クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

ボタンを押すと“たなばたさま”が流れる橋は? ―豊野橋―

2016年07月03日 | 利根川・荒川の部屋
もうすぐ七夕。
旧大利根町(現加須市)には、
渡ると「たなばたさま」の曲が流れる橋がある。

それは豊野橋。
中川に架かる小さな橋だ。

これは大利根町出身の音楽家“下総皖一”にちなんで架けられた橋。
下総皖一(しもふさかんいち)は「たなばたさま」をはじめ、
「野菊」や「ゆうやけこやけ」など数多くの童謡を手がけた人物として知られている。
豊野橋に「たなばたさま」を流れるようにしたのは、
町のイメージアップを図るための企画だったという。

この“メロディ橋”はいつ頃架けられたのだろう。
実は、20年以上前にぼくはこの橋に出会っている。
同級生と自転車を走らせて、
偶然ぶつかったのが豊野橋だった。

橋にボタンが付いている。
その横にはメロディ橋の説明。
ボタンを押すと「たなばたさま」が流れ始める。
高校一年生のテンションを上げるのにメロディ橋の仕掛けは十分だった。

どんな道筋で豊野橋に辿り着いたのかは定かではない。
どう帰ったのかも覚えていない。
ただ、メロディ橋の記憶だけはずっと残っていた。
1994年のこと。
少なくとも1994年当時にメロディ橋は存在していたということだ。

メロディ橋のボタンはあの頃と変わらないように思える。
その音色や、橋の下を通る中川の流れも……。

あの頃一緒に豊野橋に辿り着いた同級生は結婚し、
ウエディングドレス姿の写真が年賀状と共に届いた。
15歳のときのような好奇心はすでに失われているのかもしれない。
景色は変わらずとも、あの頃の光景とは大きな隔たりがあるのだろう。
それは自分自身との距離とも言える。
豊野橋に流れる「たなばたさま」は、少しの切なさをもって、
いまも心をくすぐり続けている。


豊野橋とボタン(埼玉県加須市)






中川
コメント
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