セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「レ・ミゼラブル」

2013-01-20 21:07:20 | 外国映画
 「レ・ミゼラブル」(「Les Misérables」2012年・英)
   監督 トム・フーバー
   原作 ヴィクトル・ユゴー
       アラン・ブーブリル(ミュージカル版)
       クロード・ミッシェル・シェーンベルグ(ミュージカル版)
   脚本 ウィリアム・ニコルソン アラン・ブーブリル
       クロード・ミッシェル・シェーンベルグ ハーバート・クレッツマー
   音楽 クロード・ミッシェル・シェーンベルグ
   撮影 ダニー・コーエン
   出演 ヒュー・ジャックマン
       ラッセル・クロウ
       アン・ハサウェイ アマンダ・セイフライド
       サシャ・バロン・コーエン ヘレナ・ボナム=カーター
       エディ・レッドメイン サマンサ・バークス

 ユゴーの名作を元にしたミュージカルの映画版。

 冒頭のシーン、ツーロン造船所での船曳きシーンが素晴らしかった。
 歌と映像と男達の肉体労働がマッチして凄い迫力がありました。
 また、映画として「舞台」では出せない映像の拡がりも、しっかりした時代考証
と相まって良かったと思います。
 ただ、僕にとっては、ミュージカルなのに耳に残るナンバーが無かった。
 曲それぞれは悪くないのですが、突出したものが無くて、マクドナルドの次が
ロッテリアで、その次がモスバーガーって感じなんですよね。
 強いて上げれば、冒頭の「囚人の歌」、「ABCカフェ」、「心は愛に溢れて」、
「民衆の歌」でしょうか、有名な「夢やぶれて」は余り印象に残らなかった。
 その4曲にしても、一度聞いたくらいじゃ口ずさめないんですよね。
 (「囚人の歌」が微かに残るのも、「ダウンタウン物語」の「Dawn And Out」に
少し似てるから)
 それでも、マリユス、コゼット、エポニーヌが歌う「心は愛に溢れて」は、作り
方が素晴らしかったと思います。
 3人で歌ってるのに2対1で相反する別々の心情を歌い上げてる、似てるの
は「ウエストサイド物語」の「クインテッド」だけど、あれは「決闘」と「トゥ・ナイト」
の掛け合いで登場人物達それぞれに曲が割り振られていて、このナンバーみ
たいに一つのメロディの下で展開していない、ここは中々上手いと思いました。
 役者陣は皆、健闘と言っていいと思います。
 特にジャベールを演じたR・クロウ(ちょっと格好良すぎ)、テナルディエ夫婦
のS・B・コーエンとH・B=カーターが印象に残りました。
 ただ、マリユス以外は、皆、僕の持ってたイメージと違ってたので、個人的で
すけど、そこはちょっと残念。
 エポニーヌを演じたS・バークスは映画の登場人物としては良いんだけど、イ
メージは、もっと病的だったし、僕の持つジャン・バルジャンのイメージってジャ
ン・ギャバンが一番近い(実際、フランス映画で演じてる)んです、もっとズング
リムックリで、ああいう「いい男」じゃない。(笑)
 ファンティーヌとコゼットは、昔読んだ、みなもと太郎氏の名作ギャグ・マンガ
のイメージ(少女マンガみたく可憐~このマンガにしては美人!とジャベールに
言われるくらい)が強烈にこびり付いてしまっているので、恐らく、3次元の世界
では誰が演じても僕には駄目だったと思います。(笑)
 
 フランスの国是「自由・平等・博愛」(共和制)の下、「人はどう生きるべきか」、
「神に祝福される人々は誰か」
 壮大なバリケードの後ろに集まった人々、体制と権力(王政)に虐げられ「幸
福から一番遠い人々」、そんな「惨めな(ミゼラブル)な人々」こそが、「神の祝
福」を一番に受けるべき人達だ、として描かれるラスト・シーンは圧巻であると
同時に感動的でした。
 (こういう場面は原作にはない、ジャン・バルジャンは「この世には、愛し合う
以外のことは、ほとんどない」とコゼット、マリユスに言い残して死んでいくだけ)

 ミュージカル映画の佳作だと思います。

※長い事、「革命騒ぎ」は日本左翼の理想「パリ・コミューン」事件をモデルにし
 たものと勘違いしていました、実際は1848年の二月革命をモデルにしたも
 のでした。
 (同じく、ジャベールの出自は書かれていないと思ったのですが1巻の中程
 に「刑務所の中でトランプ占いの女の子として生まれた。・・・」と書かれてい
 ました)
※1979年に刊行された、みなもと太郎氏のギャグ・マンガ「レ・ミゼラブル」
 (世界名作劇場/希望コミックス)は、中々の名作で、全5巻の長い原作を読む
 のが面倒な人には、これがお薦め。(H25.1.25修正 こちらで無料で読め
るようです Jコミ 完全版「レ・ミゼラブル」http://vw.j-comi.jp/murasame/view/42361/p:1
 面白いのはバルジャンの臨終後のシーンが映画とそっくりな事、原作ではミュ
 リエル司祭もファンティーヌも迎えには来ないけど(「司祭さまは、ここにおられ
 る」とバルジャンが天上を指す場面はある)、マンガも映画も、ちゃんと迎えに
 来てるんです、映画と同じように、ギャグ・マンガですけどユゴーが言外に言っ
 てる事を的確に押さえていると思います。
 (但し、結末は、みなもと氏が「あとがき」で書いてるように、みなもと氏が望む
 「レ・ミゼラブル」の結末になっています。また、エポニーヌの件は完全に割愛
 されています)
※原作で一番好きな人物は、ABC結社のメンバーの一人なんだけど、何で居る
 のかさっぱり解らない、只の酔っ払いの役立たずグランテール。
 バリケード騒乱の間中、泥酔の為に爆睡していて、銃声が止んだ途端目を覚
 まし「共和国、万歳!」と言いながらアンジョルラスの元へ行き並んで銃殺され
 る変な奴。
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6 コメント

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こんばんは☆ (miri)
2013-01-20 22:20:28
>冒頭のシーン、ツーロン造船所での船曳きシーンが素晴らしかった。
>歌と映像と男達の肉体労働がマッチして凄い迫力がありました。
>また、映画として「舞台」では出せない映像の拡がりも、しっかりした時代考証
と相まって良かったと思います。

仰るとおりですね~!
映画をあまり見ない人でも、上映時間の長さが気になる人でも、
どんな人でも、シッカリ引き込む上手な監督さんですね!

>只、マリユス、コゼット、エポニーヌが歌う「心は愛に溢れて」は、作り方が素晴らしかったと思います。
>3人で歌ってるのに2対1で相反する別々の心情を歌い上げてる、

本当に素晴らしかったです☆

>壮大なバリケードの後ろに集まった人々、体制と権力(王政)に虐げられ「幸福から一番遠い人々」、そんな「惨めな(ミゼラブル)な人々」こそが、「神の祝福」を一番に受けるべき人達だ、として描かれるラスト・シーンは圧巻であると同時に感動的でした。

あのラストシーンをそういう意味だと考えれば、
ジャベールがいなくても仕方なかったのかもしれないけど、
私は「天国」の(私なりの)意味を思った時、
居て欲しかったし、居るべきだと、今も思っています。

>ミュージカル映画の佳作だと思います。

私もそう思います。
そう思う人が多いような気がします、そんな映画でしたね・・・。
返信する
まだ、記事を手直し中でした(笑) (鉦鼓亭)
2013-01-21 00:07:46
 miriさん、コメントありがとうございます

上映時間の長さ>時間の長さが殆んど気にならなかったのは、全編音楽で流してたからだと思います。
(それは、あくまで出来のいいミュージカルであると言う前提条件をクリアしてたから~出来が悪かったら目も当てられない(笑))

「心は愛に溢れて」>今の所、ナンバーの中ではこれが一番印象的でした。

壮大なバリケードの後ろに集まった人々、体制と権力(王政)に虐げられ「幸福から一番遠い人々」、そんな「惨めな(ミゼラブル)な人々」こそが、「神の祝福」を一番に受けるべき人達だ>
ここは、miriさんの疑問に対する僕の感想です。

原作は非常に宗教色の濃い作品で、3割くらいは宗教関連じゃないかという印象を持っています。
バチカンの教義、キリスト教の教えでは、悔い改めた者は貴賎を問わず神の救いがある、と言ってると思いますし、miriさんの思いも、それに近いと推測します。
でも、これはバチカンが書いたものじゃなくて、共和制信奉者ユゴーが書いた「ミゼラブル」な者にこそ「救い」を、が重要なテーマになった「作品」なんだと思います。
これは、ミュリエル司祭がミゼラブルなバルジャンに「救い」を与える、というエピソードにも表されています。
ジャベールは王政の下僕で、最後に信じてたものに疑問を持ち、その結果、精神のバランスが崩れ自殺しますが、決して、考えを改めて「生き直そう」とはしていません。
疑問に負けただけ。
(みなもと氏のマンガでは、死に損ねて、バルジャンがジャベールに命じてファンティーヌを釈放した時に言った言葉「君も必ず気が付く時が来る、法には慈悲がなくてはならぬ・・・と」を思い出し、その言葉によって救われる)
「神の世界」ではジャベールは救われる存在かもしれませんが、「レ・ミゼラブル」(王制vs共和制)の世界では、救われる一歩手前で終わった存在なので、あのバリケードの内側には入れない人物、そして、この作品は「レ・ミゼラブル」なんだから、あれで良かったのだと僕は思っています。

返信する
こんにちは! (なるは)
2013-01-26 11:54:15
先日はコメントありがとうございました!
訂正コメントまで、かえってすみません!(^^;)

>マクドナルドの次がロッテリアで、
>その次がモスバーガーって感じなんですよね。

う う う、 うまい!!
まさにそうだったと思います!!!

>壮大なバリケードの後ろに集まった人々、~
 こういう場面は原作にはない、~

そうだったんですね!!
追記も拝見しながら、とっても勉強になりました!
あのシーンは好きでした。
あそは映画だ!!って感じで
感動を興すシーンでしたよね!!!
返信する
こんばんは! (鉦鼓亭)
2013-01-26 22:08:09
なるはさん、コメントありがとうございます

訂正>箱から引っ張りだす手間を惜しんだばっかりに、恥晒しました。(笑)
原作はちょこちょこ摘み食いした後、初めから読み出したのですが、途端に仕事が忙しくなって、現在、止まってます。
この本、作者、寄り道ばっかりで中々先へ進まないんですよ(笑)、宗教の話をしたり、社会現象その他の考察にページを割いたりで、全5巻だけど、そういう所を削れば3巻で収まる感じです。

記事の※印の所にアドレス貼ったのですが、マンガも面白いですよ。(笑)

曲が数珠繋ぎで出てくるのはいいけど、もっとメリハリが必要な気がしました。
ストーリーには起伏が有るんだけど、曲の方が余り変わり映えしないんですよね。

最後のバリケードのシーン>うん、あそこは良かったです!
涙腺が緩みました。(笑)
(ただ、今回、隣に座ったガキンチョ(小5くらい)が初めから終わりまでポプコーン食べ続けてまして(飽きると休憩してたけど)、食べ終わったのがエンドロールの終わる直前、もうホントにドタマ小突いてやりたかった!~開始20分で飽きてましたね(笑))
返信する
この作品は (宵乃)
2013-01-30 07:18:43
いつか必ず観たいと思ってます。他の同一原作作品も観たいし!
ところで、昨日せっかく教えて頂いたのに、痛恨の録画ミスで録れませんでした。すみません…。
再放送がきっとあると信じて、その時こそはちゃんと録画しますね~!
失礼しました。
返信する
いつか、感想を聞かせて下さい (鉦鼓亭)
2013-01-30 22:37:31
 宵乃さん、こんばんは!

「レ・ミゼラブル」は観る価値のある映画だと思っています。

録画ミス>参考までにお知らせしただけですので、全然、気にしないで下さい。
本当に気にしないで下さいね。

でも、面白かったです!(笑)
今日、ちょっとレビューを見て歩きしたのですが、皆、男なんですよね、
女性の方の感想は殆ど無かった。
もしかしたら、男に受ける映画なのかも・・・。
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