久しぶりに俳句誌を買った。
「特集 渥美清の俳句」という見出しに惹かれて。
初めて知った。フーテンの寅さんが、お洒落な俳号で、こんなにも格調高い俳句を詠んでいたなんて。
渥美清は私生活を、全く明かさない人だったらしい。
フーテンの寅さんとは丸で違う、素の渥美清は、その才能豊かな俳句に投影されているのかもしれない。
「風天」という俳号で、句会にも入会されていたという。
けれど、世間が知るのは、没後、森英介氏が、三年の月日をかけ、「風天」の句を集め句集「赤とんぼ」を出版してから。
当時は、渥美清の知名度もあってか句集では、珍しくベストセラーになったという。
尾崎放哉、種田山頭火がお好きだったようで、その影響なのか破調の句が多い。
本名の田所康雄と、渥美清をきっちりと区別していたというが、俳句には時として「寅さん」も垣間見られるのである。
著名人のエッセイや、俳人の鑑賞、の中にあげられている俳句と「赤とんぼ」の中の沢山の句から、一部、ここに書かせていただく。
初めての句会で第3位となった、デビュー作
春場所の子供の声や日の暮れて
外套の肩のこりや上野駅
冬の蚊も愛おしく長く病み
蛤鍋の湯気たちはじめ牡丹雪
明るく振る舞いながら、どこか淋しく陰りのある句が多く、とても深い。
いみもなくふきげんな顔してみる三が日
いつも何か探しているようだナひばり
土筆これからどうするひとりぽつんと
ようだい悪くなり苺まくらもと
蟹悪さしたように生き
赤とんぼじっとしたまま明日どうする
コスモスひょろりふたおやもういない
ひとり遊びなれし子のシャボン玉
陽炎の向こうバスのゆれてゆき
渡り鳥なにを話しどこへ行く
テレビ消しひとりだった大みそか
そして、寅さんを彷彿とさせるこの句。
さくら幸せにナッテオクレヨ寅次郎
さくらんぼプッと吹き出しあとさみし
村の子がくれた林檎ひとつ旅いそぐ
私が好きな句。今現在のコロナ禍の中にも共通する思い。こんな気持ちになる時もあるから。
霜ふんでマスクの中で唄うたう
蓑虫こともなげにいきてるふう