セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「北ホテル」

2013-05-31 00:16:29 | 外国映画
 「北ホテル」(「Hotel du Nord」1938年・仏)
   監督 マルセル・カルネ
   脚本 マルセル・カルネ
   原作 アンリ・ジャンソン ジャン・オーランシュ
       ウージェン・ダビ
   撮影 アルマン・ティラール ルイ・ネ
   音楽 モーリス・ジョベール
   出演 アナベラ(ルネ)
       ジャン=ピエール・オーモン(ピエール)
       ルイ・ジューヴェ(エドモン)
       アルレッティ(レイモンド)

 パリの下町、運河の岸辺に建つ「オテル・デュ・ノゥル」
 このホテルを中心に、縦軸が心中に失敗した若いカップルのルネとピエール、
横軸に若い美貌の持ち主ルネを取り巻くホテルや近所の住人達を置き、それ
ぞれが織り成し絡み合う人間模様を描いた作品。

 カルネ監督の人間描写が、しっかりしていて手抜きが無い、自分が作り出し
た人物達への愛情が感じられます。
 この作品のような一種の群像劇は、登場人物達が、どんな人生を送ってきた
かを自然に解からせるようなキャラクターの彫り込みに、出来の成否が掛かる
と言っても過言ではないのですが、彫り込み具合といい、それぞれのバランス、
アンサンブルが見事に嵌ってると思いました。
 特に主役のルネ、ピエールとホテル暮らしの娼婦レイモンド、そのヒモ、エドモ
ンの描き方は巧みで、若いルネとピエールには蘇生と希望を、中年のレイモン
ドとエドモンには先の無い閉塞感と諦観を感じさせながら、それぞれを交錯させ
て人生のホロ苦い哀歓を描いていく手腕が素晴らしい。
 起伏に富んだ感情表現を、流れるような無理の無いテンポで写し取っていく、
そのリズムが僕のリズムに合っていたのも好印象の原因の一つかもしれませ
ん。
 ただ、ホテルのオーナー夫婦の人が良すぎる所、ヒロインを主要登場人物全
員に絡ませようとして余り意味の無いシーンを作ってしまったのには多少、引っ
掛かりが残りました。
(一番キャラクター彫り込みの浅い学生さんにヒロインを絡ませたのは、単にノ
ルマとしか感じなかった)

 可愛くて健気、でも人を破滅させる毒も併せ持つ複雑なヒロイン、ルネをアナ
ベラが好演。
 でも僕は、押しつぶされそうな不安と焦躁を抱え、日々荒んでいく中年娼婦の
やるせなさや、揺れる情感を的確に演じきったアルレッティの方が印象に残り
ました。
 ルイ・ジューヴェの演じたエドモンは、この作品で一番の儲け役。どん詰まりの
閉塞感の中、アテもなくもがき続けてる前半からルネを知り新しい希望を見出す
中盤、そして自らの負債の清算と出口を出る為に「一人の男」に戻る終盤、と段
々、格好良くなっていきます。
 ちょっとしたボギーの「雛型」で、ルネとの最後の会話が、
 「俺にはマルセイユの思い出がある(俺達にはパリの思い出がある)」でも違
和感が無かった。(笑)
 他の脇役達も全員、持ち味を出していて、素晴らしいセットと共にパリの下町
を充分に感じさせてくれました。
 (このオープン・セットは特筆もので、とてもセットには思えない驚愕の出来栄
え)

 フランス映画の秀作だと思います。

※カルネ監督とは、何となく相性が良さそうなので、今年中に観る予定だった「天
 井桟敷の人々」が楽しみになりました。
※まるっきり無視してしまったジャン=ピエール・オーモン。
 「アメリカの夜」で監督から「死ぬ役でスマンね」と言われ、
 「殺されたのが何回、自殺が何回」とか言ってたけど、確か「自殺未遂」も有っ
 たような気が。(←自殺未遂はありませんでした~5.31PM確認)
 横顔に面影が有って、何か嬉しくなってしまいました。(タイムマシンで40年前
 へ行った気分~笑)
 
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2 コメント

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こんにちは☆ (miri)
2013-05-31 15:04:01
>フランス映画の秀作だと思います。

とっても嬉しいです~☆ 
この作品大好きなんですよ~♪
秀作・・・なのでしょうね~!
私的には自分の(今作りつつある)ベスト10に入っています。

>カルネ監督の人間描写が、しっかりしていて手抜きが無い、自分が作り出した人物達への愛情が感じられます。

仰るとおりですね~。
脚本ですけど、台詞の人が共同で作ったとか(DVDの特典映像で)見たような気がします。
ネットではお一人になっているけど、たしかご本人がそう言っていらしたと思います☆

> (このオープン・セットは特筆もので、とてもセットには思えない驚愕の出来栄え)

特に最後のシーンが好きです☆
あの頃、あのあたりに、あの橋と、あのホテルがあったように思いますね~♪

>※まるっきり無視してしまったジャン=ピエール・オーモン。

ほとんど刑務所では(笑)。
それにルイ・ジュ―ヴェが良過ぎるので・・・。
「アメリカの夜」とかに出ていらしたのは知りませんでした。

>可愛くて健気、でも人を破滅させる毒も併せ持つ複雑なヒロイン、ルネをアナベラが好演。
>日々荒んでいく中年娼婦のやるせなさや、揺れる情感を的確に演じきったアルレッティ
>ルイ・ジューヴェの演じたエドモンは、この作品で一番の儲け役。

3人については詳しく書いて頂いて、目に浮かびます。
私は初見時は若かったのでルネ、再見時はエドモン、そしてだんだんレイモンドに惹かれるようになりました。
今後も変わるかも~?

>ただ、ホテルのオーナー夫婦の人が良すぎる所、
>ヒロインを主要登場人物全員に絡ませようとして・・・

その他の人々も、それぞれ良かったし、たしかに甘い面もありましたね~。

>※カルネ監督とは、何となく相性が良さそうなので、今年中に観る予定だった「天井桟敷の人々」が楽しみになりました。

カルネ監督は作品数が多くはないですけど、その中で良い作品が多いように思います。
なんじゃこりゃ?というのもありましたけどね~(笑)。

それでも亡命しなかった、というだけで、ひたすら「すごい!」と、尊敬しています。
(亡命した監督さんたちを尊敬していないというわけではないです)

いつかまた記事を更新する事になったら、カルネ監督のことも書きたいです!

私の今の記事は感想だけですし、ネットで調べてもあんまりこの映画の記事を書いている人は多くなくて、
今回、鉦鼓亭さんがこの記事を書いてくださり、本当に嬉しかったです!
ありがとうございました☆
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いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2013-05-31 23:43:43
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます

フランス映画というイメージにピッタリな作品でした。

脚本ですけど、台詞の人が共同で作った>
ハリウッドや欧州は台詞書き専門の人達が居るんですよね、そういう人達とガチャガチャやりながら脚本を作っていったんでしょうね。
(公にはならないけど、昔の映画の洒落た台詞、名台詞、かなり、こういう人達が創っていたんだと思います)

あの頃、あのあたりに、あの橋と、あのホテルがあったように思いますね>本当に素晴らしいセットでした。
何かの奇跡でフランスへ行く事が有ったら、実在の「Hotel du Nord」でランチを食べてみたい。(笑)
サン・マルタン運河には、映画のような太鼓橋も掛かってるみたいですね。

ジャン=ピエール・オーモン「アメリカの夜」>主要キャストの一人でしたよ。
製作中の映画「パメラを紹介します」の中で、息子の嫁(J・ビセット)と駆け落ちして息子(J=ピエール・レオ)に撃ち殺される役。
40年後も渋い二枚目でした。
通常は若い頃の面影を老年の顔から探すのですが、今回は逆で、返って、それが新鮮でした。(笑)

ホテルのオーナー夫婦>商売やってるせいでしょうね。
ベットの上で拳銃自殺されたら、血でシーツやマットが使えなくなり、かなりの損害を蒙る訳で、それを何も言わず不問に付す、というのは・・・。
(雇う、雇わない、は別の話だと思います)
柴又「とらや」のおばちゃんだって、そこの所は怒ると思いますよ。(笑)

カルネ監督>「嘆きのテレーズ」、「舞踏会の手帳」、「天井桟敷の人々」は押さえとかなきゃいけないのですが、取敢えず、今年は「天井桟敷の人々」を観るつもりでいます。

この映画の記事を書いている人は多くなくて>今日、他の方のレビューを探したのですが、確かに、ほんの数人でした。

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