セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「オペラ座の怪人」

2013-12-16 00:54:54 | 外国映画
 「オペラ座の怪人」(「The Phantom of the Opera」・2004年・米)
   監督 ジョエル・シュマッカー
   原作 ガストン・ルルー
   脚本 ジョエル・シュマッカー  アンドリュー・ロイド・ウェバー
   撮影 ジョン・マシーソン
   作曲 アンドリュー・ロイド・ウェバー
   衣装 アレクサンドラ・ビルヌ
   出演 ジェラルド・バトラー
       エミー・ロッサム
       パトリック・ウィルソン

 小説でもない、演劇でもない、まさしく映画だからこその味わい。
 素晴らしいミュージカル映画でした。

 冒頭、プロローグから本編への移行。
 リアリズムから離れていても、一気に「夢の世界」へ誘う映画としてのリアリ
ティの強さ、華麗さ。
 見事でした。
 「オペラ」という外連味たっぷりの題材を軸にした事で、殆どオペラ座という
建物の中だけで展開される話に、これ以上ない装飾を与えています。
 それが有名な「オペラ座の怪人」のナンバーを歌いながら地下の巣窟へ向
かうシーンでの「作り物感」に、「オペラの舞台装置」的雰囲気を与え違和感
を中和しています。
 普通にやったら、あれディズニーのアトラクション施設ですよ。(笑)
 終盤の「ポイント・オブ・ノー・リターン」、ファントムとクリスティーヌが二つの
螺旋階段をそれぞれ上っていくシーンにカット・インされるバックダンサー達
の踊り。
 ここの視覚効果は絶妙と言うしかない、見事でした。
 群舞で最大の見せ所「マスカレード」
 作品中、ここが一番舞台を感じさせるシーンですが、映画は、それに抗う
ように中へ入ってカメラを振り回します。
 ここは、ちょっとやり過ぎでしょう(笑)、人によっては「酔ってしまう」かも。
 それでも、出来るだけ色彩を単純化し、コントラストに重点を置いた設計が
生きていて、優れたナンバーと共に非常に印象的で良かったです。
 (イメージとして「マイ・フェア・レディ」の「アスコット・ガヴォット」に似てるけれ
ど、遥かにダイナミックで華麗だと思います)
 ラスト、モノクロ画面の中で赤く色づくバラの花、時の流れの中で全てが枯
れていっても、二人の男の愛だけは枯れていない、という事なのでしょうか。
 非道極まりない殺人鬼ですけど、誰からも愛された事のない生涯と、その
胸に仕舞い込んだ「想い」を考える時、哀しみを感じざろうえませんでした。

 年頭に観た「レ・ミゼラブル」も良かったけれど、「オペラ座の怪人」、「オー
ル・アイ・アスク・オブ・ユー」、「マスカレード」、「ポイント・オブ・ノー・リターン」
と印象に残るナンバーが沢山有る分、「オペラ座の怪人」の方が個人的には
好きです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 「ミュージカル」に付いての個人的所見
 歴史を遡れば、
 ・MGMに代表される壮大、華麗がウリだった頃からの流れ、F・アステア、
G・ケリーらスターの歌とステップ、踊りを楽しんでた時代、ダンスシーンが主
で物語が従。
 ・1960年代の歌と物語が対等だった時代。
 ・1970年代からのロック・テイスト、ロックを聴かせるミュージカル。
 ・M・ジャクソン以降、再び物語よりも「ダンスを魅せる」時代、ミュージック・
クリップの発展系。
 大雑把に分けると、こんな感じでしょうか。
 ミュージカルというジャンルの欠点は歌・ダンスが入る分、どうしても人物
の描写・行動を複雑に出来ず、類型的になってしまう所に有ると思います。
 (その分、他のジャンルより楽しく観られる長所が有る~例え悲劇でも)
 それは、僕が‘60年代の「ウエストサイド物語」、「サウンド・オブ・ミュージ
ック」、「マイ・フェア・レディ」に影響を受けて育ったからかもしれません、僕
の基本は、この3作品なんです。
 夢のようなMGM全盛期映画が、不幸かもしれないけど僕の立ち位置に
ならなかった。

 本作のクリスティーヌの場合も、イマイチ性格が鮮明じゃない。
 このヒロインの役割は、錯覚と愛情の間で揺れる「風にそよぐ葦」
 ミュージカルの宿命か、役割の為の性格描写みたいで浅いけれど、吹く
風に揺れながらも自分の正直な気持ちを育て芯有るものにし、少しずつ強
くなっていくヒロインを精一杯演じてたと思うし、ミュージカルのヒロインなら
充分に合格だと思います。

 人物描写とミュージカルの融合>個人的に、一番理想に近いのは「サウ
ンド・オブ・ミュージック」かな。
 それでも、この二つの理想的融合というのは、「水と油」のように不可能
の領域だと思っています。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ン十年振りに大好きなミュージカル映画に出会えました。
 推薦して下さった匿名の方、企画開催してくれた宵乃さんに、心から御礼
を申し上げます。 
 ありがとうございました。
 
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9 コメント

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Unknown (宵乃)
2013-12-16 10:12:28
>本作のクリスティーヌの場合も、イマイチ性格が鮮明じゃない。
>少しずつ強くなっていくヒロインを精一杯演じてた

ホントそうですよね~。私は初見では彼女の気持ちが全くわからず、ただの尻軽女だと思ってたくらいで…(笑)
彼女の”単純で素直な性質を培った環境”と、”音楽の天使”をどれだけ慕い信頼していたかを想像で補って、やっとファントムに誘われてふらふらついて行っちゃうのも納得できました。
そんな彼女がファントムに”愛”を教えるくだりは、大きな成長を感じられて感慨深いです。

>普通にやったら、あれディズニーのアトラクション施設ですよ。(笑)

スミマセン、ディズニー連想しちゃいました。
ろうそくが水中からにゅーっと出てくるところとか、ファントムの暇人っぷりが垣間見えてちょっと笑ってしまったり。
でも、このシーンの楽曲はヘビメタ?で面白かったですね。どうもわたしはオペラやバレエなどのクラシックな芸術が苦手で。

>ン十年振りに大好きなミュージカル映画に出会えました。

鉦鼓亭さんにとって素晴らしい出会いの場になって、わたしも嬉しいです。リクエストしてくれた方もきっと喜んでますよ~。
今回もご参加ありがとうございました♪
返信する
こんばんは (きみやす)
2013-12-17 19:58:26
>リアリズムから離れていても、一気に「夢の世界」へ誘う映画としてのリアリティの強さ、華麗さ。
>見事でした。

ですね~。あそこの見せ方は何回見ても凄いと思ってしまいました。

> 人物描写とミュージカルの融合>個人的に、一番理想に近いのは「サウンド・オブ・ミュージック」かな。
> それでも、この二つの理想的融合というのは、「水と油」のように不可能の領域だと思っています。

なるほど・・・ミュージカルのパフォーマンスの高さと
人物描写に費やす時間を両立させることは難しいでしょうし
・・・普通に会話をしている人間が、いきなり歌い踊る
というものはやはり映画のリアリティをどこかで下げてしまう危険性を孕んでるかもしれませんね。

また、色々と勉強になりました。
ありがとうございました。
返信する
Unknown (鉦鼓亭)
2013-12-17 23:46:24
 宵乃さん、メールありがとうございます

昨日、ちょっと体調不良だったもので、返事が遅くなりました。

ただの尻軽女だと思ってたくらいで…(笑)>
クライマックスへの導入部、舞台上で二人が歌う「ポイント・オブ・ノー・リターン」のシーン。
クリスティーヌは明らかにファントムに「罠」を掛けてますね、釣り針の餌は自分。
あの時の彼女には、最早、ファントムへの「哀れみ」しか感情はなかったと思います。
(覚悟も希望も全てラウルの為)
最後のキスは宵乃さんの仰るように、「真実の愛と優しさ」をファントムに教えたかったんでしょうね。
成長>人を愛した事で大人になったという事ですね。

ディズニー連想しちゃいました>ですよね!(笑)
もう10年以上行ってないから新しいのは知らないけど、「カリブの海賊」を思い出しました。

朗々と歌い上げるタイプは苦手ですか・・・、僕は、どちらかと言うとロック系が苦手。(笑)

企画のお陰で、大好きな作品に出会えました。
ひたすら感謝です!
返信する
ようこそ! (鉦鼓亭)
2013-12-18 00:10:39
 きみやすさん、コメントありがとうございます

あそこの見せ方は何回見ても凄いと>鮮やかでした!
「静」から「動」へ、一気に引き込まれる演出だったと思います。

「キャバレー」なんか、かなり人間を掘り下げてるけど、その分、ナンバーが少ないし、掘り下げてる分、暗くなって余り楽しくない。(笑)
一応、ジャンルはミュージカルだろうけど、ミュージカルとしての印象は薄いんですよね。
でも「退廃美」と「雰囲気」はバッチリ。

色々と勉強になりました>いや、そんなこと。
これ、個人の主観なので、違う意見、見方が、それこそ人数分あると思いますよ。
(これからもミュージカル作品を書く事が有るかもしれないので、自分の立ち位置を書いてみたんです)
理屈っぽい事書きましたが、本当は理屈が大の苦手人間なんです。(汗)
返信する
追伸 (鉦鼓亭)
2013-12-18 00:17:11
宵乃さん、きみやすさん。

まだ体調が完全でないので(殆ど大丈夫なのですが、大事をとって)、
ブログへお邪魔するのは明日にさせて下さい。
すいません。
返信する
Unknown (take51)
2013-12-18 22:33:29
こんばんは!
オペラ座の怪人が大好きなtake51と申します(笑)

>終盤の「ポイント・オブ・ノー・リターン」、ファントムとクリスティーヌが二つの
>-螺旋階段をそれぞれ上っていくシーンにカット・インされるバックダンサー達の踊り。

この螺旋階段を上がってる時のクリスティーヌも好きなシーンの一つです!
顎を出しながら歌う時の声など痺れます!!
バックダンサーの踊りも素敵ですよね!!

>群舞で最大の見せ所「マスカレード」

なんちゃってなホームシアターにしてますが、この曲を
カッコ良く鳴らすことが僕の目標でもあるくらいお気に入りのシーンです。
確かにカメラワークはやり過ぎなところもありますが・・(笑)
音楽だけでなく、視覚的にも見ごたえがありますよね!
クリスティーヌとラウルのダンスを面白くなさそうにしてるカルロッタが可愛いです!!(^.^)

>ラスト、モノクロ画面の中で赤く色づくバラの花、時の流れの中で全てが枯
>れていっても、二人の男の愛だけは枯れていない、という事なのでしょうか。

なるほどですね・・。このシーンを深く考えたことがありませんでした。
何か意図のある演出なんでしょうね。。じっくり考えてみたいと思います!!

体調は如何でしょう?よくなったでしょうか??
僕も風邪気味ですが、年末を無事に乗り切りたいですね!!
それでは!!(^^)
返信する
Unknown (鉦鼓亭)
2013-12-19 00:12:38
 take51さん、こんばんは
 はじめまして!鉦鼓亭といいます。

ちょっと嵌りました。
今日、何回「オペラ座の怪人」の曲が頭の中で流れたのか。(笑)

この螺旋階段を上がってる時のクリスティーヌも好きなシーンの一つです!>
このシーンと「オペラ座の怪人」を歌いながら二人が地下へ降りてくシーンが特に好きです。
(この二つのシーン、4回観ました~「顎」には気付かなかった)

「マスカレード」>
記事ではイチャモン(笑)つけてますが、華麗で非常に印象に残る大好きなシーンです。
DVD返す前に、もう1回は必ず観ます。
(残念ながら、ウチは滅茶苦茶貧弱な環境で見てるので羨ましいです、昔は、それなりのオーディオ設備を持ってたのですが・・)

カルロッタ>最初はアレなんですけど、段々、可愛くなってきて。(笑)

「オペラ座の怪人」>大好きなミュージカル映画の4本目になりました(楽曲と装置が特に良かったです)。

風邪の方は治ったみたいですけど、口の中にバイ菌が入ったらしく膿んできたので、明日、病院へ切開しに行ってきます。
take51さんも、くれぐれもお大事に(年末は特に慌しいですから)。

これからも宜しくお願い致します。
(そちらへのコメントは明日にさせて下さい、今晩までは一応「夜更かし禁止」(笑))。
返信する
Unknown (マミイ)
2013-12-21 21:11:37
鉦鼓亭さん、こんばんは。

>一気に「夢の世界」へ誘う映画としてのリアリティの強さ、華麗さ。
私もこのシーンが大好きです。
映画のオープニングとしてはマイベストの1位か2位を争うくらい好きかもしれません。

>普通にやったら、あれディズニーのアトラクション施設ですよ。(笑)
あはは!あれ全部、ファントムさんが手作りしたのかなぁと思いながら観てました。笑

>本作のクリスティーヌの場合も、イマイチ性格が鮮明じゃない。
何度か観ているんですが、
私はクリスティーヌとラウルの顔が全然覚えられないんですよ。
性格が鮮明でないから彼女の人となりが理解しづらく、
記憶にとどまりにくいにくいのかなぁと
鉦鼓亭さんの記事を読んで思いました。
返信する
Unknown (鉦鼓亭)
2013-12-22 11:35:53
 マミイさん、こんにちは
 コメントありがとうございます

映画のオープニングとしてはマイベストの1位か2位を争うくらい>
以前、名ラストシーンという記事を書いた時、オープニングも書こうかと思ったのですが、
こっちの方は、直ぐ浮かんでこないんですよね、考えて幾つか候補を思いついたのですが、
2,3日したら忘れてた。(笑)
でも、このオープニング、僕もベスト10に入れるかもしれません、それくらい良かったです。

クリスティーヌとラウルの顔が全然覚えられないんですよ。>
クリスティーヌはともかく、ラウルさん、結構、記憶に残ってます。
男優って、最近、全然覚えられないのに。
僕、顔を覚えるのが昔から苦手で、それで商売何度も失敗してるんですけど、
この映画サイト始めて、少し自信が付きました。(笑)

やっぱり、美男美女でも特徴の少ない普通の顔は覚えにくいですよね。
N・キッドマンよりC・ディアスの方が覚えやすい。
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