「あれは、灯篭でしょうか?」
「そうですね、燭台というか、夜、蝋燭を灯して中に入れておくんですよ。綺麗な物です。灯がね。」
夜来られると本堂はこの燭台に点る灯りが、ずらっとこの廊下の上に並んで、おかげで結構幻想的な雰囲気になりますよ。
そう微笑んで光君の祖父は説明する。
「あんたさん、何でもご存じなんですねぇ。」
蛍さんの祖父は感心して光君の祖父を見やった。
普段とは違う幻想的な燭台の灯り達の風景、光君の祖父はその光景が好きで、
気が向くと用も無いのにわざわざ夜にこの本堂まで灯りを見るために足を運ぶ時もあったのでした。
『私の好きなこの灯篭型の燭台が、よりにもよってあの子の頭に落ちるなんて…』
何か不思議な因縁、胸騒ぎを感じる光君の祖父なのでした。
その時、本堂の奥、墓所の方の廊下の端から、光君の母が顔を出しました。
切羽詰まったようなその顔の雰囲気、憔悴したような、悲壮な何かを訴えるような娘の表情。
光君の祖父は何かしらの悪い予感が当たった事を感じるのでした。
「父さん」
遠慮したような小さな声で本堂の脇から娘は父を呼ぶのでした。
「何だい、用があるならこっちへおいで。」
と父は手招きしますが、娘の方は廊下の端でうろうろと、こちらへ来るのを躊躇っています。
「如何したんだろう、変な娘だ。」
光君の祖父が蛍さんや彼女の祖父に遠慮して、その場を離れられ無いでいる事に蛍さんの祖父は気付きました。
「こちらはいいですから、行って来られるとよいですよ。」
そう蛍さんの祖父が申し出ると、光君の祖父はどうもと喜び、あなたは気が利く人ですねと一言お礼のように言うと、
「では、一寸行って来ます。またすぐに戻りますから。」
そう言ってから、思い切ったようにきちんと蛍さんの祖父に向き直ると再び言った。
「家の孫が、お宅のお孫さんに対してとても酷い事をしてしまい、大変申し訳い事でした、お詫びいたします。」
と、まだ寝ている蛍さんの顔を見やり、その祖父を見て一礼すると、急いで立ち上がり、彼の娘の方へと去って行くのでした。