行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

何度出しても掲載されなかったボツ原稿

2015-07-16 01:53:44 | 日記
私が退職するきっかけとなった特ダネ原稿は、月刊『文藝春秋』(2015年8月号)で発表の機会を与えられたが、もう1本のボツ原稿がある。昨年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)北京会議で、「世界最大の発展途上国」を口実に国際責任を回避する姿勢を改め、「大国の責任」を明確に打ち出しことをとらえたものだった。今後中国に求められるのはソフトパワーであり、米国の協力が不可欠になるとする内容だった。歴史の潮目をとらえた的確な素材の選択だと判断した。

だが、中国関連は領土や軍事など脅威を指摘する記事は優先的に掲載されるが、じっくり分析するようなタイプの記事は、「中国に肩入れし過ぎている」などと敬遠される傾向が強い。いったんは組日が決まったものの、突然、中国脅威論を煽るような原稿に差し替えられるなど、不運な運命をたどった。一面的な報道は読者の目を曇らせ、判断を誤らせる。新聞としてあってはならないことである。

昨年から計3回にわたり書き直し、出稿を試みたが、最後まで十分な理由を示されないまま、墓場行きとなった。解説面の責任者に退職を報告するメールの中で「残念だ」と伝えたが、何の返事もなかった。未掲載原稿を「成仏」させるため、この場をお借りして採録したい。

中国の「大国外交」 ソフトパワーの責任(2015年3月16日執筆)

中国政府は5~15日まで北京で開催された全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で、世界第2位の経済力を背景に「大国の責任」を繰り返し強調した。今後は軍事力を柱とするハードパワーでなく、文化や価値観など他国に受け入れられる包容力あるソフトパワーの構築が試される。(編集委員 加藤隆則)

李克強首相は全人代に提出した政府活動報告で「中国は責任ある国、果敢に責任を担う国である。我々は互恵・ウインウインに基づく発展の理念の実践者、世界経済体系の建設者、経済グローバル化の推進者を務めていく所存である」の明言し、閉幕後の記者会見では「中国はますます多くの国際的責任と義務を背負っている」と胸を張った。

同記者会見では経済改革や環境保護などの国内問題を外国メディアに、米中関係を中国メディアに質問させ、国際化する中国の演出にも気遣った。

大国外交へかじを切ったターニングポイントは昨年11月、北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)だ。習近平総書記は同会議で初めて「アジア太平洋の夢」を提唱し、福祉への貢献や経済の活力強化、人的交流の緊密化によって、「人々が安らかで満ち足りた生活を送ること」の実現を宣言した。2016年には主要20か国・地域首脳会議(G200サミット)の議長国にも決まった。

習氏はAPEC首脳会議開幕の演説で、APECの機能強化に1000万ドル(約11億5000万円)を拠出し、貿易や投資分野で今後3年間1500人の人材育成を行うことを表明。同会議直前には、中国が提唱する経済圏構想「21世紀海上シルクロード」「シルクロード経済ベルト」に400億ドル(約4兆6000億円)を投じる基金の創設も公表した。

李向陽・中国社会科学院アジア太平洋グローバル戦略研究院院長は「地域のインフラ整備を主要議題として提唱したことは、これまでのように発展途上国を口実に臆していた立場を改め、新興の大国として地域に公共財を提供する姿勢を示したものだ」と指摘する。

中国は発展途上国の立場を主張し責任を回避してきた時代から、米国と肩を並べる大国関係を訴え、アジアを主導する外交を本格化させたと言える。背景には、財政と貿易の「双子の赤字」を抱えた米が影響力を低下させる一方、中国などの新興5か国(BRICS)が連携し、ドルを基軸とする米主導の国際通貨・金融

体制で発言力を高めようとしている世界経済秩序の地殻変動がある。
一方、APEC直後に開かれた外交政策に関する最高協議機関の中央外事工作会議で習氏は、「中国の特色を持った大国外交」を掲げ、「中国の発展の道や社会制度、文化伝統、価値観」の堅持を強調した。背景には共産党独裁下での市場経済化によって、国内総生産(GDP)で米国に次ぐ経済大国になった自信がある。

習氏はそれを社会主義の道、理論、制度に対する「三つの自信」と総括し、経済成長を政権の合法性に結びつけている。市場経済化によって政治的自覚を持った中産階級が出現し、西側モデルの民主社会に移行する仮説とは裏腹に権威主義体制が正当化されている。

こうして生まれた「中国の夢」は列強の侵略を受けた近代の屈辱をバネに、個人よりも国家の利益に重きを置く「中国的特色を持った社会主義」のスローガンだ。改革開放を主導したトウ小平が「社会主義の優位は決めればすぐ実行できること」と述べたように、国家主導の資本主義が生むハードパワーに重きが置かれる。

一方、生産年齢人口(15~59歳)が12年に減少に転じ、高成長が望めない中、成長のひずみによる経済格差や環境破壊を改善し、生活の質を高めることが合法性を維持するための新たな課題だ。「科学技術による技術革新能力が弱い」(習氏)現状を克服し、高付加価値な産業を振興する構造改革も求められる。そのためには、自由な発想や研究、公正な市場に支えられたソフトパワーが不可欠だ。

習氏も「文化ソフトパワーの向上は国際的な地位、影響力にかかわり、中華民族の偉大な復興という中国の夢にかかわる」(2013年12月30日の党中央政治局集団学習)と認めている。

だが、現在進められている党の全面的改革は「市場の決定的役割」と「国有経済の主導的役割」を混在させ、「党の指導を堅持」した法治建設を目指している。習政権は中央集権化で思想イデオロギー統制を強化しており、ソフトパワー強化とは逆行している。

李院長は「2001年、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した際、国内では『オオカミがやってくる』と不安が高まったが、結局、国際ルールの圧力によって中国企業も競争力を強化した」と対外開放の国内効果を指摘するが、大国の責任には公正で公平なルール制定への主体的な参画が含まれる。

その際、矛盾だらけの中国式ルールが適用されれば、「開放・包容・透明」といった価値観に基づく自由貿易システムはゆがめられる。「アジア太平洋の夢」が「中国の夢」の延長に過ぎなければ、大海の包容力は持ち得ない。

中国にとって、これまで国際ルール作りを主導し、革新的産業を生んできた米国との関係強化が不可欠だ。GDPの総量では米国の半分を上回っているが、1人当たりでは8分の1にとどまる。昨年の第6回米中戦略・経済対話では、安全保障からエネルギー、気候変動、環境、科学技術まで幅広いテーマが協議され、協力リストは前回比25増の計116項目となった。

国有企業の会計透明化や取締役会の人選規範化など踏み込んだ中国国内改革プランが話し合われ、企業協力を促進させる2国間の投資協定では今年、規制業種を定めるネガティブリストの交渉に入ることが決まった。中国は米国との経済関係強化によって世界に通用するソフトパワーを身につける戦略で、2013年10月に発足した上海自由貿易試験区がその実験場である。

昨年7月下旬、上海の米系食肉会社が品質期限過ぎの肉製品を出荷していた問題が発覚したが、同社と取引があったマクドナルドの中国国内店は変わらぬ客足だった。「安全が強化されるので安心」という外資への信頼が消費者心理にある。中国でマクドナルドやケンタッキー、スターバックスのない繁華街を探すのが難しいほど、米産業のソフトパワーは中国のコピー文化の前で優位を保っている。

一方、米は知的財産権の保護を求めてソフトパワーの弱体化を防ぎながら、中国の内需拡大で米企業の輸出を増やし、雇用の創出につなげたい。米中は相互に重要な貿易相手国で、中国は米国債の最大保有国だ。相互の利害が錯綜する中で各分野での国際ルール作りが動き出しており、日本も積極的に関与していく必要がある。

在中の日本人エコノミストは「ハイレベルの経済対話再開によって、市場化改革を進める中国企業や金融機関の日本でのビジネス展開など、双方向の流れを作るべき」と指摘する。(了)

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1 コメント

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your unpublished article (John)
2015-08-09 19:16:24
公正な視野で分析された記事だと思います。米中間も日中間も経済的な関係が深いことは、明白な事実です。経済大国二位の中国が、三位の日本を侵略し、一位の米国が日本を守るシナリオは、あり得ないと思います。安倍政権が邁進する安保法案は違憲なだけではなく、現実的妥当性も破綻しています。もし、日本が常任理事国の中国を攻撃をしたら、国連の条項に基づいて日本への制裁戦争(敵国条項)の可能性も排除出来ず、非情に危機感が募ります。
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