セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」

2013-02-03 01:12:50 | 映画感想
 最初にお断りしますが、僕、動物絡みの作品は苦手なんです。(笑)

 1950年に黒澤明監督が作った「羅生門」。この作品、タイトルこそ「羅生門」
ですが、中身は同じ芥川龍之介の「藪の中」でした。
 この作品が西洋人に与えた衝撃というのは、簡略化すれば「真実の多面性」
であり、人の口から話されるものに「真実は存在しない」だったと思います。
 何故か?一神教であるキリスト教徒、ユダヤ教徒にとって、神は絶対不可侵
な唯一のものであり、その神の元にある世界では「真実は一つ」と信じられてき
たからです。
 「羅生門」登場以来、西洋で「真実の多面性」、「真実に対する懐疑」をテーマ
にする作品は「ラショウモン・スタイル」と呼ばれるようになりました。
 この映画は、そんな「ラショウモン・スタイル」の映画です。
  
 船が沈み、少年一人だけが長い漂流の末に生き残った。
 この映画で示される事実は「この二点」だけです。
 その事実を元に語られる「ファンタジックな物語」と「生々しい物語」
 人は「ファンタジー」を信じるのか、それとも、「生々しい話」を信じるのか。
 それは、「信じる」のではなくて「信じたい」なのではないか?
 映画では、日本の保険会社も、この話を聞く作家もファンタジーを選んでいま
す。
 この作品、ラショウモン・スタイルを守って「答」は提示していません、「答」は観
客に委ねられたままです。
 
 更に言えば、それを通して「神は存在するのか?」も有ると思います。
 (この辺は多神教である日本人と、律儀な一神教の考え方の差異が感じられ
ます)
 主人公パイは、生まれ育った母国のヒンズー教に感化されながら、キリストを
信じ、更にアラーの神を信じて「アラー アックバル」を唱える少年(中学2年くら
い?)。
 父親は言います「沢山のものを信じるという事は、実は、何も信じていない
と同じだ」
 (これは、日本人にとって結構「解りやすい」例えだと思います)
 彼が只一人生き残ったのは「神を信じて、神に救いを求めた」からなのか?
 彼は、どの神に祈ったのか?
 では、トラは何で生き残ったのか?虎は神にすがりはしない。
 それとも、トラ自身に神が宿ったのか?
 虎が神だったのか?
 それもこれも、はたまた偶然も「神」ならば、一体それは、どの神なのか?
 人々が唯一と思ってる神とは本当の所、誰なのか。

 この映画では、そんな過酷な運命の果てに得た「生命」で、現在を「どう生きて
いるのか」も描いています。
 誰もした事のない体験をしたパイ。
 でも、彼は「英雄」でもなければ「著名人」や「サバイバル評論家」でもない、ご
く普通の生活を送る一般人。
 神を信じる事に躊躇しない、どこにでも居る人間。
 タイトルの「ライフ・オブ・パイ」通りに、それが彼の人生であり生き方。
 数々の疑問を提示しながらも、この映画の言いたいコトは「生命」の目的は普
通の生活を送ることにある、そんな所に有るんじゃないかと思いました。


 僕個人の感想としては、取り立てて出来の良い作品とも、面白い作品でも有り
ませんでした。
 (動物絡みは相性悪いんだってば・・(笑))


※前回の「レ・ミゼラブル」では、隣に座った10歳くらいの子供に150分に渡る
 「ポップコーン攻撃」を受けました。
 速射砲のように食べるため口で呼吸が出来ず、仕舞には豚のように鼻をフガ
 フガ鳴らす始末。
 今回は15才位の女子でしたが、やっぱり130分ポプコーン食べまくり・・・。(涙)
 しかも音立てて食べてる。
 なによりかにより、どちらも口とポップコーンを行き来する腕がチラチラするか
 ら、気になる気が散るドタマ来る!
 自分の部屋じゃないんだよね、売店も、せめてSサイズだけにしてくれよ!!!
 (欧米では普通のスタイルらしいけど、そんなの知るか!)
 
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6 コメント

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動物大好き人間です(笑) (宵乃)
2013-02-08 12:51:06
こちらも気になってますよ~。CGのトラさん可愛いなぁ!
ラショウモン・スタイルについては初めて知りました。勉強になります。
それにしても「ポップコーン攻撃」たいへんでしたね。飲み食いしながら映画を観る習慣はないけど(エアロバイク派 笑)、咀嚼音は自分がいちばんうるさく感じるんじゃ…?
謎です。

ところで、今月は真冬のファンタジー企画を開催いたします。みんなでファンタジー映画を観てほっこりしましょう♪
norさんのリクエスト「おおかみこどもと雨と雪」も合同で行うので、興味のある方はぜひこちらもご覧になってください。
選んだ理由は…
ポスト・ジブリの呼び声高い細田守監督の最新作。
”ファンタジックに描くリアルな人間模様”
皆さんと一緒に新作映画を楽しめたらと思いリクエストしました。
だそうです。
開催期間は2月20日(水)~2月末までと長めにとったので、じっくり選んで下さい。
また、来月の作品を決める投票を今日から3日間行っていますので、お時間ある時にでも投票お願いいたします。(記事へのリンクをURL欄に入れておきますね~)
犬3匹飼ってます(笑) (鉦鼓亭)
2013-02-08 22:04:20
 宵乃さん、コメントありがとうございます

「ライフ・オブ・パイ」>「ヒューゴ」は2Dでも構わないと思ったけど、これは3Dがお勧めですね。

ポップコーン>来月初め辺りに予定があるのですが、「二度ある事は三度ある」にならない事をひたすら祈ってます。(笑)

どちらにするか、まだ決めかねていますが、参加したいと思っています。
投票>昼頃、ポチッとしてきました。(笑)
お誘い、ありがとうございます!!
こんにちは☆ (miri)
2015-05-13 14:46:08
この映画を見ました。
息子が友人に借りたDVDで、2Dです、もちろん(笑)。

>僕個人の感想としては、取り立てて出来の良い作品とも、面白い作品でも有りませんでした。

あらら・・・残念! 私は結構面白かったです♪
動物は嫌いですし、映画に出ても嬉しくない方ですが、
この作品はとりたてて動物の話ではないと思いましたので・・・。
(動物の話ではないほうが正確な話と言う意味ではありません・笑)

>この作品、ラショウモン・スタイルを守って「答」は提示していません、「答」は観客に委ねられたままです。
 
映画なので、それで良いと思います☆

>更に言えば、それを通して「神は存在するのか?」も有ると思います。
> (この辺は多神教である日本人と、律儀な一神教の考え方の差異が感じられます)

っていうか、この映画は、神の存在のお話だと思いました。
沈んだ船が日本の船と言うのは、「世界でも珍しく、宗教何でもウエルカム的なお国柄」だから
俳優さんは全然日本人には見えなかったけど(笑)、最近よく使われる隣の国ではなく
日本をこそ選んだのは、きっと、そういう意味なのだと思いました♪

>少年(中学2年くらい?)。

私はあの子、もっと大きい子だとしか思えなかったです(笑)。
まぁ設定は鉦鼓亭さんのおっしゃる通りなのでしょうけど、青年にしか見えなかったです(笑)。

>この映画では、そんな過酷な運命の果てに得た「生命」で、現在を「どう生きているのか」も描いています。

この部分があった事だけでもですが、その描写が凄く良かったです。

>数々の疑問を提示しながらも、この映画の言いたいコトは「生命」の目的は
>普通の生活を送ることにある、そんな所に有るんじゃないかと思いました。

それもあるのでしょうね~きっと☆

美しいCGだけならそんなに良いとは思えなかったと思うのですが、
序盤のあれこれ、口の中の宇宙とか、それぞれの宗教の神とか、
それがあの嵐の夜から頭の中だけではなく、実際に生きる事で証明してゆく?
そんな作品だったので、良かったように思いました。 

俳優さんは、あの日本人二人(しつこい・笑)以外は、全員良かったと思います♪
お父さんとお母さんの違いも素晴らしかったですネ! お兄ちゃんと弟の普段のアレコレの違いもね☆

よく出来た映画らしい作品のように思いました。 アン・リーが嫌いだったけど
(なので、かなり用心して見ました・笑) 今まで見た中では一番良かったと思います☆

監督賞等には「へー」って思ったけど、同年の他の作品全部見ていないので何とも言えませんが、
あの年のノミネート作品のハネケよりは、絶対良かったです!

2年以上前・・・今となってはポップコーンをほおばる彼女だけが強印象かも???(笑)
長々と、また最後の一文は、本当に失礼いたしました。(ペコリ)。


.
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2015-05-13 22:51:51
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます

あらら・・・残念! 私は結構面白かったです♪
>それは良かった!
「内容が、かなり抽象的で、解ったような、解らんような・・・」
映画館を出て歩きながら、ツラツラ考えるには良いのですが、何となく、そこ止まりのような気がしました。
絵は綺麗で幻想的、素晴らしかったですね。

沈んだ船が日本の船と言うのは、「世界でも珍しく、宗教何でもウエルカム的なお国柄」
>成る程、今日の「納得」です!

神の存在のお話だと思いました
>多少の差異は有るかもしれませんが、僕も大体同じかもしれません。
只、僕の感覚では「人間にとって神とは何なのか」の印象が強かった気がします。

この部分があった事だけでもですが、その描写が凄く良かったです
>大げさかもしれませんが、あの平凡さに、この作品の言いたい事が出てるんじゃないでしょうか。

あの日本人二人>保険会社の人間が後半に出てきたのは覚えてるけど、日本人だったのを忘れてました。(汗)
今となっては映画は覚えてるけど、ポップコーンの女性は忘れてました。(笑)
そう言えば、あれから酷いポップコーン攻撃が無かった・・・、そろそろ、出くわす頃?(汗)

新作を観てない事もあって、最近のアカデミー賞は今一つピンと来ないのですが、ノミネート作を見ると「ドングリの背比べ」って感じがしました。
撮影賞と視覚効果賞は納得です。
コメントありがとうございました (宵乃)
2016-01-27 13:00:47
せっかく教えていただいていたのに、すっかり「ラショウモン・スタイル」のことを忘れていました(汗)
でもホント、最後まで観客にゆだねているところがよかったですよね。もしかしたら、どちらも嘘かもしれないけど、こんなに楽しい冒険譚を聞かせてくれるならなんでもいいです。
宗教や神さまなんて信じる人によってぜんぜん違うし、何を言いたいのかとか考え出したら物語に集中できなさそうだったので、細かく考えるのは止めましたが(笑)

>日本の保険会社も、この話を聞く作家もファンタジーを選んでいます。

保険会社の人は選んだんでしたっけ?
これ以上聞いても参考になる話は聞けないから諦めたんだと思いました。(結論は他の情報のみから導き出す)

>ポップコーン

私も食べながら観るなんて…と思う方でしたが、最近「映画館はほぼ売店の売上で成り立ってる」と聞いて仕方ないかと思うようになりました。せめて静かに食べて欲しいですね。
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2016-01-27 23:23:52
 宵乃さん、こんばんは!

すっかり「ラショウモン・スタイル」のことを忘れていました(汗)
>それでいいんですよ。
あんまり小難しいコト考えて観るのも、味気ないもんです。
(他人のフィルターを通して観る事にもなるし)
僕も観る時は、なるべく真っさらな状態で観るように努めてます。

こんなに楽しい冒険譚を聞かせてくれるならなんでもいいです。
>人は見たくない真実より心休まる嘘を信じたがるものですから。

保険会社の人は選んだんでしたっけ?
>その辺は、ちょっと記憶があやふやで。(汗)
只、カニバリズム的な事は報告したくない雰囲気だったような。
彼らにしても「長い漂流で、まだマトモじゃなくファンタジーみたいな話しかしない」にしておいたって影響のない所。
彼らが知りたいのは沈没の原因が嵐なのか故意なのか、生存者が沈没に関係してるかどうかだけだろうし。

ポップコーン>
これ以後、酷い経験は幸いにもしてません。(笑)
2回くらい 食べてる人が隣に来たけど、静かにノンビリたべてくれてました。(家でDVD観る時は、一人だから酒とツマミは必需品なんですが、映画館では一切飲食はしません(上映中)、家で観る時も邦画に煎餅はダメですね、咀嚼音が酷くて台詞が聞こえません(笑))
先々週、「お題」の「無防備都市」を観に行った時、久しぶりの大災難に遭いました。(笑)
最終回の遅い時間も有って、一杯引っ掛けたサラリーマンが通路を挟んだ斜め前に居ました。
始まって3分も経たない内に往復の大イビキ。
真後ろの女性客は直ぐ別の席に移動しましたね。(笑)
生憎、足が短いもんで通路の向こうの席を蹴っ飛ばせないし、2歩歩いて「静かに!」と言いに行くにはスクリーンから目を離さなきゃいけない、もし、それで大事な台詞、重要なシーンを見逃したらDVDじゃないのでそれっきり。後悔してもしきれない。
15分くらいして、後列の壁際にいた人が注意してくれて、大体は収まりましたけど、それまで、注意しようか、五月蠅えな!馬鹿野郎!悶々として注意力が散漫になってしまいました。(泣)
宵乃さん、この場を借りて申し訳ありませんが、せめて一言叫んでスッキリさせて下さい。
「電車賃と入場料¥850払って、わざわざお前の大イビキを聞きに来たんじゃないぞ、バッキャーロー!!!」
すいませんでした。(汗)

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