セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「駅馬車」

2013-02-19 00:06:38 | 外国映画
 「え!この映画観てないの!?」
 映画ブログを書いていながら、そういう作品が実に一杯ありまして・・・。(汗)
 そんな状況をちょっとだけ反省、今年はそんな作品を少しでも潰していく年
にしました。
 「とても言えない、観てない」シリーズ、今年6本目がコレでした。(大汗)

 「駅馬車」(「Stagecoach」1939年・米)
   監督 ジョン・フォード
   脚本 ダドリー・ニコルズ
   撮影 バート・グレノン  レイ・ビンガー
   音楽 ボリス・モロース
   出演 クレア・トレヴァー
       ジョン・ウェイン
       トーマス・ミッチェル
       ジョン・キャラダイン ルイーズ・プラット

 この作品、1950年代までなら傑作、現代の目で観ても当たり前の事ですが
名作でした。
 人間達が実に良く描けてる。
 確かにアクションシーンであるインディアン襲撃時のスピード感は、今観ても
感嘆すべきモノがありますが、「駅馬車」という映画の本質から見れば、後のリ
ンゴ・キッドとプルマー三兄弟の決闘と同じく味付けに過ぎないんじゃないでしょ
うか。
 この映画の面白さの本質は乗客である、お尋ね者、酔いどれ医者、博打打ち、
娼婦、身重の大尉夫人、行商人、銀行家とプラス御者、保安官それぞれの個性
であり、その人達が駅馬車や駅亭という凝縮された空間で展開し絡み合っていく
人間模様(ドラマ)にあると思います。
 それが出来たのは9人の人間達を、簡潔でありながらも丁寧に描いているから。
 この辺は「七人の侍」の面白さと共通するものがあると思います。
 酒に目のないアル中の医者が鼻持ちならない銀行家に「一緒に飲もう」と言わ
れた時、手に持っていたグラスの酒を暖炉に投げ捨てる所、身を挺して他人の
赤ん坊をインディアンの攻撃から守っている娼婦、殺された渡し守の夫人に羽織
っていたマントを掛ける博打打ち、さり気ないワンカットでその人の本質を描いて
います。
 本当に上手いと思いました。
 
 また、物語を語るテンポがいいんでよ。
 「或る夜の出来事」の時に感じた心地よいリズム感と共通するものが有りました。
 サイレントを多く撮ってきた監督というのは、トーキー初期でもサイレントのリズム
感を大事にしていたんでしょうね。
 そんな気がしました。

 役者陣は一人を除いて皆素晴らしい演技でしたが、特に酔いどれ医者のT・ミッ
チェル、娼婦のC・トレヴァー、南部貴族の成れの果て(博打打ち)J・キャラダイン
が光ってました。
 好みを言えばプライド高い大尉夫人のL・プラットが好き。(笑~相当な天然悪女
かも)
 主役のJ・ウェインは、記念すべきJ・フォード作品の主演第一作で流石の存在感
を示していますが、演技的にはまだまだで見事な大根振りを披露しています。
 でも、大スターの原石を見ている思いは痛切に感じました。
 小心物の御者も庶民の行商人も愛すべき人達、堂々の憎まれ役だった銀行家、
そして粋な保安官、皆、言う事なしです。

 そんな「傑作」と言うべき作品を「名作」としてしまうのは、やっぱり今が21世紀で
あるから。
 これを言うのは「野暮」だと頭では解っているのですが、1970年代を生きてきた
自分には、どうしても単純なインディアン=悪人というのは条件反射のように心の何
処かで反応してしまうんですね。
 子供の頃にワンコイン・ゲームで遊んだ射的ゲーム、射的の的のように撃たれる
インディアン。
 あのシーンの数々は、子供の頃のように、やっぱり単純には楽しめない。
 これは監督の責任ではないのですが、時代が判決を下したという事だと思います。

 「とても言えない、観てない」シリーズで6本観てきた感想は、「後世に名を残す作
品には、みんな、それだけの理由があった」。(あくまで、今の所~笑)
 この作品は、その6本の中でも一番面白かったです。
 今迄、僕の西部劇№1は「リオ・ブラボー」でしたが、本作がとって変わりました。


※200年前、アメリカもフランスも、日本と同じくロクなもの食べてなかったんだね。
※大尉夫人がとても臨月には見えません。(笑)
※キッドとプルマーの決闘シーン、光と影の使い方が秀逸。
※銀行家の奥さん、「肉買うから5$頂戴」って、凄い浪費家。(今なら、多分5万
 円くらい?)
※これも「野暮の極み」なんだけど、フォードさん「お金」に無頓着。(笑)
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6 コメント

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大丈夫! (宵乃)
2013-02-19 07:26:33
「駅馬車」はわたしも観てません!
やはり西部劇では先住民の描き方で引っかかったりしますよね~。まあ、時代の移り変わりを感じられるという点では感慨深いですが。
でも、それを差し引いても名作と呼べるくらい楽しめるなんてさすが。いつか機会があったら観たいです。

>銀行家の奥さん、「肉買うから5$頂戴」って、凄い浪費家。(今なら、多分5万円くらい?)

これは贅沢ですね~。きっと高級な部位しか知らないんだろうなぁ。うらやましい(じゅるり…)
返信する
miri (コメントを有難うございました☆)
2013-02-19 14:06:34
>「え!この映画観てないの!?」
>映画ブログを書いていながら、そういう作品が実に一杯ありまして・・・。(汗)

誰にでもあると思いますよ~(笑)。

>人間達が実に良く描けてる。
>また、物語を語るテンポがいいんですよ。

詳細は忘れてしまったのですが、たしかに初見時は初見時なりに、
再見時は再見時なりに、仰るような作品だったと思います☆

>そんな「傑作」と言うべき作品を「名作」としてしまうのは、やっぱり今が21世紀であるから。

う~ん、私が初見した頃も「名作」だったと思います。。。
日曜洋画劇場だったので、かなり淀川さんに
刷り込まれているって分かっているんですけどね~(笑)。

>どうしても単純なインディアン=悪人というのは条件反射のように心の何処かで反応してしまうんですね。

そうですか・・・私は子供をもってから、そういう事は全然変わってしまいました。
何という残酷な育ち方をしてきたのだろう・・・と、
昔の西部劇・マカロニを見て、そんな風に思い、泣ける事が多いです。
でも、日本人ですから、言えば「関係ない」ので、アメリカの主婦さんはもっと辛いかと思います。

>この作品は、その5本の中でも一番面白かったです。
>今迄、僕の西部劇№1は「リオ・ブラボー」でしたが、本作がとって変わりました。

良かったですね!
・・・そのシリーズ全部はアップされないのですか?
簡単なひと言感想とかの記事ではアップなさらないのでしょうね???
もしアップされたら・・・楽しみにしています!
(万一「駅馬車」もう一度見る事があったら、またお話ししましょうネ~)
返信する
深く静かに潜行していく予定だったのに(笑) (鉦鼓亭)
2013-02-19 23:15:25
 宵乃さん、こんばんは
 コメントありがとうございます

結構、突っ込み所はありますが、面白かったです!
9人が良く描けてると書きましたが、大尉夫人だけは、かなりミステリアスな性格でした。(笑)

「肉買うから5$頂戴」>確かに(じゅるり・・・)なんですが(笑)、
この台詞一つで銀行家の家庭がどのようなもので、その内実も窺い知れるんですよね、いい台詞だったと思います。
よく解らないけど、ウィスキー一杯が10セントか20セントの時代なんじゃないかな。

機会が有りましたら、お薦めします。
返信する
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2013-02-19 23:49:09
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます


誰にでもあると>そうなんですけど、「駅馬車」みたいな基本中の基本を外してるのが、かなり有るんです。

「駅馬車」とチャップリンは淀川さんの金看板。(笑)

J・フォードを、この世で一番敬愛していた黒澤監督。
この映画の人物の描き分け方が「七人の侍」の参考になってるのが良く解りました。
「酔いどれ天使」、「用心棒」にも、この作品の影響があると思います。

「カルメン故郷に帰る」、「   」、「イースター・パレード」、「バンド・ワゴン」、「駅馬車」と観てきましたが、流石に2本目のタイトルは恥ずかしくて言えません。(笑)
そういえば「ヘッドライト」も男用の佳作だったから、「駅馬車」は6本目ですね。
「ここを書きたい」のような突破口が有ると文章が進むんですが、漠然と書いていくのは苦手で直ぐ行き止まりになっちゃうんですよ。
でも、一行コメントならば、半年分まとめて書くかもしれません。
(こっそり「   」は抜かして~笑)

もう一度見る事があったら>その時はヨロシク!
返信する
面白かったです! (宵乃)
2015-09-17 16:13:53
>さり気ないワンカットでその人の本質を描いています。

ホントその通りでしたね~。言葉で説明しないで映像で伝える手腕がお見事でした。
まあ、最近は説明過多に慣れてきて、説明してもらわないとよくわからないところもありますが…。
ダラスがあんなにハブられてるのは、性病でももってるのかと途中まで思ってました(汗)

インディアンの描写については、「またやってるな~」とは思ったものの、今回はそれで冷めるということはなかったです。ちょっとぼけっとしてる時に観たのが逆によかったのかも。
allcinemaのコメントに撮影の裏話があって、ジョン・フォード自身は差別主義者とはまったく真逆の人だったようでホッとしました。
さすが名作と言われるだけのことはある作品でしたね~。
返信する
今観ても、凄く面白いですよね! (鉦鼓亭)
2015-09-17 23:08:47
 宵乃さん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

言葉で説明しないで映像で伝える手腕がお見事でした。
>100分くらいの短い作品で主要人物が9人も居るのに、しっかり描き分けられて一切混乱をきたさない(大尉夫人はミステリアスだけど)、凄い事だと思います。

性病でももってるのかと途中まで思ってました
>確か当時「清風運動」(宗教的要素あり)みたいのが盛んになりだした頃だったんじゃないでしょうか。
狭い町で「売れっ子の酒場女(半分、娼婦)」は女性の敵で、それに教会がくっ付けば・・・。

インディアンの描写については
>僕は結構、正邪に縛られないで観る方だと思ってるのですが、インディアンに関してだけはニュー・シネマ世代の影響を強く受けていて生理的に反発してしまうんです。(汗)

差別主義者とはまったく真逆の人だったようでホッとしました
>戦後は単純な「インディアンは敵」みたいな作品は作らなかったように聞いてます。
撮影地の部族にも、いろいろ援助してたとか。

さすが名作と言われるだけのことはある作品でしたね~。
>本当にそう思います。
若い時、インディアン バタバタに反発しないで、ちゃんとスクリーンで観ておけば良かったと後悔しています。

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