セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「飛べ!フェニックス」

2012-04-11 22:54:49 | 外国映画
 「飛べ!フェニックス」(「The Flight of the Phoenix」1965年・米)
   監督 ロバート・アルドリッチ
   出演 ジェームス・スチュアート
       リチャード・アッテンボロー
       ハーディ・クリューガー
       アーネスト・ボーグナイン
       ピーター・フィンチ
       ロナルド・フレイザー
       ジョージ・ケネディ

 この映画、まず邦題がいいですね。
 「飛べ!~」の!が、実に、この映画の印象を表してると思います。
 近年のリメイク作「フライト・オブ・フェニックス」(何でtheを抜かしたんだ
ろう)のタイトルでは、この映画のイキみが全然伝わらない。
 飛べ!の!には、酷い便秘の人がトイレで大汗垂らしてイキんでるっ
て感じが込められてるんです。
 だから、この作品のタイトルには絶対「!」が外せない。(笑)

 石油会社の双発輸送機が12人の乗客を乗せたままサハラ砂漠のド
真ん中へ不時着する。
 壊れた飛行機に生き残ったのは機長、副長と10人の乗客達。
 哀れタイトルバックも終わらない内に2人死亡。
 食料はナツメヤシ、水は10日分、コースを大きく外れた為に救援の見
込みは殆んどゼロ。
 ちょっと、女の居ない「マタンゴ」設定、その中で大人の男達がプライド
を賭けてイガミ合い、イガミ合いながらも脱出の方法を模索する。
 「どうすんべ、どうすんべ」で1時間、偶然、乗り合わせた航空デザイナ
ーの存在で話が変わって1時間。
 よくもまあ、これだけの設定で2時間半近く、高いテンションを保ち続け
たものです。
 監督R・アルドリッジのパワーと、それに応えられる役者達のパワー、こ
れが双発のエンジンとなって上手く噛み合い、名作の域にまで飛び上が
りました、観ていて、全然、飽きません。
 普段と打って変わって意固地で偏屈な機長をJ・スチュアート、「シベー
ルの日曜日」から、これまた激変、血も涙も何処かへ置いてきた冷徹な
デザイナーがH・クリューガー、この2人を軸にR・アッテンボロー、P・フィ
ンチ、R・フレイザー、G・ケネディ、E・ボーグナイン他、皆が好演してい
ます。
 下手な奴が本当にいない。
 こんな濃い連中の顔が砂漠の熱にやられて、どんどん火傷して干から
びる、とてもメイクとは思えない。
 きっと、これを撮ってるスタッフ達の顔も、こうなってるんじゃないかと思
えるほど。
 凄いです。

 面白いなと思うのはR・フレイザーが演じた軍曹の使い方。
 ハリウッドの定石に反してるんだけど、この人を定石通りに処置したら、
この映画、ここまで印象深くならなかったんじゃないかと思えるんです。
 何か、もっと軽い印象になったのではと。
 どうでしょうか?
 脚本的には、軍曹の上司である大尉の扱いも興味深いです。
 この人が居ると余りモメない、モメないと話にならないから、何処かへ
行かせちゃう。
 多分、この人が遠征しなければ、3日は早く事が終わってた気がしま
すね。(笑)
 あと、G・ケネディ。
 J・スチュアートに意外な役を演らせた監督だから、G・ケネディも狙い
通りなんだろうけど、暴れないG・ケネディというのは、何か勿体ない。
 優しい「お猿」の保護者というのも良いんだけれど、G・ケネディが顔を
真っ赤にして怒鳴る所を個人的には見たかった・・・。

 ええと、ここからは話が逸れて愚痴愚痴になります。
 E・ボーグナイン、G・ケネディ、J・パランス、R・ウィドマーク、L・マービ
ン。
 もう、こういう人達は洋の東西を問わず絶滅種になってしまった・・・。
 俺の隣に来るな!っていう面付きなんだけど、子供っぽい笑顔も出来
て(勿論、面付き以上の冷酷な笑いも出来る)、それが、実に愛敬があ
って優しい感じで。
 顔見てるだけでお酒が飲める、味のある役者さん達。
 いつも思ってる事なんですけど、この映画を見ていて、それをまた、痛
切に感じてしまいました。
 随分、話がそれましたが、昔読んだ逸話を紹介して今日は終わりにし
ます。
 飯田蝶子さんが松竹の面接に行った時の話です。
 蒲田撮影所所長 野村芳亭に切った啖呵。
 所長「お前はアカン、女優なんかになれる顔やない」
 蝶子「いい男といい女ばかりじゃ面白い映画なんて出来ません、私み
たいなのが脇に居てこそ話も深くなるし面白くなるんです!!」


※「マタンゴ」の土屋嘉男といい、この作品の軍曹といい、極限状態で見
 るものが洋の東西共通というのが何とも・・・。(笑)
 
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2 コメント

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飛べ!の”!”を (宵乃)
2012-06-11 12:03:48
便秘のひとの”いきみ”に例えるとは…とっても分かりやすいです!(笑)
改めて考えてみると、内容は本当にシンプルすぎる内容ですよね。シンプルだからこそ、人間模様も際立つんでしょうが、リメイクは完全に負けてて、やはりこの面子が揃ってこその濃さだったんだなぁという感じでした。

>面白いなと思うのはR・フレイザーが演じた軍曹の使い方。

軍曹って、上司嫌いな臆病者の男ですよね?
最後まで生き残っちゃうところはホント意外でした。現実ではこういう人ほどしぶといって事でしょうか。
これも大好きな作品です。
「北国の帝王」はダメだけど、これは大好き (鉦鼓亭)
2012-06-12 00:09:59
コメント、ありがとうございます!

回れ!回れ!!回れ~~~!!!ですからね。(笑)

僕達の世代はナントカ洋画劇場で見て、ファンになった人が大半だと思います。
それくらい認知度が高かった。学生時代、仲間と話をすると、全員見てましたから(劇場じゃなくTVで)。

卑怯者の軍曹>通常(今でも)、こういう人って、例えば離陸の際のバウンドで落っこちて「天罰下る」がハリウッド式なんですけど、ニューシネマ以前に定石を崩したアルドリッチの根性は凄いと思います。

リメイク版>今は、陽気に壊れた顔(笑)の役者さんが居ませんから。

※日曜日、後回し後回しにしていた「めぐり逢い」を、ようやく観ました。
「めぐり逢えたら」の婚約者は原作を、なぞってたんですね。(笑)
ただ「めぐり逢い」は、ニックとテリーの恋愛過程をしっかり描いてるので、それ程、違和感は有りませんでした。
やっぱり、「運命」なんてアミダ籤みたいな安易な言葉を、わざわざ抽出してキーワードにしたのが、「めぐり逢えたら」の失敗の原因だと思います。

日曜に「めぐり逢い」とJ・アニストンの「グッド・ガール」を観ました。
片や善人ばかり、もう片方は善人は何処に居るんだ!な作品。
作品の出来は「めぐり逢い」が格段に良いのだけど、
しょうもない人間ばかりで苦虫を噛み潰したような後味の「グッド・ガール」の方が、今の所、心に引っ掛かってます。(3年後は解りませんが)
J・アニストン>好みなんだけど、演技がTV的だなァ。

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