クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

お種さんの資料館はどこにある? ―羽生文学散歩(14)―

2016年09月06日 | ブンガク部屋
“お種さんの資料館”は羽生市弥勒にある。
円照寺というお寺内にそれは建っている。

知る人ぞ知る資料館だろう。
羽生市民でも、その資料館を知っていて、
かつ実際に足を運んだ人はどのくらいいるだろうか……

我々一行は発戸を離れ、お種さん資料館へ。
田園風景や道端に咲く紫陽花を眺めながら弥勒へ向かった。

お種さんとは誰か?
小説『田舎教師』に登場する小料理屋の娘だ。
お種さんは次のように登場する。

 この時、清三は其処に立っている娘の色白の顔を見た。
娘は携えて来た弁当を其処に置いて、急に明るくなった一室を眩しそうに見渡した。
(三章)

このあとすぐに、お種さんの人物描写になる。
「評判な美しさというほどでもない」と田山花袋は書く。
そう、とびきりの美人ではない。
が、お種さんは眉のところに人に好かれるような艶があったらしい。
また、ふっくらとした感じの娘だったのか、
頬や腕に豊かな肉付きが見えた、と花袋は描写している。

お種さんにも実在のモデルがいる。
それは“小川ネン”。
料理屋「小川屋」の娘であり、
小説に登場するように弥勒高等小学校へ弁当を届けていた。

お種さんは、『田舎教師』の内容に大きく関わってくるわけではない。
主人公に葛藤を与えるわけではないし、
教え子というわけでもない。

しかし、お種さんには妙な魅力がある。
小説にほんのわずかしか登場しないのに、
「お種さんの資料館」が建っているくらいだ。
田山花袋も彼女に好感を持っていたのだろう。
小説の終わりの方に、お種さんのその後について触れている(五十七章)。
ただ、これは史実とは異なるようだ。

生前のお種さんを知る人は、「とても優しいおばあちゃんだった」と言う。
お種さんを語るときの目は和やかだ。
優しく包み込むような人だったのかもしれない。

お種さん資料館は、その名のとおり小川ネンさんゆかりのものが展示されている。
展示点数が多いわけではない。
小さな一室であり、有志によって構成された展示といった感じ。
小川屋で使用されていたという食器なども展示されている。

最初に触れたが、お種さん資料館は公共施設というわけではない。
お寺の境内にある。
見学する際は、お寺のご迷惑にならないようにしましょう。
なお、小川ネンさんは同寺に眠っている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする