日空ければ、水量も減るだろうと思ったのが失敗でした。
右岸側のロープは、山仕事関係者が取り付けたものではないと思います。あの辺、植林も何かの杭もワイヤーの残骸もありませんでしたし、わざわざあんなところを登りはしないと思います。きっと、滝の上に出るルートが先にあるのかもしれません。
左岸側の薄い踏み跡の件ですが、おそらく私が途中で引き返した岩場の先にあるのかとは思いますが、その先もかなり急斜面になっていますから、果たして自分の実力レベルで安心して滝の上に出られるかは疑問です。
私には、水の少ない時期に滝を直登した方がむしろ安全な気がします。ただ、pot bellyさんの記録によると、沢そのものはかなり急なようで、滝さえ越えればといった安易な気分ではないようですね。
私の感じですが、巣神山周辺は、足尾山塊の中でも熊の棲息が多いのではないでしょうか。ぶなじろうさんが県境尾根を歩いて4頭も見たというのもまた、強いて言えば巣神山エリアでもあるし、私も、その界隈での遭遇率は高い。あまり暢気に歩いていられない気がします。
Unknown (ふうみ)
2023-12-21 13:55:39
はじめまして
桐生在住ですが最近足尾の山に興味を持った者です
いつか小法師とか行ってみたいと思ってます
ところでお尋ねしたいのですが記事中の第一ケルンは標高何メートルのところでしょうか?
先日小滝から1167地点を行き、右岸尾根?の1050位まで行きましたが、もっと下でしょうか?
教えて頂けると嬉しいです
ふうみさん (たそがれオヤジ)
2023-12-28 19:56:43
ふうみさん、初めまして。こんにちは。
お粗末記事をお読みいただきありがとうございます。
そうですか。足尾方面の山にご興味を。最近は、遠ざかっています。中倉山の何とかブナが有名になり、それまでは静かだった山域も賑やかになり、自然に足が向かなくなっています。
さて、お問い合わせの件ですが、撮影時間をカシミール地図で追いかけますと、第一ケルンは965mあたり。第二は1130m付近でした。ふうむさんがその尾根を歩かれたとしたら、かなりゴツイ石を集めたものだと感心したものですが、だとすれば、そう簡単に崩れるはずもなく、4年前とはいえ、跡形でも散らばっていたとは思うのですが。
小法師もあちこちのルートで歩き、山名板も交換するつもりで、作製済みなのですが、なかなか行けなくて。
小法師もさることながら、巣神山近辺では、この記事以外にも何度かクマを見かけていますので、行かれるようでしたら、十分にご注意ください。もっとも、足尾の山のクマは、人の気配に気づけば、大方は逃げて行ってくれますけどね。
返信が遅れましたこと、お詫びいたします。しばらく、自分のブログもチェックしていいなかったものですから。

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