南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

積雪による道路凍結による交通事故の道路管理者の責任は。

2022年01月14日 | 地方自治体と法律
(はじめに)
 先日、東京でも10センチ程度の積雪があり、その翌日には路面が凍結して、交通が混乱しました。
 凍結により、交通事故が起こった場合、道路管理者である自治体等に損害賠償請求ができるのかどうか検討しました。

(国家賠償法2条1項)
 損害賠償請求の根拠は、国家賠償法2条1項になります。
 こんな条文です。
「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」
 ここで、「設置又は管理に瑕疵」という言葉がでてきますが、これは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることという意味であると解されています。
 「通常有すべき安全性」には、道路の管理行為も含めて判断されるとするのが判例です。

(高知落石事件)
 道路の設置管理の瑕疵が問題となったケースで、よく知られているもののひとつに、高知落石事件(最高裁昭和45年8月20日判決・民集24・9・1268)があります。
 この事件では、最高裁は、道路管理者(国)の損害賠償責任を認めています。
「国道五六号線は、一級国道として高知市方面と中村市方面とを結ぶ陸上交通の上で極めて重要な道路であるところ、本件道路には従来山側から屡々落石があり、さらに崩土さえも何回かあつたのであるから、いつなんどき落石や崩土が起こるかも知れず、本件道路を通行する人および車はたえずその危険におびやかされていたにもかかわらず、道路管理者においては、「落石注意」等の標識を立て、あるいは竹竿の先に赤の布切をつけて立て、これによつて通行車に対し注意を促す等の処置を講じたにすぎず、本件道路の右のような危険性に対して防護柵または防護覆を設置し、あるいは山側に金網を張るとか、常時山地斜面部分を調査して、落下しそうな岩石があるときは、これを除去し、崩土の起こるおそれのあるときは、事前に通行止めをする等の措置をとつたことはない、というのである。
かかる事実関係のもとにおいては、本件道路は、その通行の安全性の確保において欠け、その管理に瑕疵があつたものというべきである。」
 道路管理者は、「落石注意」等の標識を立て、あるいは竹竿の先に赤の布切をつけて立て、これによつて通行車に対し注意を促す等の処置は講じていたのですが、それでは損害賠償責任を免れるのに不十分というのが、最高裁の結論です。
・防護柵または防護覆を設置
・山側に金網を張る
・常時山地斜面部分を調査して、落下しそうな岩石があるときは、これを除去する
・崩土の起こるおそれのあるときは、事前に通行止めをする等の措置をとる
ことをすべきというのが最高裁の結論です。
 道路管理者にはかなり厳しい判決です。
 
(積雪による道路凍結のケース)
 高知落石事件は、道路に関する裁判例ですが、落石に関するケースでもあります。
 それでは、積雪による道路凍結が原因となった自動車事故ではどのように判断されるでしょうか。
 高裁レベルですと、大阪高裁昭和50年9月26日判決(交通事故民事裁判例集9巻3号618頁)があります。積雪による路面の凍結に起因した京都府道上の交通事故につき、道路の管理に瑕疵はないとしています。
・特に積雪地帯ではなく、府道が地方の幹線道路であるとは言え、右程度の積雪凍結状態である限り、これを管理する控訴人京都府に、常時即時融雪剤撒布その他路面の凍結解消の措置を執り得る人的物的態勢をととのえて降雪に際して即時その措置を執ることを求めることは、住民に対するより良き奉仕要求としては許されるにしても道路管理義務の遂行としては、その範囲を超えるものと言うべきである。
・かような際の危険の回避は、それに対面する個々人の注意に待つほかはない。積雪する路上を通行する運行者は路面の凍結状況に注意し、滑りによつて運行の自由を失うことのないよう、万一滑りを生じても事故の発生を防止しうるよう、その地形に応じて速度を緩め運転操作に細心の注意を払い、危険の回避があやぶまれるときは車輌にチエンをとりつけるべきである。(成立に争いのない丙第三号証、京都府道路交通規制には「積雪または凍結している道路において自動車を運転するときはタイヤ・チエンをとりつける等すべり止めの措置を講ずること」との定めがあることが認められる。)危険の回避があやぶまれるにかかわらず、チエンをとりつけず事故を起した不注意な運行者がその不注意を問われず、道路が危険であつたとして道路の管理の瑕疵に事故責任を結びつけようとすることは当らない。
・昭和四三年一、二月頃に宇治地方で他に降雪による自動車の滑走事故が起つたことが窺えるが、このことがあつたからと言つて、前示認定をくつがえすことはできない。そして本件事故の場合、控訴人太田は路面の凍結していることを認識していたのであつて、認識していなかつたが故に本件事故を生じたのではないから、立札等により凍結に対する注意を喚起する方法が講じられていなかつたとしても、このことは本件事故と因果関係のないことである。
 過去に事故があったとしても、立札を立てていなくても、道路管理者には責任はない。
 車両にチェーンをつけるなどして、個々人の対応にまかされるのであるというのが、大阪高裁の結論です。

(東京地裁のケース)
 地裁レベルですと、東京地裁昭和52年8月25日判決(判例タイムズ 365号 395頁 )があります。国道の凍結した路面でスリツプして生じた自動車事故につき、道路の管理に瑕疵がないと判断しています。
 凍結時に必要な道路管理者の注意義務について次のように述べています。
「当該道路の管理者は、道路の凍結の状況が、地形的、構造的諸条件に照らし、車両運転者が前示の一般的な運行態度による通行方法を採る場合においても、なお、客観的な危険性が予測され、交通上の危険を誘発するおそれがある場合につき、その危険を排除し、道路の通常の安全性を確保するため、凍結状態を融解し、又は注意標識を掲示し、あるいは必要に応じて通行止めの措置を採る等の管理義務を負うものというべきである。」

 以上のように、積雪による凍結の場合は、高知落石事件のような道路管理者に厳しい態度を貫いているわけではないようです。
 
(道路交通法施行細則の規定)
 各都道府県は、道路交通法施行細則で、積雪又は凍結によりすべるおそれのある道路において自動車を運転するときについての規定を置いています。
 千葉県ですと、次のような規定があります(千葉県道路交通法施行細則9条6号)。
「法第71条第6号に規定する車両の運転者が遵守しなければならない事項は、次の各号に掲げるものとする。
(6)積雪又は凍結によりすべるおそれのある道路において自動車を運転するときは、タイヤ・チエンをとりつける等すべり止めの措置を講ずること。」
 法令上は、「チエン」なのですね(しかも大文字の「エ」です)。
 いずれにせよ、このような規定がある以上、裁判所も考慮せざるを得ないことになります。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする